不倫夫に父を殺された私、即座に離婚第1話
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父が拉致されたあの日、私・丸岩美奈子(まるいわ みなこ)は泣きながら、十億円を超える資産を持つ夫・丸岩真一(まるいわ しんいち)に助けを求めて電話をかけた。
彼は私の話を聞くと鼻で笑った。
「六千万円振り込んでおいたから、今回は大人しくして、あゆの邪魔をするな」
私は急いで頷き、すぐさま拉致犯の口座へお金を振り込んだ。
ところが、父の縄が解かれようとしたまさにその時、真一は裏で手を回し、身代金の振込みを取り消しただけでなく、拉致犯の口座まで凍結させてしまったのだ。
弄ばれたと知った犯人は激昂し、父を殺害した。三時間にもわたってなぶり殺しにされた末に、父は息を引き取った。
父の遺骨を引き取りに行く途中、街中の広告スクリーンに、真一と彼が新たに雇った若い秘書・桜岡あゆ(さくらおか あゆ)のツーショット写真が映し出されているのが目に入った。
家に帰り、父の遺骨を安置してから、真一に電話をかけた。
「離婚しよう」
電話の向こうからは、真一とあゆのいちゃつく声が聞こえてきた。
「またその手か?
あゆがお前の金遣いが荒すぎるって言うから、ちょっとお仕置きをしてやっただけだ。
まさか、そんなことで怒ったわけじゃないよな?」
* * *
父が拉致されたあの日、私・丸岩美奈子(まるいわ みなこ)は泣きながら、十億円を超える資産を持つ夫・丸岩真一(まるいわ しんいち)に助けを求めて電話をかけた。
彼は私の話を聞くと鼻で笑った。
「六千万円振り込んでおいたから、今回は大人しくして、あゆの邪魔をするな」
私は急いで頷き、すぐさま拉致犯の口座へお金を振り込んだ。
ところが、父の縄が解かれようとしたまさにその時、真一は裏で手を回し、身代金の振込みを取り消しただけでなく、拉致犯の口座まで凍結させてしまったのだ。
弄ばれたと知った犯人は激昂し、父を殺害した。三時間にもわたってなぶり殺しにされた末に、父は息を引き取った。
父の遺骨を引き取りに行く途中、街中の広告スクリーンに、真一と彼が新たに雇った若い秘書・桜岡あゆ(さくらおか あゆ)のツーショット写真が映し出されているのが目に入った。
家に帰り、父の遺骨を安置してから、真一に電話をかけた。
「離婚しよう」
電話の向こうからは、真一とあゆのいちゃつく声が聞こえてきた。
「またその手か?
あゆがお前の金遣いが荒すぎるって言うから、ちょっとお仕置きをしてやっただけだ。
まさか、そんなことで怒ったわけじゃないよな?」
スマホを握りしめている私に激しい吐き気が襲い、酸っぱいものが喉元まで込み上げてきた。
真一の気だるげな声は、まだ続いている。
「足りないか?なら、もう二千万円やろうか。
何か言ってみろ。口が利けなくなったのか?二千万じゃ足りないとでも?
この二千万はな、丸岩家の面目を保つためにやるんだ。外で恥をさらすんじゃないぞ。
それから、離婚なんてお遊びはもうやめろ。耳障りだ」
電話が切れた。
スマホの画面が明るくなり、銀行からの入金通知が表示された。
並んだゼロの数字を眺めながら、私はただ皮肉にしか感じられなかった。
三日前、拉致犯の刃が父の首筋に突きつけられていた。動画の中の父は顔中が血だらけになりながらも、私に構うなと叫んでいた。
私は床にひざまずき、何度も頭を打ちつけながら、真一に助けてくれるよう泣きついた。
あの時の私は、どんな屈辱にも耐え忍ぶ覚悟ができていた。たとえあゆの靴を磨けと言われても、従うつもりだった。
真一はその日に限って、驚くほどあっさりと応じた。
お金が振り込まれた瞬間、私は救われたと思った。
犯人が縄をほどき、床にへたり込んだ父は、スマホをひったくるようにして泣きながら私に言った。
「美奈子、お父さんは大丈夫だ。もうお前の足手まといにはならないから、真一くんと仲良く暮らすんだぞ……」
それが、父が私に残した最後の言葉となった。
直後、拉致犯の怒号が響き渡った。
「金が引き出せねえだと?俺をハメやがったな!
