不倫夫に父を殺された私、即座に離婚第3話
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真一の声が再び聞こえてきた。
「今すぐ家に帰ってあゆに謝罪して、今までのことはすべてでたらめだったと言い訳するなら、さらに二千万円上乗せしてやってもいい。お前の父親の……見舞い金としてな」
私は受話器に向かって、一言一言をはっきりと告げた。
「真一、それを言うなら葬儀費用よ。
それから、あなたが身代金の振込みを取り消して、父を死に追いやった落とし前、まだつけてもらってないわ」
「何をバカなことを言ってる!」
真一の声がいきなり跳ね上がった。
「振込みを取り消したって?俺はただ……」
彼の言葉が終わる前に、私は遮るように話した。
「ただ私のわがままを正すため?それとも、愛人と記念写真を撮るためにお金を回したのかしら?
真一、本当に反吐が出るわ」
ツーツーと音がして、私は電話を切った。
そして彼に関わるすべての番号を拒否リストに入れた。
世界が静かになった。
あの冷え切った大きな屋敷には戻らず、父の遺骨を抱えて街外れにある古いアパートへと向かった。
そこは父が残した唯一の財産で、三十畳にも満たない、古くて狭い部屋だ。
けれど、私の心はこれ以上ないほど落ち着いている。
古い棚の上に父の遺骨をそっと置き、その隣に私と父のたった一枚のツーショット写真を並べた。
写真の中の父は優しそうに笑みを浮かべ、私は父の肩車に乗って手にりんご飴を握りしめている。
あの頃の私たちはとても貧しかったけれど、本当に幸せだった。
「お父さん、これからはここで一緒に暮らそうね」
ぽつりと呟いた私の目から涙がこぼれ落ち、埃の積もった床にシミを作った。部屋の片付けを終えると、弁護士の新田利生(あらた としお)に連絡を入れた。
「離婚協議書の作成をお願いします。裁判を起こしてでも離婚します」
電話を切った途端、突然ドアを激しく叩く音が響き渡った。
「美奈子!開けろ!」
真一だ。
まさか、ここを突き止めるとは。
「中にいるのは分かってるんだぞ!
何を隠れてる?俺の電話を切りやがって、今さら顔を合わせるのが怖いのか?さっさと開けろ!さもないと、こんなボロドア、叩き壊させて無理やり入るぞ!」
「丸岩社長、不法侵入は犯罪よ」
私は冷ややかに言い放った。
真一は、私がこれほど強気な態度を取るとは思っていなかったようだ。
「美奈子、いい気になるのも大概にしろ。
俺がわざわざ足を運んでやったのは、チャンスを与えるためだ。今すぐ一緒に戻るなら、これまでのことは水に流してやる。
お前の父親には、一番いい老人ホームを手配して、最高の介護士をつけてやるから……」
「丸岩真一」
彼の言葉を遮る私の声は、氷のように冷え切っている。
「人の言葉が理解できないの?
父は亡くなったのよ。
あなたに殺されたの。
あなたがのんきにあの秘書と写真を撮り合ってる間に、拉致犯になぶり殺しにされたのよ」
ドアの向こうが、死んだかのように静まり返っている。
長い沈黙の後、ようやく真一の声が聞こえてきた。かすかに震えてはいるが、それ以上に信じられないという様子だ。
「お前……またそんな嘘をでっち上げてるのか?俺の気を引きたいからって、よくもまあそんなでたらめが言えるな。
美奈子、お前には心の底からがっかりした」
私はドアにもたれかかり、そっと目を閉じた。
――がっかりした?
いったい誰が、誰にがっかりしたというのだろう。
「消えて」
一言だけ吐き捨てた。
「美奈子!」
「消え失せて!」
思い切りドアの板を蹴りつけると、その衝撃で外にいる真一が小さく悲鳴を上げた。
「もう下手なお芝居はやめて!私の目の前から消え失せなさい!
これ以上しつこくするなら、警察を呼ぶわ!」
ドアの向こうは静けさに包まれた。
しばらくして、革靴の足音が再び響き、次第に遠ざかっていった。
十分も経たないうちに、見知らぬアドレスからメールが届いた。
真一からだ。
【明日の夜、丸岩グループの創立記念パーティーがある。
お前は俺の妻として出席しろ。
それが終われば、離婚に応じてやる】
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