兄たち、今さら後悔しても遅い第3話
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古びた木の扉の隙間から、見慣れた豪奢なドレスがひらりと揺れた。
次の瞬間、少女が兄たちの胸に飛び込む。
「お兄さーん!」
遥斗は慣れた手つきで花音を抱き上げ、嬉しそうにその場でくるりと回る。
蒼鳥も絃も、鈴のような笑い声を聞いてうっとりと目を細めた。
彼女をそっと下ろした遥斗は、わざと眉をひそめて叱るふりをする。
「どうしてここに来たんだ。ここはゴミ置き場みたいな場所だぞ。体が弱いのに病気になったらどうする。ホテルのスイートで待ってろと言っただろ。……もし藤乃に見られたら」
残念ね。私はもう見てしまった。
彼が「ゴミ置き場」と呼んだこの場所で、私は二十年暮らしてきたのに。
「だって花音、兄さんたちに会いたかったの。一緒に年越ししたいもん」
花音は手を絡めて甘えた声を出す。
「ねえ、今夜は一緒に映画に行ってくれる? 最後に連れてってくれたの、もう三日前じゃない」
三人は困った顔をして、ちらりとボロアパートを振り返る。
花音はその視線に気づき、眉を寄せてみせた。
そして次に顔を上げた時には、涙で濡れた瞳がきらきらと揺れていた。
「遥斗兄さん……私、もう『唯一の妹』じゃないの?」
そして楚々とした瞳で蒼鳥を見上げる。
「蒼鳥兄さん……私を泣かせないって約束したよね?」
絃がうろたえていると、彼女はうつむき、か細い声でつぶやいた。
「絃兄さん……私、もう一番愛されてないの?」
「違う!妹は花音だけだ。誰が何を言おうと、君は俺たちの宝物だ!誰にも君を傷つけさせはしない!」
蒼鳥が慌てて言葉をかぶせた。
花音は唇を噛みしめ、涙を落とす。
「じゃあ……藤乃姉さんのせいなの? 一緒にいてほしいって言ったから?
まあ……あの人はあなたたちを助けるためにあれだけ犠牲を払ったんだし、やっぱりそっちに行ってあげたほうがいいんじゃない?」
「違う、違うんだ!映画を見たいって言うから、俺たちは君のために特別なシアターを用意したいんだ。だから一度ホテルに戻って待っててくれ」
「ほんとに? やっぱり兄さんたちは花音だけを愛してくれるんだね」
花音は頬を赤らめ、甘えるように彼らに抱きついた。
幸せそうな四人の背中が遠ざかる。
私は床に爪を立て、血がにじむまで引っかいた。
そのとき、扉がけたたましい音を立てて蹴り破られる。
「おい、この役立たず! 今月の家賃まだだろ、さっさと出て行け!」
刺青だらけの腕が伸びてきて、私は引きずり出される。
「や、やめて! すぐに……すぐに払うから!」
必死に大家の足にすがりつき、額を床に打ち付けて謝った。
その様子に、大家の表情はわずかに和らいだものの、彼女は鼻で笑い、「どうせ時間稼ぎなんでしょ! なら半分でも今すぐ出しな。できないなら荷物をまとめて出て行きな!」と言い放つ。
私は震える手で携帯を取り出し、兄に電話をかけた。
「嘘じゃない……私にはちゃんと三人の兄がいるの。あの人たち、物忘れが激しいだけ……だから、お願い、もう少し待って……」
「これが最後よ! 信じてあげるのは!」
けれど。
いつもワンコールで出る遥斗は、接続した瞬間に通話を切った。
無機質な音声が、私に「終わり」を告げる。
信じられず蒼鳥にかける。出ない。
絃にかければ、今度は無情に切られる。
次の瞬間、携帯は大家に奪われ、足元で粉々に踏み潰された。
「ほら見ろ。兄なんていないんだろう? 本当にいるなら、こんな状態で見捨てるはずないだろ。怪我人だからって一ヶ月も待ってやったけど、家賃を払わない奴なんて、これ以上置いとけるか!」
私は這うように床を進み、砕け散った携帯を胸に抱きしめた。
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