丸岩家の坊っちゃんだな?いいだろう。俺をコケにした代償を、たっぷりと見せてやる!」
動画が真っ暗になった。
私は狂ったように真一に電話をかけ続けた。
一回、二回、百回。
返ってきたのは繋がらないというアナウンスだけだった。
真一の秘書や運転手、さらには丸岩家の執事にまで電話をかけた。
だが、耳にする言葉はどれもマニュアル通りの返事のようだった。
「社長は取り込み中ですので」
「社長は会議中でございます」
「社長からの伝言で、いかなる件も用件が片付いてからにとのことです」
私は狂ったように丸岩グループの本社ビルへと突っ込んだが、警備員に床へねじ伏せられた。冷たい床に顔を押しつけられながら、真一の専用エレベーターが最上階で止まるのをただ見上げることしかできなかった。
三日間。
丸々三日間。
私がようやく受け取ったのは、遺体の引き取りを求める警察からの電話だ。
法医学者の話によると、父は亡くなる前に三時間も苦しめられていたという。
全身の骨を折り、まともな皮膚が一箇所も残っていなかった。
激痛のあまり、生きながらにして絶命したのだ。
斎場から出てきた時、私の腕に抱えた骨壺はとても軽かったが、背中には重くのしかかった。
ふと顔を上げると、街中の巨大スクリーンに真一とあゆの写真が次々と映し出されている。
写真の中で、真一は優しく微笑み、あゆは彼に寄り添っている。二人の後ろは夜空を彩る大輪の花火。
その見出しが私の目を鋭く突き刺した。
【丸岩グループ社長、桜岡あゆの入社に対し、一億円を投じて盛大にお祝い】
その日時は、まさに父が惨殺されたあの夜だ。
真一の言う「取り込み中」とは、あゆと記念写真を撮るのに忙しかったということか。
彼の目には、父の命は、あゆのために打ち上げる花火一発の価値さえなかったのだ。
スマホに残っているあの二千万円の入金記録が、とんでもない冗談のように見えた。
命を救うための六千万円の振込みを取り消しておきながら、その手であゆのために一億円をはたいて街中のスクリーンを買い占めたのだ。
そして今、物乞いに恵んでやるかのように私に二千万円を投げ与え、「丸岩家の面目を保つ」などと言い放った。
私はスマホを目の前に掲げ、真一とあゆのツーショット写真をじっと見つめた。
――これがあなたの言う「取り込み中」の正体なの?
胸の奥が、あれほど激しく痛んでいたのに、今はすっかり空っぽになっていた。
麻痺したわけではない。死んだかのような静けさが広がっているだけだ。
助手席に骨壺を置き、丁寧にシートベルトを締めてあげた。
「お父さん、お家に帰ろうね」
車を発進させ、スクリーンいっぱいに広がる仲睦まじい姿を背に置き去りにした。
川に架かる大きな橋を通りかかると、スマホを投げ捨ててしまいたくなった。
けれど、父の最期の叫び声が脳裏をよぎった。
捨ててはいけない。証拠を残さなければ。
心を焼き焦がすほど熱く痛んでも、これは手元に残しておかなければならない。
家に帰り、父の遺骨を仏壇にそっと安置した。
床に額を擦りつけた瞬間、涙はようやく枯れ果てた。
立ち上がり、真一の番号に電話をかけた。
今度は、すぐに繋がった。
受話器の向こうから、あゆの笑い声とシャンパングラスが触れ合う軽やかな音が聞こえてきた。
「どうだ?気持ちの整理はついたか?」
真一の声には、上から目線の哀れみが込められている。
「お金を受け取ったなら、大人しくしてろ」
父の遺影を見つめながら、私は静かに声を絞り出した。
「真一、父が亡くなったわ」
一瞬、電話の向こう側が静まり返った。
それから、真一の鼻で笑う声が聞こえた。
「いい加減にしろ。
俺を連れ戻したいからって、親を呪うような汚い真似まで持ち出すのか?
前は病気のふりをして、今度は父親が死んだふりか。次は自分の番だとでも言うつもりか?」
私は何も言わなかった。ただ、五年もの間愛し続けてきた男が、最も忌まわしい言葉で私の親を亡くした痛みを疑っているのを、静かに聞いている。
「あゆの言う通りだな。お前は暇すぎるから、一日中そんなくだらないことばかり考えてるんだ。
二千万円じゃ足りないのか?分かった、あと一千万円振り込んでやる。まじで縁起が悪い。
俺たちはこれからドレスの試着に行くんだ。切るぞ」
ツーツーと無機質な音が響いた。
私はスマホを見つめたまま、しばらく呆然としている。
それからラインを開き、五年もの間トップに固定していた真一のアイコンを選んで、ブロックをタップした。
そして、別の番号に発信した。
「もしもし、新田先生。離婚の手続きをお願いします。
ええ、今すぐです。
理由は……夫が父を殺したんです」
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