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元カノを優先する彼との三年に終止符を第2話

この話は約1904字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

彼は言った。栞里は足に障害が残り、ひどく心を病んでいて、少しでも刺激を与えれば、心が折れてしまいそうなほど脆いのだと。

彼は言った。今の彼女にはもう自分しかいないから、しばらくは私たちの関係を隠してほしいと。

彼は言った。栞里に対して、もう恋愛感情なんて欠片もなくて、ただ友人として世話をしているだけだと。

私はそれを信じた。

でも、私は忘れていた。長年あれほど深く絡み合ってきた二人が、ただの友達でいられるはずがないのだ。

帰り道、車内の空気は息が詰まるほど重かった。

先に沈黙を破ったのは郁人だった。

「さっきは、栞里を刺激したくなかったから、話を合わせただけだ。変に考えるなよ」

私は窓の外を流れていく景色を見つめたまま、感情のない声で言った。

「説明しなくていい」

彼はしばらく黙ったあと、車を路肩に停めて、こちらを振り向いた。

「怒ってるのか?」

彼はいつものように、なだめるような仕草で私に身を寄せてきた。

「医者も、栞里の状態はだいぶ良くなってきてるって言ってた。もう少し落ち着いたら、ちゃんとしたタイミングを見て、彼女にきちんと話すから」

また、その言葉だった。

この三年で、もう何度聞かされたのかも覚えていない。

そして、それがただ私をその場しのぎで宥めるための口実にすぎないことも、もうとっくに分かっていた。ただ目の前の波風を立てないためだけの言い訳なのだと。

私は淡々と相槌を打った。

「うん」

彼は眉をひそめて、さらに問い詰めるように言った。

「今日、いったいどうしたんだ?」

分かっていた。彼がそう尋ねる時、本当に私を気にかけているわけではない。

ただ、慣れていないだけなのだ。

私が目を赤くして傷ついた顔を見せないことにも、頭を撫でられるのを待つペットみたいにおとなしくしないことにも、彼は戸惑っていた。もう私は、聞き分けのいいペットをあやすようなやり方で宥められる女ではなかった。

私は顔を上げ、静かに彼を見つめて、一語一語はっきりと口にした。

「郁人」

「ん?」

「あなたは、本当に私と結婚してくれるの?」

その瞬間、私は彼の目を見ていた。

そこにあったのは、ためらいと逃げの気配だけだった。愛情だけはひとかけらもなかった。

心が、少しずつ底へ沈んでいった。

その時、突然彼のスマホがけたたましく鳴り出した。

画面に表示されていた名前は、栞里だった。

郁人は一瞬で姿勢を正し、電話を取った。その声は、栞里に向ける時だけのやわらかな響きに変わっていた。

「栞里、どうした?どこか具合でも悪いのか?」

電話の向こうで何か言われたのか、彼の表情が一気に張りつめた。

「分かった、そのまま動くな。

今すぐ行くから、怖がるな」

電話を切ると、彼は私のほうを一度も見なかった。

「栞里がうっかり転んだらしい。俺、行って様子を見てくる。お前は自分でタクシー拾って帰ってくれ」

そう言いながら、彼はすでに私のシートベルトを外し、そのまま片手で車のドアを開けていた。

エンジン音はあっという間に遠ざかり、テールランプは重たい夜の闇の中へ消えていった。

彼と同じように、そこには私への未練なんてほんの少しもなかった。

自分がいったいどれくらい歩いたのか、もう覚えていない。

ただ、家に着いた頃には、両足にはもう靴擦れの水ぶくれが潰れて血がにじみ、一歩進むたびに刺すような痛みが走っていた。

見慣れたその扉を開けると、室内からあたたかな黄色い灯りがこぼれ出た。

ここは私たちの新居だった。私が何度も思い描いてきた、二人の家だった。

けれどそれも、郁人が私を宥めるために買っただけのものだった。

淡いベージュのソファ、木目のダイニングテーブル、壁には幼い頃から今までの私たちの写真が飾られていた。

幼稚園で手をつないで写った写真、高校で肩を並べて撮った写真……

どの古い写真の中でも、彼は私の髪をくしゃっと撫でながら、目元をやわらかく細めて、清潔で優しい笑顔を見せていた。

でも、そうした光景は私の記憶と一緒に、少しずつぼやけて色褪せていった。

いちばんはっきりしているのは、私たちが付き合ってから撮ったあの一枚だけだった。

その写真の彼は、ただぎこちなく私の隣に立っているだけだった。口元にはかろうじて笑みを浮かべていたけれど、目はまったく笑っていなかった。

十年に及ぶ片想いは、蔦のように私の青春に絡みつき、長いあいだ私を縛りつけていた。

そして今日、その蔦もようやく枯れ落ちた。

どれくらい時間が経ったのか分からない頃、玄関の鍵が回る音がした。

郁人が帰ってきた。

外の冷えた空気をまとったまま、彼は目元に疲れを滲ませていた。

そして、私の足にできた赤く腫れて皮の剥けた靴擦れを見た瞬間、彼の目がかすかに揺れた。

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