和紙文七日間の偽り、永遠の自由 · 第2話設定≡

七日間の偽り、永遠の自由第2話

この話は約1950字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

体験3日目。有馬家で、家族の食事会が開かれる。

義母から私に住所が送られてきて、有馬家に代々伝わる真珠のブレスレットを持ってくるように言われる。

そのブレスレットは、私が結婚したとき、義母が自分の手で私の腕につけてくれたものだ。

でも私は知っている。義母は昔から、私のことを快く思っていない。

あのとき隼也がどうしても私と結婚すると譲らなかったからこそ、代々嫁に受け継がれてきたこのブレスレットが、私の手に渡っただけだ。

私は、初めて隼也の両親に挨拶した日のことを思い出す。

あの日、有馬家で親族が集まる席の前、義母は私の生まれ育った環境が平凡で、有馬家には釣り合わないと言い放った。

それでも隼也は私の手を握り、静かでありながら一歩も引かない口調で言った。

「咲は俺の大切な人だ。誰と結婚するかは、他の誰かに決めてもらうことじゃない」

けれど今、その場面を思い返すと、ただ皮肉にしか思えない。

私はブレスレットの入った箱を強く握りしめる。

今日、有馬家へ行くついでに、これも返してしまおう。

私が屋敷に着いたときには、すでに夏美が、かつて私が座っていた席に腰を下ろしている。

食卓に、私の席は用意されていない。

使用人は仕方なく椅子を一脚持ってきて、いちばん端に置く。

義母は笑いながら説明する。

「夏美ちゃんがこの数日は隼也のお嫁さんなんだから、家族の食事会だってゲームに合わせないとね。

咲ちゃんも若いんだから、そんなに細かいことを気にしなくてもいいでしょう」

隼也も、夏美の好みに合わせて、料理をすべて作り直すよう厨房に頼んでいる。

私はピーナッツに重いアレルギーがある。

結婚して7年になるのに、隼也の実家の食卓には今でもピーナッツのお菓子が並ぶ。

結婚したばかりの頃は、隼也も「これには気をつけろ」と注意してくれていた。でもいつの頃からか、食事のたびに「自分で避けろ」と言うだけになった。

それなのに、夏美がパクチーを食べられないと知れば、隼也の実家の食卓からは一度もパクチーが出てこない。

スープにほんの少し刻んだパクチーが浮いているだけで、隼也はすぐに使用人を呼び、作り直させる。

「この匂いを嗅ぐと、気持ち悪くなるんだ」

去年の家族の食事会で、初めて夏美が私の席に座った。

私が席を立ってその場を離れると、隼也は追いかけてきて、私を抱きしめた。

席なんて、たいした意味はない。そう言って、こう約束した。

「この席は、ずっとお前のものだ」

なのに今年、私は隼也の隣に座る資格すらない。

家族写真を撮る直前、義母がふいに私の手首を見る。

「そのブレスレット、外してくれる?

ちょっとだけ夏美ちゃんに貸してあげて。写真もそのほうが華やかになるでしょう」

夏美は慌てて手を振る。

「それはちょっと……」

けれど、その手は空中で止まったまま、本気で引っ込める気配はない。

私が何か言うより先に、隼也が私の手を握り、ブレスレットをゆっくり外し始める。

留め具が骨に引っかかり、皮膚が擦れて痛む。

それでも隼也は、私の手首ではなく、ブレスレットに傷がついていないかだけを確認している。

そして、その手で夏美の腕にブレスレットをつける。

「7日後にはちゃんと返す」

「アクセサリーひとつくらいで、そんなに気にするなよ」

写真撮影が始まる。夏美は隼也の隣に立つ。

義父と義母は前列に座っている。

そして私は、一番端に追いやられ、もう少しで写真の外に出てしまいそうな位置に立たされる。

カメラマンが「もう少し皆さん、中央に寄ってください」と声をかける。

すると隼也はわざと夏美の腰に手を回す。

そして、ちらりと私を振り返る。

私が止めるのを待っている。

けれど私は、義母にただ一言告げる。「そのブレスレット、もう返さなくていいです」

義母の顔色がわずかに変わる。

「せっかくの楽しいゲームなのに、どうしてそんな水を差すようなことを言うの?

年長者を困らせるようなことをして……本当に、あなたは何も分かっていないのね」

事情を知らない親戚の一人が、すぐに家族写真を親族グループへ送る。

【今年はようやく全員そろったね】

ほかの親戚たちも次々に、やっぱり夏美ちゃんと隼也はお似合いだと褒めている。

中には、【二人で改めて結婚式を挙げる予定なの?】と尋ねる人までいる。

義母は何も説明しない。

ただ、そのメッセージの下に、ハートのリアクションが一つ付いただけだ。

私は、7年間ずっと入っていた有馬家のグループトークを見つめた。

そして、静かに画面右上のメニューを開き、「グループ退会」をタップした。

すぐに隼也が気づく。

私に一通のメッセージを送ってくる。

【今回はずいぶん本気っぽいな。あと何日、我慢できるか見ものだ】

隼也は知らない。

私は我慢しているんじゃない。

少しずつ、取り戻しているだけだ。

あの家に残してきた、私の痕跡をすべて。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)