七日間の偽り、永遠の自由第1話
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私――河野咲(こうの さき)。
夫の有馬隼也(ありま しゅんや)は、私が嫉妬する姿を見るのが大好きだ。
親友が自分に近づくのを私が気にすればするほど、それだけ自分を愛している証拠だと言う。
だから毎年、結婚記念日になると、隼也は幼なじみの小林夏美(こばやし なつみ)に私の代わりをさせ、数日間だけ「有馬家の奥さん」を演じさせる。
そのうえ友人たちと賭けまでして、私が何日まで耐えられるかを楽しんでいる。
1周年のときは、夏美が私のパジャマを着て、隼也の腕の中に寄り添った写真を撮った。
私は腹を立てて服を取り返すけれど、隼也はそんな私にキスをして、やっぱり俺なしじゃいられないな、と笑った。
2周年のときは、隼也が主寝室を夏美に譲り、私には客室で寝ろと言った。
私は部屋の前で目を赤くした。するとようやく隼也がドアを開けて、「一晩だけ泊めるだけだ」と言った。
去年は、隼也が夏美を連れて実家の食事会に行き、私の席に彼女を座らせた。そのうえ両親が彼女を「お嫁さん」と呼ぶのも、止めようとしなかった。
私がその場を離れようと振り返ったところで、ようやく隼也が私の腕をつかんだ。
「ただの呼び方だろ。そんなことまで気にするのか?」
そして今年は、二人の悪ふざけがさらに度を越している。
夏美はスーツケースを引いて、私たちの家へそのまま乗り込んでくる。そして新しいスペアキーを取り出すと、友人たちが見ている前で私に尋ねる。
「隼也が、7日間だけ私にこの家の奥さんを体験してみろって。咲さん、怒らないよね?」
隼也は夏美の肩を抱き寄せ、期待に満ちた目で私を見ている。
「本当に俺のことを愛してるなら、絶対に嫉妬するはずだ」
みんな、私がこれまでと同じように泣いて騒ぎ出すのを待っている。
そして最後には、隼也が笑いながら「ゲームはここまで」と宣言する――そんな結末を、誰もが疑っていない。
けれど今回は、私は何も言わない。ただ自分の部屋へ戻り、自分の荷物をきれいにまとめる。
出ていく前に、私は結婚指輪と家の鍵を一緒に隼也の手のひらへ置く。
「7日間じゃ短すぎるよ。
この場所は、これからずっと彼女にあげる」
* * *
私が家を出ても、隼也は追いかけてこない。
背後では、友人たちがまだ面白がって騒いでいる。
「今年、咲さんは作戦を変えてきたな」
「隼也、あんまり早く降参するなよ」
隼也は低く笑う。
「こいつが俺を手放せるわけないだろ。
せいぜい3日だ。自分から戻ってくるさ」
その日の夜、隼也は友人たちのグループトークで、また賭けを始める。
隼也は百万円を賭け、私が72時間も耐えられないほうに張った。
私から先に折れさせるため、隼也は正式に夏美の指紋を玄関のスマートロックに登録する。
さらに、「妻のためのスペアキー」として用意していた鍵まで、彼女に渡す。
夏美は私のスリッパを履き、グループトークに鍵と朝食の写真を投稿する。
添えられた言葉は――【隼也の妻・体験日記、1日目】
友人たちは一斉に盛り上がる。
【今夜は主寝室に挑戦だな】
【奥さん体験なら、奥さんのパジャマも着なきゃだろ?】
隼也は止めるどころか、夏美に返信する。
【パジャマならクローゼットの二段目】
その投稿を見たとき、私は両親が残してくれた小さな家で、荷物を整理している。
何年も誰も住んでいなかった家だ。
窓辺には埃が積もり、水道の蛇口も少し錆びついている。
それでも、ここなら少なくとも、私の居場所をゲームの景品にする人はいない。
1年目。夏美が私のパジャマを着て出てきたとき、私はみんなの前で泣いた。
隼也は私を抱きしめ、長いこと宥めてくれた。
自分のことで私が嫉妬するか、ただ確かめたかっただけだと言った。
そして、こう約束した。「これが最初で最後だ」
けれど今、クローゼットにある私の服は、一着ずつ夏美に試着されている。
しかも彼女はライブ配信まで始めて、友人たちに隼也の妻らしいコーディネートを選ばせている。
私のシルクのナイトドレスを身につけると、カメラの前でくるりと一周する。
「これなんてどう?」
隼也は隣に座ったまま、顔を上げて一目見る。
「こっちのほうが、あいつが着るより可愛いな」
配信の向こうから笑い声が上がる。
誰かが、どうして私は姿を見せないのかと尋ねる。
すると夏美は、すぐに目を潤ませた。
「咲さんって、ほんと冗談が通じないんだから。ちょっとしたゲームなのに。
私はただ、隼也に頼まれて協力してるだけ。まさか本当に怒って出ていくなんて思わなかった。
でも、みんなだって分かってるでしょ。どうせそのうち戻ってくるって」
隼也はティッシュを一枚取って、夏美に差し出す。
そのあと、私にメッセージを送ってくる。
【夫婦生活にも、少しくらい新鮮さは必要だろ。こんな冗談で怒る必要なんてない】
【それでも家出ごっこを続けるつもりなら、自分の荷物も全部持っていけ】
私が戻ると、玄関のスマートロックはもう私の指紋を認識しない。
結局、ドアを開けてくれたのは夏美だった。
私のパジャマを着て、私のスリッパを履いている。
主寝室のベッドも、夏美の好みに合わせてピンクの寝具に変えられている。
私のスキンケア用品は段ボール箱に放り込まれている。
ベッド脇に飾っていたウェディングフォトも外され、壁際に立てかけられている。
写真の中の私は、箱に遮られて顔の半分しか見えない。
隼也はその段ボール箱を私の前へ押し出す。
「咲、そういう焦らして俺の気を引くような真似は、一度しか使えないぞ」
夏美は唇を噛み、小さな声で言う。
「だったら……私、やっぱり客室で寝ようかな」
口ではそう言いながら、本人は主寝室から一歩も動こうとしない。
案の定、隼也は彼女を引き止める。
「妻なら、主寝室で寝るのが普通だろ」
そう言ってから、隼也は私を見る。
その目には、見慣れた笑みが浮かんでいる。
まるで私がベッドを取り返そうと飛びつくのを、あるいは泣きながら「結局、誰を愛してるの?」と問い詰めるのを待っているみたいに。
けれど私は、ただ段ボール箱を抱え上げる。
「ほかに忘れ物はある?」
隼也の口元から、初めて笑みが消える。
数秒、私をじっと見つめてから、冷たい声で言った。
「お前、今回はずいぶん上手に演じるじゃないか。
どこまで我慢できるのか、俺も見ものだな」
私は答えない。
ただ振り返り、静かにドアを閉める。
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