両親に手術台へ縛りつけられ、弟に腎臓を提供させられた第2話
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「痛い……」
病室のベッドで、弟の強が苦しそうに身をよじった。
そのわずかな動きに、椅子に座っていた両親はすぐさま立ち上がった。
「どうした?どこか痛むのか?」
強は首を振り、顔色の悪いまま言った。
「大丈夫だよ、父さん母さん。僕のことはいいから、兄さんの様子を見てあげて。兄さん、いつも父さん母さんが自分を気にかけてくれないって言ってたから……」
病み上がりでこの口だ。僕のことを言い出すたびに、両親の顔はますます険しくなる。
父さんは立ち上がってコップに水を注ぎながら言った。
「強、お前は本当に出来た子だ。だからあいつはつけ上がるばかりで、お前ばかり損をしてるんだ」
母もすかさず同調した。
「そうよ。私たちがまだ生きてるうちはいいけど、もしどちらかがいなくなったら、あなたはどうするの?」
そう言い終えると、母は胸を詰まらせるようにして、ぽろぽろと涙をこぼした。
強は、もともと両親の僕への不満を煽るためにそう言ったのだ。目的を果たした彼は、内心ほくそ笑みながらも、それを悟られぬよう弱々しく言葉を続けた。
「父さん母さん、兄さんを責めないで。全部、僕の体が弱いせいなんだ。だから兄さんも嫌になっちゃったんだよ……」
その芝居がかった態度に、天井から見下ろす僕は吐き気を覚えた。
生きていた頃、何度も僕を挑発してきたくせに、死んだ後まで僕の名を汚すなんて。
いつ僕が弟を嫌った?あんなにも陰で僕を悪く言われ続けても、僕は「いい兄」でいようと努めてきた。
だけど、僕がどんなに説明しても、両親が僕を信じることは一度もなかった。
時が経ち、僕も口を閉ざすことを覚えた。
弟がまた自分を責め始めると、両親は慌てて慰め出した。
「強、そんなこと言うもんじゃないよ。あなたが体弱いんだから、私たちが心配するのは当然だろ?あいつは心がねじ曲がってるんだよ。
もし私たちが準備してなかったら、絶対にあなたに腎臓なんて渡さなかったわ。実の弟にもこんな仕打ちをするなんて、あの子に親孝行を期待するほうが間違いよ」
その言葉を聞きながら、僕の胸の奥は冷たく沈んでいった。
生活における大小さまざまな事柄を、全て僕が一手で切り盛りしてきた。恩に着せる気はなくても、それなりに苦労はしてきたつもりだった。
それでも彼らの目には、僕は不孝者にしか映らないらしい。
なんて滑稽なんだろう。僕という存在そのものが。
そんな歪んだ「一家団欒」の最中、突然、病室の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは僕の恋人、小林陽奈(こばやし はるな)だった。僕たちは長年付き合っていて、彼女は僕の家庭が僕にどんな仕打ちをしているかを全て知っている。
だからこそ、両親のことを嫌っていて、電話でも何度も激しく言い争ったことがある。
陽奈は言葉より先に行動した。ベッドに横たわる強の襟首をつかむと、怒りに満ちた声で叫んだ。
「このクズ!もっと適合する腎臓があったのに、なんで一盛(かずもり)のを使ったのよ!あんたが殺したのよ!人殺し!」
突然病室に入ってきて狂ったように振る舞う陽奈に、両親は呆然として固まった。
陽奈の怒りが一段落すると、ようやく二人は慌てて彼女を引き離し、母が手を振り上げた。
「この生意気な女!『殺した』って?一盛は元気にしてるわよ!
仮に死んだとしても、それは自業自得よ!いつも怠けてばかりで、体が弱いのは自分のせい!腎臓ひとつ渡したくらいで何を大げさに!」
陽奈は怒りに震え、母の振り上げた手を力強くつかみ、低く唸るように言った。
「もう一度言うわ。あんたたちの息子、一盛は――手術台の上で死んだのよ。全部、あんたたちが無理やり彼の腎臓を摘出させたせいで!」
だが両親は、陽奈の言葉をまるで聞く耳を持たなかった。
「ふざけるな!お前こそ一盛を死なせた張本人だろ!強が手術したばかりなのが見えないのか!」
「あんたたちは似た者同士だ!自分勝手で、他人の気持ちなんてこれっぽっちも考えない!」
陽奈は全身を震わせ、三人の偽りの「家族愛」を睨みつけると、冷たく笑った。
「いいわ。一盛の死を踏み台にして幸せになろうって?そんなこと、絶対に許さない。必ず代償を払わせてやる」
そう言い残し、勢いよくドアを叩きつけて出ていった。
母はその背中に向かって唾を吐き捨てた。
「ふん、死神みたいな女ね」
僕は天井の上から、その光景をただ見下ろすしかなかった。陽奈が泣き叫ぶ姿を見ても、何ひとつできない。
どれだけ叫んでも、僕の声は、もう誰にも届かなかった。
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