不倫夫に父を殺された私、即座に離婚第2話
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父との思い出にふけりながら、誰もいないがらんとしたリビングに座っている。
スマホの画面が再び明るくなり、真一からの着信を知らせた。
呼び出し音が長く鳴り響き、一度切れてはまた鳴り出した。
その名前を見つめる私の目は、まるで赤の他人を見ているかのようだ。
ようやく音が止んだ。
数秒後、友人から音声メッセージが届いた。
再生してみると、騒がしい物音の向こうから、あゆの声がうっすらと聞こえてきた。
「社長、あんなの放っておけばいいんですよ。女を甘やかすと、調子に乗るだけですから」
続いて、真一の冷ややかな声が響いた。
「美奈子、変な勘違いをするな。あの一億円の広告は、あゆが新しく入社したからだ。俺の秘書として、周りに示しをつける必要があったんだ。
さっさと反省して、明日までに家の中をきれいに片付けておけ。
さもないと、あの二千万円もなしにするからな」
私は無表情でそれを聞き終えると、画面を指でなぞって音声を保存した。
それから、一言メッセージを送った。
【明日、役所で会おう】
翌朝早く、私は役所へと向かった。
ロビーは行き交う人々で溢れ、笑顔で籍を入れる者もいれば、黙り込んで離婚手続きを待つ者もいる。
隅のベンチに腰掛け、受付番号の紙をぎゅっと握りしめている。
九時。
九時半。
十時。
真一は現れなかった。
彼にメッセージを送った。
【役所で待ってる】
昼近くになってようやく、真一の秘書・日野徹(ひの とおる)から電話がかかってきた。
「奥様、社長は今、会議中です。お遊びに付き合っている暇はありません。
社長がおっしゃっていました。子供のようなわがままはいい加減にしろ、と。
それから、社長は夜、家で食事をされますので、大好物の唐揚げを用意しておくようにとのことです」
ツーツーと音がして、電話が一方的に切れた。
騒がしいロビーの真ん中でスマホを握りしめて立ち尽くす私に、周囲の視線が針のように突き刺さった。
――わがままって?
父がひどく苦しめられ、亡くなったというのに、彼の目には私がただ拗ねているようにしか映らないのか。
激しい怒りが全身を襲い、すべての理性を焼き尽くした。
私は電話をかけ直した。徹が出ると、苛立ちを隠そうともせずに言った。
「奥様、さっきも申し上げましたが……」
「丸岩真一を出して!」
私がスマホに向かって怒鳴り声を上げると、その声の大きさにロビー全体が静まり返った。
「彼に伝えなさい。出ないなら、丸岩グループの本社ビルから飛び降りてやるって!
彼にはっきり見てもらうね!」
私の口調があまりに尋常ではないからか、あるいは「飛び降りる」という言葉に徹が怯えたのか。
ガサゴソという雑音の後、真一の声が聞こえてきた。
抑えきれない怒りが滲んでいる声だ。
「美奈子、いい加減にしろ。いつまで狂った真似を続ける気だ?
大声を出すな。お前にプライドがなくても、俺には世間体があるんだ!」
その声を聞いた瞬間、私はかえってすっと冷静になった。
激しい怒りの果てに訪れたのは、燃え尽きた後の静けさだ。
「真一、私は正気よ。
一つだけ聞かせて。離婚するの、しないの?」
真一は鼻で笑った。
「離婚?お前にそんな資格があるか?
美奈子、よく思い出せ。お前の衣食住も、お前の父親の医療費だって、すべて俺がお金を注ぎ込んできたんだぞ。
あゆはただの秘書だ。彼女はお前より優秀で、向上心もある。それを妬んでるのか?
俺の妻はいつだってお前だ。大人しく従いさえすればな。
二度と離婚を盾に俺を脅そうとするな。そんな手は通用しない」
彼は確信に満ちた口調で、私が自分から離れられないと高を括っている。
――けれど残念ね。あんな美奈子はもう死んだのよ。
私はポケットの中にある、くしゃくしゃになった預金通帳に手を触れた。
それは、父が私に遺してくれたものだ。
中にはわずか四十万円しか入っていない。父が爪に火をともすようにして貯めたお金だ。
父は言っていた。
「美奈子、もし丸岩家で辛い目に遭ったら、このお金でチケットを買って、いつでも家に帰ってくるんだぞ」
――お父さん、私、すごく辛い。
だけど、もうお家には帰れないの。
だって、お家がなくなっちゃったんだもの。
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