ボスの妻をやめた日第2話
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セバスチャンが帰ってきたとき、私は服や宝飾品を整理していた。
機嫌が悪くて、気晴らしに新しいものでも欲しがっていると思ったのだろう。彼は後ろから私を抱きしめ、温かい手のひらを重ねると、甘やかすような声で言った。
「数日後にオークションがあるんだ。一緒に行こう。欲しいものがあれば何でも買ってあげるから、埋め合わせをさせてくれ」
私は何も言わず、抱きしめられるままにしていた。愛想笑いをする気力さえなかった。
ふと、彼の視線が私の腰のあたりで止まった。先週まではわずかにふくらんでいたお腹が、元に戻っていることに気づいたらしい。
何か聞こうとした、そのときだった。彼の電話が鳴った。
相手は私の叔父だった。電話口から穏やかな声で、セリーナが海外から帰ってきたから、親族の集まりに来ないかと言う。
セリーナ。私の従妹のことだ。
私が答えるより早く、セバスチャンは二人で行くと返事をしていた。
父を埋葬してからまだ数日しか経っていないことも、私が悲しみの中にいることも、すっかり忘れている。私の気持ちなど少しも考えていなかった。
電話を切ると彼は私から腕を離し、金庫を開けて、豪華なオーダーメイドの宝飾品が入った箱を取り出した。そして、ずっしりと重い化粧箱を私の手に持たせる。
「二人はずっと会っていないだろう?これは帰国祝いだ。俺からだと言って、セリーナに渡してくれ」
私はただ黙って箱を見下ろし、小さくうなずいた。
夕食会は、叔父の家で開かれた。親族や友人たちで部屋はいっぱいになり、笑い声が絶えなかった。
私は自分の皿に盛られたステーキを見つめたまま、一口も食べなかった。妊娠してからつわりがひどく、肉を見るだけで吐き気がした。セバスチャンもこの2か月、私に付き合って菜食を続けてくれていた。
けれど今日は、そのことなど頭にないらしい。テーブルに並んだ手の込んだ野菜料理を、次々とセリーナのほうへ寄せていた。
夕食後、私たちはそのまま屋敷に泊まった。
夜更け、隣にあったぬくもりがそっと消えた。
それを予想していた私は起き上がり、寝室の扉を開けた。
「昔から、俺が愛しているのは君だけなんだ。ヴィヴィアンなんて最初から身代わりだった。今度こそ、俺のためにここに残ってくれないか」
セバスチャンの声には、私に向けたことのない真剣さと執着がにじんでいた。
「正気なの?あの子はあなたの子を妊娠しているのよ。こんなことしていいの?」
セリーナの声には、戸惑いとやるせなさが混じっていた。
「俺は正気だ」
彼は傲慢なほど確信に満ちた声で続けた。
「あの女は俺を愛している。何があっても、きっと俺のもとを離れたりしない」
その言葉に、私は小さく笑った。平らになったお腹を、そっと手でなでる。
――セバスチャン、あなたは本当に私のことを何も知らない。
私がこの偽物の愛にすがりつき、いつまでも離れられずにいると思っているのね。
でも、私はとっくに手放している。お腹の子も、あなたも。
絶対に離れないと信じていた女は、もうきっぱり去る準備をしている。
その夜、彼は寝室に戻ってこなかった。
翌朝、空がほのかに明るくなった頃、私は3年間の真心を注いできたこの屋敷を音も立てずに抜け出し、移住の申請書類を提出しに行った。
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