元カノを優先する彼との三年に終止符を第1話
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私、橋本真緒(はしもと まお)の幼なじみの高城郁人(たかぎ いくと)が、ついさっき私に想いを告げてくれたばかりなのに、その元恋人の森田栞里(もりた しおり)が交通事故に遭った。
病院の廊下で、郁人の声だけがやけにはっきりと響いた。
「栞里は今、刺激しないほうがいいんだ。悪いけど、しばらく我慢してくれ。俺たちのことは彼女に言わないでほしい」
真剣な眼差しを向ける彼を見て、私はそっと頷いた。
けれど、その「我慢」が、まさか三年にも及ぶなんて思ってもみなかった。
彼は彼女のために栄養食を作り、リハビリに付き添い、ありったけの優しさを彼女に注いだ。
そのくせ、私がたまに不満をこぼすと、だんだん苛立ちを隠さなくなっていった。
「真緒、変なこと考えるな。今はただ、栞里が俺を頼りにしてるだけだ。元気になれば、ちゃんと元に戻る。
栞里に友達として責任を果たしてるだけだ。
だから、もうこれ以上困らせるな……」
一度や二度じゃなかった。そのたびに彼は、まるで本心からだと言わんばかりに言い切った。
けれど、温かい手料理の入った保温ポットを手に病室の扉を開けた瞬間、キスを交わしている二人の姿が目に飛び込んできて、そのとき初めて思い知った。
最初から最後まで、自分がどれほど愚かだったのかを。
その場で立ち尽くす私に気づくと、栞里はやわらかな笑みを浮かべた。
「真緒、いい報せがあるの。私たち、よりを戻したのよ。あなたも早く彼氏を見つけなきゃね。真緒が幸せになるところを見たいわ」
固くつながれた二人の手を見つめながら、私は目の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「実は私にも彼氏はいたの。でも、さっき……別れたの」
* * *
私、橋本真緒(はしもと まお)の幼なじみの高城郁人(たかぎ いくと)が、ついさっき私に想いを告げてくれたばかりなのに、その元恋人の森田栞里(もりた しおり)が交通事故に遭った。
病院の廊下で、郁人の声だけがやけにはっきりと響いた。
「栞里は今、刺激しないほうがいいんだ。悪いけど、しばらく我慢してくれ。俺たちのことは彼女に言わないでほしい」
真剣な眼差しを向ける彼を見て、私はそっと頷いた。
けれど、その「我慢」が、まさか三年にも及ぶなんて思ってもみなかった。
彼は彼女のために栄養食を作り、リハビリに付き添い、ありったけの優しさを彼女に注いだ。
そのくせ、私がたまに不満をこぼすと、だんだん苛立ちを隠さなくなっていった。
「真緒、変なこと考えるな。今はただ、栞里が俺を頼りにしてるだけだ。元気になれば、ちゃんと元に戻る。
栞里に友達として責任を果たしてるだけだ。
だから、もうこれ以上困らせるな……」
一度や二度じゃなかった。そのたびに彼は、まるで本心からだと言わんばかりに言い切った。
けれど、温かい手料理の入った保温ポットを手に病室の扉を開けた瞬間、キスを交わしている二人の姿が目に飛び込んできて、そのとき初めて思い知った。
最初から最後まで、自分がどれほど愚かだったのかを。
その場で立ち尽くす私に気づくと、栞里はやわらかな笑みを浮かべた。
「真緒、いい報せがあるの。私たち、よりを戻したのよ。あなたも早く彼氏を見つけなきゃね。真緒が幸せになるところを見たいわ」
固くつながれた二人の手を見つめながら、私は目の奥がじんと熱くなるのを感じた。
「実は私にも彼氏はいたの。でも、さっき……別れたの」
その言葉が落ちた途端、郁人の身体がはっきりと一瞬こわばった。
栞里は申し訳なさそうな声を出した。
「真緒、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの」
私は口元をわずかに引きつらせた。
「大丈夫」
「でも、どうして別れちゃったの?」
どうして、なのだろう。
たぶん私は、誰にも言えない関係を三年ものあいだ守り続けてきたからだ。
そして今、もう守るのをやめたくなった。
彼女は車椅子を寄せながら近づいてくると、物わかりのいいお姉さんみたいに私の手をぽんと叩いた。
「人と人がこうして出会えたのも縁なんだから、少しのことで別れてしまうなんてもったいないわよ。
ほら、私と郁人だって、あの頃は若気の至りで離れただけだったの」
栞里はそう言って彼のほうを振り向き、目元に甘い笑みをにじませた。
「でもよかった。こうして、また一緒になれたんだから」
しばらくのあいだ、部屋には私たち三人の、重なり合わない呼吸の音だけが静かに漂っていた。
私は気づかれないようにそっと手を引き戻し、かすかな笑みを作った。
「ちょっとしたことでもなかったし、若気の至りでもなかった。
彼の心の中には、まだ別の人がいたから」
栞里は唇をきゅっと結び、気まずそうに曖昧な笑みを浮かべた。
私は顔を上げ、彼女越しにまっすぐ郁人の目を見た。
彼は眉をきつく寄せ、表情を強張らせたまま私を見つめていた。何を考えているのかは分からなかった。
しばらくして、彼は前に出ると、ごく自然な仕草で私の手から保温ポットを受け取った。指先が不意に私の手の甲をかすめ、ほんのわずかに触れた。
慰めだったのか、それとも牽制だったのか。
私には分からなかった。
私はその場に立ち尽くしたまま、二人を見つめた。あまりにもお似合いで、まるで最初から結ばれる運命だった恋人同士みたいだった。
それも当然だった。もともと二人は付き合っていたのだから。
彼女は、郁人が大学時代に付き合っていた恋人だった。頭がよくて、きれいで、眩しいほどに人目を引く人だった。
その関係は、一時は結婚の話まで出るほど真剣なものだった。
まさか卒業の年に、彼女が金持ちの御曹司のために、あんなにもきっぱりと郁人に別れを告げるなんて、誰も思っていなかった。
郁人は丸一か月、自分の部屋に閉じこもった。
酒に溺れ、眠れなくなり、見る影もないほど痩せ細っていった。
私は冷たい床に座り込んで、ぼんやりする彼のそばにずっといた。一日中そうしていても、言葉を交わすことはほとんどなかった。
彼の荒れ果てた姿を家族に知られないよう、私は必死に隠し通した。
私はずっと見てきた。失恋のどん底から這い上がり、起業して、必死に働きながら、少しずつ会社を軌道に乗せていく彼の姿を。
そしてある日、何の前触れもなく彼が私にこう言った。
「真緒、俺たち、付き合おう」
やっと、ずっと願っていた幸せが自分のものになるのだと思った。
けれど、それはただ、運命に弄ばれていただけだった。
付き合い始めてまだ数日しか経っていない頃、栞里は交通事故に遭った。
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