七年間、誰にも知らせなかった噓第2話
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翌日、私を待っていたのは真梨乃からの抗議ではなく、拓朗の非難だった。
「真梨乃がうつ病だと知っていながら、どうしてあんなことを書いて彼女を刺激したんだ!?
今朝、大量の睡眠薬を飲んだんだ。俺が気づいて病院に運んでいなければ、今頃死んでいたはずだぞ!」
出張だという嘘が露見したことなど意に介さず、拓朗はそれを釈明する気もないまま、有無を言わさず私を病院へ連れて行った。
「お前の口から、彼女に説明しろ。何かの間違いだったと。
彼女は、俺と自分が一緒になるものだと思ってるんだから」
あまりの理不尽さに、全身から力が抜けた。
私は信じられない思いで彼を見つめた。
「今、なんと言ったの?」
拓朗はまるで大したことでもないように言い放った。
「彼女はうつ病なんだ。少しはお前が譲ってやれ」
病室には大勢の人が集まっており、私の友人たちがこれほど一堂に会するのを見たのは初めてだった。
自分の結婚式のときでさえ、みんな揃って来てくれることはなかったというのに。
潔癖症で知られる母が、真梨乃の吐瀉物を嫌な顔ひとつせず手際よく拭き取っていた。
けれど、私が流産したあの年、母は血の匂いが嫌だと言って病室に入ろうともしなかった。
美也子が冷ややかな声で言う。
「いい加減にしてよ。危うく真梨乃を死なせるところだったのよ?」
母も私を睨みつけた。
「本当に情けない子ね。あんなものを書く前に、少しは考えなさい。さっさと真梨乃に謝りなさい」
周りの人たちは口には出さないものの、暗に私が謝るのを促しているようだった。
夫と5年間も隠れて付き合い、結婚写真まで撮っていたのは真梨乃のほうなのに。
被害者は私のはずなのに、私から全てを奪った相手に頭を下げなければならないなんて。
しばらくして、私はやっとのことで短い言葉を絞り出した。
「……なんで、私が……
私が彼女に、人の結婚を壊せって言ったの?睡眠薬を飲めって言ったのも私?」
真梨乃の顔が青ざめる。
「私が……あなたの結婚を、壊した?」
私はスマホを取り出し、拓朗との婚姻届受理証明書の写真と結婚式の映像を開いて見せた。
「私たちはもう5年前に結婚してるの。それなのにあなたは5年もの間、私の夫に付きまとっていた。それこそ、私の結婚を壊してるんじゃないの?」
私の言葉を遮るように、母が真梨乃をなだめにかかった。
「真梨乃、あの子の言うことなんて気にしなくていいのよ。拓朗とあなたこそが、本当の夫婦だって、みんな分かってるから」
美也子の顔つきも険しくなった。
「ちょっと、何をでたらめ言ってるの。拓朗さんと真梨乃こそ、正真正銘の夫婦なんだから」
その一言に、平手打ちを食らったような衝撃を受け、頭の中が真っ白になった。
――本当の夫婦って、どういうこと?
真梨乃が取り乱し始めたのを見て、彼らはすぐに私を病室から追い出した。
震える手でスマホを取り出し、マイナポータルを開いて、自分の戸籍情報を確認した。
画面が切り替わった瞬間、血の気が引いていくのを感じた。
そこには、拓朗との婚姻の記録など、どこにもなかった。
慌てて真梨乃の投稿に戻り、過去の投稿をさかのぼっていくと、婚姻届受理証明書の写真が見つかった。
そこには、拓朗と真梨乃、ふたりの名前がはっきりと記されていた。
つまり、私が本物だと信じていた婚姻届受理証明書は、偽物だったのだ。息ができないほどの窒息感が、波のように押し寄せてくる。
あれほど心待ちにしていた結婚式も、交わした指輪も、手元にあった婚姻届受理証明書も、全部、最初から仕組まれた茶番だったのだ。
だから、結婚式に人が集まらなかったわけだ。彼らはとっくに、この結婚がただの茶番だと知っていたのだから。
病室のドアが開き、彼らは医師に呼ばれて出て行った。
私がまだ立ち尽くしているのを見て、彼らの顔に気まずさが浮かんだ。
「どうして……どうして、私を騙したのよ!」
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