偽りの誓い、私だけの星第2話
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二人の視線が交わる。
克己の呼吸がかすかに乱れ、瞳の奥にはっきりとした動揺がよぎった。
「純夏?どうしてここに」
純夏はじっと見つめ返した。やがて、静かな声で口を開く。
「高橋さんから、書斎でお叱りを受けていると聞いて。心配になって、戻ってきたの。私の手術のことで、またお義父様たちに何か言われたの?」
克己の視線が、純夏の抱える救急箱へと落ちる。それから気を取り直すように言った。
「今までも何度もこうやってやり過ごしてきたんだ。今回も同じだよ。安心してくれ。君のためなら、僕は絶対に折れない」
そう言いながら、克己の目は無意識にスマホへと流れていく。
取り繕うような優しさに、純夏はふと笑みをこぼした。「用事があるなら、先に行って。私は一人で帰れるから」
克己は急いで去っていき、階段の向こうへ足音が消えていった。
耕造と朋恵が去り、書斎に純夏だけが残されると、その顔から笑みが消えた。そして初めて、自分の足で書斎の中へと踏み込んだ。
壁に掛けられた絵は克己が大事にしていたもので、以前、高橋が掃除中に額縁をうっかり動かしてしまったとき、珍しく声を荒げたことがあった。
今、純夏は手を伸ばし、そっとその額縁を押しのけた。絵の裏には、小さな隠し部屋があった。
隠し部屋の壁一面を埋め尽くしていたのは、すべて灯里の写真だった。
十歳の誕生日、克己の服の裾を引っ張って笑う灯里。卒業式、花束を抱えて克己に飛びつく灯里。
純夏は一枚一枚、表情も変えずに見ていった。
そして、隅にあった一枚の写真に目が留まった。ロンドン・アイを背景に並んで立つ、克己と灯里の写真だった。
右下には手書きで日付とひと言が添えられていた。
【灯里の二十三歳の誕生日。ホームシックだと言っていたから】
その日のことを、純夏もはっきりと覚えている――あれは、自分が急性虫垂炎の手術を受け、病室の外で四時間も克己を待っていた日だ。
クリスマスイブ、克己は海外まで飛んで灯里のために盛大な花火を上げ、こう書き残していた。
【灯里が、いつも健やかで幸せでありますように】
その日は、純夏たちの結婚一周年の日だった。冷めていく料理を前に一人待ち続け、克己から届いたのはたった一言。【忙しい、出張中だ】
灯里がコンビニでアルバイトをしている姿をこっそり撮った写真には、こう書かれていた。【灯里がこんな苦労をしてるなんて、見ていられない】
その日、純夏は過去のトラウマの後遺症で発作を起こし、七度目の入院をしていた。
カウンセリングルームでパニックを起こし、手当たり次第に物を壊し、最後には部屋の隅でうずくまり震えていた。
翌日、慌てて駆けつけた克己は、純夏を抱きしめてこう言った。
「純夏、怖がらなくていい。もう終わったことだから。怖がらないで、僕は絶対に君を置いていかない」
しかし現実は、克己はもう何度も純夏を置き去りにしていたのだ。
写真の下に添えられた手書きの記録は、まるで鈍い刃物のようだった。この五年間、幸せだと信じ込んでいた記憶を、ゆっくりと、少しずつ切り刻んでいく。
純夏は絵を元の位置に戻し、病院に電話をかけた。
「高木先生、小野木です。母の転院手続き、一番早くていつになりますか」
電話を切ると、大学時代の友人の連絡先を開き、もう一件電話をかけた。
「もしもし、純夏です……」
克己が家に帰り着いたのは、すでに午前三時を過ぎた頃だった。
リビングには間接照明だけが点灯しており、純夏はソファにもたれて眠っていた。膝の上のノートパソコンの画面は、まだ点いたままだった。
克己は身をかがめ、寝室へ運ぼうと抱き上げようとする。
肩に触れた瞬間、純夏ははっと目を覚まし、真っ先にパソコンの画面を閉じようとした。
その動きが速すぎて、克己には一瞬、画面が見えてしまった。いくつかの評判のいい病院の紹介ページだった。
「何を見てたんだ?」
純夏はパソコンを閉じながら答えた。「ちょっとね。母の体調が良くないから、もっといい病院がないか探してただけ」
克己は隣に腰を下ろした。「そういうことは僕が手配するから」
純夏の落ち着いた横顔を見つめながら、克己は胸の奥に押し込めていた不安が、また頭をもたげるのを感じていた。
言葉を選びながら切り出した。「今日、本家にいたのは……本当に、ちょうど来たところだったのか?」
純夏はまっすぐ克己の視線を受け止めた。その目は澄み切っていた。
「そうよ、何がおかしい?それより顔色が悪いね。何かあったの?どうしてこんなに遅くなったのかしら」
克己は無意識に視線をそらした。「友人のトラブルの処理を少し手伝っていたんだ」
「前に話してた、ご両親があなたの恩人だっていう人?」純夏が言った。
それを覚えていたことに、克己は少し驚きながら頷いた。「帰国してから環境になじめなくて、精神的に不安定になって、夜中まで付き合わされていたんだ」
「そう」純夏はさらりと言った。「だったら、うちに来てもらえばいいんじゃない。ゲストルームは空いてるし、一人ぼっちで放っておかれるよりはましでしょう」
克己は驚いた様子だった。
「本気で言ってるのか?誰であっても構わないのか?」
「もちろん」純夏の口調は自然で、微笑みさえ浮かべていた。
「家にいってもらったほうが、目も届きやすいでしょう。それに、あなたが大切にしている人なら、私も大切にしたいから」
克己は純夏を強く抱きしめた。声は髪に埋もれてくぐもっていた。
「純夏、君はいつも、本当に優しいな」
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