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七日間の偽り、永遠の自由第1話

この話は約2547字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私――河野咲(こうの さき)。

夫の有馬隼也(ありま しゅんや)は、私が嫉妬する姿を見るのが大好きだ。

親友が自分に近づくのを私が気にすればするほど、それだけ自分を愛している証拠だと言う。

だから毎年、結婚記念日になると、隼也は幼なじみの小林夏美(こばやし なつみ)に私の代わりをさせ、数日間だけ「有馬家の奥さん」を演じさせる。

そのうえ友人たちと賭けまでして、私が何日まで耐えられるかを楽しんでいる。

1周年のときは、夏美が私のパジャマを着て、隼也の腕の中に寄り添った写真を撮った。

私は腹を立てて服を取り返すけれど、隼也はそんな私にキスをして、やっぱり俺なしじゃいられないな、と笑った。

2周年のときは、隼也が主寝室を夏美に譲り、私には客室で寝ろと言った。

私は部屋の前で目を赤くした。するとようやく隼也がドアを開けて、「一晩だけ泊めるだけだ」と言った。

去年は、隼也が夏美を連れて実家の食事会に行き、私の席に彼女を座らせた。そのうえ両親が彼女を「お嫁さん」と呼ぶのも、止めようとしなかった。

私がその場を離れようと振り返ったところで、ようやく隼也が私の腕をつかんだ。

「ただの呼び方だろ。そんなことまで気にするのか?」

そして今年は、二人の悪ふざけがさらに度を越している。

夏美はスーツケースを引いて、私たちの家へそのまま乗り込んでくる。そして新しいスペアキーを取り出すと、友人たちが見ている前で私に尋ねる。

「隼也が、7日間だけ私にこの家の奥さんを体験してみろって。咲さん、怒らないよね?」

隼也は夏美の肩を抱き寄せ、期待に満ちた目で私を見ている。

「本当に俺のことを愛してるなら、絶対に嫉妬するはずだ」

みんな、私がこれまでと同じように泣いて騒ぎ出すのを待っている。

そして最後には、隼也が笑いながら「ゲームはここまで」と宣言する――そんな結末を、誰もが疑っていない。

けれど今回は、私は何も言わない。ただ自分の部屋へ戻り、自分の荷物をきれいにまとめる。

出ていく前に、私は結婚指輪と家の鍵を一緒に隼也の手のひらへ置く。

「7日間じゃ短すぎるよ。

この場所は、これからずっと彼女にあげる」

* * *

私が家を出ても、隼也は追いかけてこない。

背後では、友人たちがまだ面白がって騒いでいる。

「今年、咲さんは作戦を変えてきたな」

「隼也、あんまり早く降参するなよ」

隼也は低く笑う。

「こいつが俺を手放せるわけないだろ。

せいぜい3日だ。自分から戻ってくるさ」

その日の夜、隼也は友人たちのグループトークで、また賭けを始める。

隼也は百万円を賭け、私が72時間も耐えられないほうに張った。

私から先に折れさせるため、隼也は正式に夏美の指紋を玄関のスマートロックに登録する。

さらに、「妻のためのスペアキー」として用意していた鍵まで、彼女に渡す。

夏美は私のスリッパを履き、グループトークに鍵と朝食の写真を投稿する。

添えられた言葉は――【隼也の妻・体験日記、1日目】

友人たちは一斉に盛り上がる。

【今夜は主寝室に挑戦だな】

【奥さん体験なら、奥さんのパジャマも着なきゃだろ?】

隼也は止めるどころか、夏美に返信する。

【パジャマならクローゼットの二段目】

その投稿を見たとき、私は両親が残してくれた小さな家で、荷物を整理している。

何年も誰も住んでいなかった家だ。

窓辺には埃が積もり、水道の蛇口も少し錆びついている。

それでも、ここなら少なくとも、私の居場所をゲームの景品にする人はいない。

1年目。夏美が私のパジャマを着て出てきたとき、私はみんなの前で泣いた。

隼也は私を抱きしめ、長いこと宥めてくれた。

自分のことで私が嫉妬するか、ただ確かめたかっただけだと言った。

そして、こう約束した。「これが最初で最後だ」

けれど今、クローゼットにある私の服は、一着ずつ夏美に試着されている。

しかも彼女はライブ配信まで始めて、友人たちに隼也の妻らしいコーディネートを選ばせている。

私のシルクのナイトドレスを身につけると、カメラの前でくるりと一周する。

「これなんてどう?」

隼也は隣に座ったまま、顔を上げて一目見る。

「こっちのほうが、あいつが着るより可愛いな」

配信の向こうから笑い声が上がる。

誰かが、どうして私は姿を見せないのかと尋ねる。

すると夏美は、すぐに目を潤ませた。

「咲さんって、ほんと冗談が通じないんだから。ちょっとしたゲームなのに。

私はただ、隼也に頼まれて協力してるだけ。まさか本当に怒って出ていくなんて思わなかった。

でも、みんなだって分かってるでしょ。どうせそのうち戻ってくるって」

隼也はティッシュを一枚取って、夏美に差し出す。

そのあと、私にメッセージを送ってくる。

【夫婦生活にも、少しくらい新鮮さは必要だろ。こんな冗談で怒る必要なんてない】

【それでも家出ごっこを続けるつもりなら、自分の荷物も全部持っていけ】

私が戻ると、玄関のスマートロックはもう私の指紋を認識しない。

結局、ドアを開けてくれたのは夏美だった。

私のパジャマを着て、私のスリッパを履いている。

主寝室のベッドも、夏美の好みに合わせてピンクの寝具に変えられている。

私のスキンケア用品は段ボール箱に放り込まれている。

ベッド脇に飾っていたウェディングフォトも外され、壁際に立てかけられている。

写真の中の私は、箱に遮られて顔の半分しか見えない。

隼也はその段ボール箱を私の前へ押し出す。

「咲、そういう焦らして俺の気を引くような真似は、一度しか使えないぞ」

夏美は唇を噛み、小さな声で言う。

「だったら……私、やっぱり客室で寝ようかな」

口ではそう言いながら、本人は主寝室から一歩も動こうとしない。

案の定、隼也は彼女を引き止める。

「妻なら、主寝室で寝るのが普通だろ」

そう言ってから、隼也は私を見る。

その目には、見慣れた笑みが浮かんでいる。

まるで私がベッドを取り返そうと飛びつくのを、あるいは泣きながら「結局、誰を愛してるの?」と問い詰めるのを待っているみたいに。

けれど私は、ただ段ボール箱を抱え上げる。

「ほかに忘れ物はある?」

隼也の口元から、初めて笑みが消える。

数秒、私をじっと見つめてから、冷たい声で言った。

「お前、今回はずいぶん上手に演じるじゃないか。

どこまで我慢できるのか、俺も見ものだな」

私は答えない。

ただ振り返り、静かにドアを閉める。

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