偽りのプラトニック、幻の花に散る執着第2話
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次の日、また真白が私を訪ねてきた。
「石井先生の腕時計、私のカバンに入っちゃってましたよ」
歩き方が少しぎこちなかったけど、幸せいっぱいの笑みを浮かべていた。
「この時計、本当に素敵ですね。新港市中を探したって、二つとないんじゃないですかね」
相手の羨ましそうな言い方を聞いても、私は冷たく一瞥しただけで、手さえ差し出さなかった。
「気に入ったなら、あげるよ」
真白は口元に笑みを浮かべ、腕時計を机の上に置いた。
「遠慮しておきますわ。私、盗み聞きされる趣味はないですもの」
私の手が、ぴたりと止まった。
真白は私の前に座ると、頬杖をつきながら笑顔で尋ねてきた。
「石井先生、昨日の夜は存分に楽しめてもらえたでしょうか?よく聞こえるように、わざわざカバンを寝室まで持っていったんですから。
あら、違う違う。聞こえなかったところもあったでしょう?だって豪さんは、寝室だけじゃなくて、他の場所でするのも好きですから」
得意げな真白の笑みを見る。
それで分かった。真白は全部知っていたんだ。
私が黙っていると、真白は親切そうに自分のスマホを取り出して、録音データを再生した。
「豪さん、私と奥さん、どっちが好きなの?」
「あいつに、お前みたいな色気はない」
豪の動きは激しく、声も一層かすれていた。
「お前の医者、腕は確かだな」
真白はスマホをしまい、意地悪な笑みを浮かべた。
「石井先生、これから、もっとお世話になるかもしれません。
『旦那』さん、すごく気に入ってるみたいですよ」
「旦那」という言葉を、真白はわざと引き延ばすように言った。
私が期待したような反応を見せないので、真白は逆に少しがっかりした様子だった。
「豪さんが、あなたのことマグロみたいだって言ってたけど、本当なのですね……きゃあっ!」
私は手を伸ばし、彼女の髪を掴んでいた。
彼女が痛みに叫ぶと同時に、思い切り二度、平手打ちを食らわせた。
「よくも私に手を出したわね!」
真白は髪を押さえて甲高い声を上げた。
私は彼女の髪を掴んだまま、ドアの方へと引きずっていった。
「そんなに誇らしいなら、私が手伝ってあげるわよ。あんたがどれだけみだらな女か、病院中の人にじっくり見てもらいましょうね!」
その時、突然ドアが開いた。
「豪さん!」
真白は泣きながら私の手を振りほどくと、豪に飛びついた。
「私、ただ石井先生に腕時計を返しに来ただけなのに……いきなり泥棒猫って言われて、顔もこんなに酷く引っかかれたの」
真白の顔にくっきりと残る指の跡を見て、豪は眉をひそめた。
私は何も言わずに、まっすぐ豪を見つめた。
真白の目に得意げな色が浮かんだその時、豪は後ろに控えていた秘書の直也に淡々と命じた。
「彼女を家まで送り届けてくれ」
「豪さん!」
真白は信じられないといった表情だった。
しかし、豪は彼女を軽く一瞥しただけだった。
「自分の立場をわきまえろ。俺の妻は、永遠に一人だけだ」
場が静まり返った後、豪は私の赤くなった手をとり、そっと息を吹きかけた。
「痛かっただろ?あんなやつの相手なんかするなよ、いちいち腹を立てる必要ないだろう」
「離婚しよう」
「なんだと?」
私は手を引き抜き、一語ずつ丁寧に、もう一度繰り返した。
「豪、離婚しよう。私たち、もう終わりよ」
豪は一瞬きょとんとしたが、私の真剣な表情を見ると、クスっと笑った。
「睦月、よく考えろ。俺と離婚したら、本当に終わるのはお前のほうだぞ」
それでも私は動揺しなかった。
豪は眉をひそめた。「俺に女ができたからって、そんなに大騒ぎするのか?」
彼はまるで理解できないといった様子だった。
「お前も知ってるだろ。この世界じゃ、みんなそうしてるんだ。
結婚して何年も経つのに、俺には真白一人だけだ。他の連中に比べたら、よっぽどマシな方だろう」
私が黙っていると、豪の顔はすっかり険しくなった。
「社長!」
その時、直也が血相を変えて駆け戻ってきた。
「大変です!小川さんが、外で車にはねられました!」
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