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二十年遅れの「公平」なんて、もういらない第1話

この話は約2236字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私、御厨琴音(みくりや ことね)の家では、何より「公平」が重んじられている。双子の兄・御厨朔人(みくりや さくと)と姉・御厨彩葉(みくりや いろは)は、父と母が少しでもどちらかをひいきすると、すぐに張り合って喧嘩になるからだ。

そのため、家にあるものは何でもきっちり二人分。一つは兄へ、もう一つは姉へ。

幼いころ、何もわからず母に尋ねたことがある。「私の分は?」

返ってきたのは、怒鳴り声だった。「お兄ちゃんとお姉ちゃんだけでも大変なの!琴音まで面倒を増やさないでよ!」

やがて、家の車は7人乗りのミニバンに買い替えられた。家族は5人。

家族旅行に出かける日、空いた二席のうち、一つには姉の猫を入れたキャリー、もう一つには兄の犬。私は乗る場所もなく、雨の中、開いたドアの前に立ち尽くしていた。

兄は私を見るなり、犬をかばうように腕を回した。姉はあからさまに嫌そうな顔をする。「公平にするって決めたでしょ。誰も私の猫の席、取らないでよ」

父はまだ雨に濡れている私を、苛立たしげに見た。「琴音、何かほかに予定ないのか?」

寒さに震えながら、それでも私は笑って答えた。「あるよ。だから、私、行かない」

その場を離れた私は、大学の留学担当に海外交換留学の申請書を提出した。

20年待っても、私だけには一度も回ってこなかった「公平」もう、ここに立ち止まって待ち続ける必要はない。

* * *

一人で家まで歩いて帰ったころには、服の中まで雨が染み込み、全身びしょ濡れになっていた。

玄関に入ったところで、スマホが震えた。

家族のLINEグループに、母から私宛てのメッセージが届いている。

『この数日、一人でご飯どうするの?』

珍しく、私のことを気にかけてくれた。

そう思っただけで、胸の奥がきゅっとして、目の奥まで熱くなった。

けれど、返事を打つより先に次のメッセージが届いた。

『冷蔵庫の中のものには手をつけないでね』

『あれはお兄ちゃんとお姉ちゃんの分だから。二人に同じだけ行き渡るように、ちゃんと分けてあるの』

『琴音が食べたら公平じゃなくなるでしょう』

胸に浮かんだばかりの温かさが、すっと消えた。

じゃあ、私の分は?

そう打ちかけた指が止まった。

結局、その文は消して、短い返事だけ送った。

『わかった』

こんなことは、これまで何度もあった。

聞いたところで、誰も気に留めてくれない。

この家には、最初から私の分なんてない。

ずっと、それが当たり前だった。

スマホをしまい、何か食べられるものがないか家の中を探した。

見つかったのは、隅に置かれた箱の中の、賞味期限が切れて湿気た菓子パンだけだった。

寒さと空腹の中、どうにか眠りについた。

ところが真夜中、いきなり濡れた上着を頭に投げつけられ、はっと目を覚ました。

驚いて目を開けると、廊下には明かりがつき、リビングから騒がしい声が聞こえてきた。

父と母は、遠出しようとしたところで大雨になり、道路が通行止めになったと愚痴をこぼしていた。

入口には、姉が腕を組んで立っていた。

「何ぼーっとしてるの?これ見たら、洗ってってわかるでしょ」

上着には泥水が跳ねていた。

さっき頭に投げられたせいで、髪まで湿ってべたついていた。

眠くて、まぶたもまともに開けていられないまま、力の入らない声で頼んだ。

「お姉ちゃん、今日はもう寝かせて。明日の朝、起きたらすぐ洗うから」

姉はすぐに声を荒らげた。

「やりたくないならそう言えばいいじゃん。言い訳しないでよ!」

そこへ兄もやってきて、泥だらけのスニーカーを床に放った。

「彩葉のを洗うなら、俺のも洗えよ。さっさとやっとけ」

母は洗濯物を抱えたまま、私をちらりと見た。

そして眉をひそめる。

「うちは三人きょうだいなんだから、何でも公平にしないとだめでしょう。

お兄ちゃんとお姉ちゃんは朝からずっと出かけてて疲れてるの。琴音は家にいたんだから、洗濯くらいやってあげなさい」

家族全員から責めるような目を向けられているうちに、ふっと笑いたくなった。

この家の「公平」は、ずいぶん都合よくできているらしい。

何かを分けるときの「公平」は、兄と姉のためにある。

面倒を引き受けるときになって初めて、私も三人きょうだいの一人に数えられる。

もう何を言っても無駄だ。黙って泥だらけの服と靴を抱え、洗面所へ向かった。

全部洗い終わるまで、3、4時間かかった。

目の前が暗くなる。

空腹のせいで、低血糖を起こしかけているのがわかった。

壁に手をつきながらリビングへ行き、白湯を飲もうとした。

ちょうどそこへ、父が焼き鳥の袋を提げて帰ってきた。

私を見ると、父は反射的に袋を背中へ隠した。

それから、気まずそうに笑った。

「ちょうど四人分なんだ。琴音まで入れると量が半端になるし、お兄ちゃんとお姉ちゃんがまた揉めるだろ?

柿ピーならあるぞ。あの二人はいらないって言ってたから、琴音が食べればいい」

差し出された袋を見て、思わず笑った。

受け取らずに、静かに言った。

「お父さん。私、ピーナッツアレルギーだよ」

父の顔が、一瞬だけ固まった。

けれど、それだけだった。

姉に呼ばれるとすぐ返事をし、そのまま何事もなかったように私の横を通り過ぎていった。

その背中を見ながら、体の横に下ろした手をぎゅっと握った。

胸の奥がずきりと痛んだ。

それでも、もう泣く力さえ残っていなかった。

白湯を少しずつ飲み、ふらつきが治まるのを待ってから納戸へ戻った。

少しでも横になろうと、扉を開けた。

そこには、兄と姉が片づけていないキャリーケースや荷物が、部屋いっぱいに置かれていた。

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