二十年遅れの「公平」なんて、もういらない第2話
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荷物が多すぎて、床にはもう置き場所すら残っていなかった。
それでも入りきらなかったのか、姉の猫用トイレまで私の布団の上に置かれていた。
一瞬、頭の中が真っ白になった。
思わず振り返る。
リビングからは楽しそうな笑い声が聞こえていた。
ちょうど母と目が合った。
布団の上の猫用トイレも、どうしていいかわからず立ち尽くしている私も、見えていたはずだ。
けれど母は、ちらりと見ただけで視線を戻した。
こんなことは、今に始まったことじゃない。
昔は、私にも自分の部屋があった。
きっかけは、姉が「自分の部屋だけ兄より一畳くらい狭い」と泣いて騒いだことだった。
困った父と母は、私の部屋の半分を姉の服やバッグを置く場所にした。
それを知った兄は、何も言わなかった。
ただ、あからさまに機嫌を悪くしてドアを乱暴に閉め、その日は夜まで帰ってこなかった。
すると今度は、残った半分まで兄のゲームスペースになった。
私は自分の部屋を追い出され、冬は寒く、夏はひどく暑い納戸で寝起きするようになった。
外ではまだ雨が降っている。
窓枠から入った雨水が、窓辺にたまっていた。
たまった雨水を見ているうちに、ようやく気づいた。
この家で何かが足りなくなるたび、いつも押し出されるのは私だった。
前は自分の部屋。
今度は、眠る場所までなくなった。
私は扉を閉め、向こう側の笑い声を遮った。
その晩は眠れなかった。
そもそも、横になれる場所さえなかった。
翌朝早く、大学の留学担当者から電話があり、大学へ向かった。
「交換留学の学内選考、通りましたよ」
ずっと待っていた知らせだった。
けれど、まだ一つ手続きが残っていた。
「長期の海外留学なので、こちらの書類に保証人の署名が必要なんです。
ご家族には、もうお話しされていますか?」
服の裾をつまんでいた手に、力が入った。
それでも笑って答えた。
「大丈夫です。なんとかします」
書類を受け取って大学を出たところで、母と姉に鉢合わせた。
姉は目を真っ赤にして、母の腕にしがみついていた。
「お母さん、もうやだ。朔人はバスケの大会で優勝したのに、私だけ何もないんだよ?
何の賞もないなんて恥ずかしいし、不公平じゃん!」
母は何度も姉をなだめていた。
昔なら、その親しげな姿を見るだけで、羨ましくて仕方なかった。
けれど今は、もうほとんど何も感じなかった。
そのまま通り過ぎようとすると、母に手首をつかまれた。
「琴音、ちょうどよかった。
この前、デザインコンテストで最優秀賞を取ったって言ってたわよね?
そのときにもらったトロフィーと副賞、お姉ちゃんに譲ってあげられない?
受賞した実績は琴音に残るでしょう。お姉ちゃんは今、自分だけ何もないって落ち込んでるんだから」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「お母さん、あのコンテストのために私、ずっと……」
母は最後まで聞かずに遮った。
「大変だったのはわかってるわよ。でも、トロフィーを持ってたって仕方ないでしょう?
お姉ちゃんにあげれば済む話じゃない。琴音だって、家の中がまた揉めるのは嫌でしょう?」
胸の奥から、悔しさと怒りが一気にこみ上げた。
家の平和は、いつも私が我慢しないと保てないの?
じゃあ、私は?
そう言いかけたとき、バッグの中の書類に指が触れた。
その瞬間、頭がすっと冷えた。
「わかった。トロフィーと副賞は渡す。
その代わり、これにサインして」
母は書類を受け取ると、内容を確かめることもなく、すぐ保証人欄に署名した。
交換留学の書類だとはっきり書かれているのに、目を通そうともしなかった。
署名を終えると、すぐ姉に向き直る。
「ほら、もう泣かなくていいでしょう?琴音が譲ってくれるって」
姉はすぐに笑顔になった。
立ち去るとき、私の肩にぶつかる。
そして振り返り、不満そうに言った。
「最初からそう言ってくれればよかったのに。
こっちはずっと泣いてたんだから」
姉にとっては、それが当たり前なのだ。
この家では昔から、何かを分けるときに用意されるのは兄と姉の二人分だったから。
私は何も言わず、署名の入った書類を胸に抱えた。
これで、ここを出ていける。
そう思うと、ようやく息ができた気がした。
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