偽りの花束、灰に帰す愛第2話
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翌朝早く、成景と陽向はすでに姿を消していた。
枝織は成景のSNSに残された僅かな痕跡――不自然な「いいね」の履歴やフォローリストの隅々までを執拗にたどり、ついにあの女のアカウントを突き止めた。
あの女のハンドルネームも「陽菜」だった。
枝織は裏垢で相手をフォローし、通知をオンにした。案の定、その日の夜には、相手の新しい投稿がフィードに流れてきた。
三着のお揃いの親子コーデの写真。
そして、幸せそうなコメント。
【やっと旦那さんと息子と一緒に、島で親子コーデが着られる】
もともと、彼らの家族旅行の行き先はあの島だった。
おかしなことに、成景は今、自分だけを置き去りにして、あの女と息子を連れて行くつもりなのだろうか?
陽向は他人と同じ服を着るのを極端に嫌がった。枝織が何度頼んでも、彼は眉をしかめて拒否した。
だから、彼ら家族が親子コーデを着たことは一度もなかった。
庭で車の音が響き、枝織は回想から引き戻された。
「ママ」陽向が大人のように落ち着いた声で彼女を呼んだ。
傍らの車のドアが開き、ある女の白く細い脚が伸びてきた。あの写真で見た親子コーデを身に着けていた。
続いて、あの女の顔が枝織の目の前に現れた。
「こちらは安西先生」
陽向が紹介し終えると、相手は突然しゃがみ込み、彼の頬にキスをした。
その光景が枝織の胸を刺した。
陽向は他人にキスされるのが嫌いなはずだった。
だが陽向は拒否せず、むしろ唇を引き結び、少し照れくさそうに笑っていた。
陽菜はハイヒールの音を鳴らして歩み寄ると、枝織の目の前でぴたりと立ち、手を差し出してきた。
枝織は彼女の手に結婚指輪がはめられているのに気づいた。
枝織は目を伏せた。「奇遇ね。安西先生の結婚指輪、私のとそっくりだわ」
「そう?」陽菜は艶やかに微笑んだ。その笑みには得意気な色と意味深な響きが混じっていた。「この指輪、夫が特別に買ってくれたものなのよ」
枝織は結婚指輪を決めた時のことを覚えていた。デザインを決めたのは成景だった。
枝織はそうしたものに疎く、成景に任せると言った。
彼はカウンターに行くと、すぐにこのデザインを選んだ。
枝織は成景が結婚式に対して準備万端で、計画的だったのだと思っていた。だがまさか、妻である自分の結婚指輪でさえ、「ついで」だったとは。
「和泉先生、神谷社長から聞いた?しばらくお邪魔することになりそうよ」
その言葉に、枝織はわずかに固まった。
問いただす前に、一台のリンカーンがそばに停まった。
成景が車から降り、陽菜とは一線を画すように、すぐに枝織の腰を抱いた。
「安西先生、もう来てたんだ?」
成景は枝織に向き直り、説明した。「枝織、もうすぐ家族旅行だろう?陽向の勉強が遅れるのが心配でね。特別に安西先生に来てもらって、先に授業を進めてもらうことにしたんだ。
安西先生の住まいは遠いから、便宜上、この期間はうちに泊まってもらう」
陽菜はうっすらと笑みを浮かべ、枝織に向ける視線には隠しきれない挑発の色があった。
「和泉先生、まだ握手してくれてないわ」
枝織は手を伸ばし、陽菜の手を握った。
陽菜は眉を上げ、軽い声で言った。「初めまして、和泉先生。私の名前は……
安西陽菜(あんざい ひな)です」
枝織はその場で凍りついた。考えるより先に、無意識に口が開いていた。
「安西陽菜?」
陽向が寄ってきて、得意満面だった。「すごくいい名前でしょう?安西先生の名前、僕の『陽』の字と同じ漢字が入ってるんだ!」
枝織は素早く手を引いた。はっとしたように成景を見つめ、思わず思った。
息子の名前を付けた時、彼の心と目にはずっとこの隠された愛人の姿が映っていたの?
枝織は麻痺するほどの心痛を感じ、声もか細くなった。「ええ、とても素敵ね」
素敵すぎて、吐き気がした。
枝織はもう笑えなかった。彼女は素早く身を翻し、家の中へ向かった。
成景が心配そうに言った。「枝織、大丈夫か?」
成景が後を追ってこようとした時、陽菜が甘えた声を出した。「神谷社長、私の部屋はどちら?」
成景はためらいがちに枝織を見た。「枝織、先に安西先生を部屋に案内してくる。すぐに君のところへ行くから」
だが、成景が戻ってくることはなかった。
枝織は二階の窓辺に立ち、庭で陽菜が陽向のブランコに座り、成景が彼らを見つめているのを見ていた。
ブランコは陽向の一番のお気に入りだ。
それが設置されたばかりの頃、枝織がほんの少し腰掛けただけで、陽向は火がついたように泣き叫び、彼女をそこから追い払ったのだ。
「座らないで!これは僕のブランコだ!僕のブランコに座っちゃダメ!」
だが今、そこには陽菜が座り、陽向が彼女の背中を押していた。
二人はとても楽しそうに笑っていた。
その様子に、成景もまた穏やかに微笑んでいた。
彼らこそが、幸福な三人家族……
枝織はずっと深夜まで待っていた。
ようやく成景からメッセージが届いた。【枝織、ごめん。急な仕事が入って、まだ帰れそうにない】
枝織は再び陽菜のSNSアカウントを開いた。
ダイレクトメッセージのアイコンに、未読を知らせる青いマークがついた。
彼女は戸惑いながらトーク画面を開くと、陽菜からのメッセージが目に飛び込んできた。
【和泉先生、私のアカウントを覗き見するのって、刺激的じゃないかしら?】
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