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ボスの妻をやめた日第2話

この話は約1319字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

セバスチャンが帰ってきたとき、私は服や宝飾品を整理していた。

機嫌が悪くて、気晴らしに新しいものでも欲しがっていると思ったのだろう。彼は後ろから私を抱きしめ、温かい手のひらを重ねると、甘やかすような声で言った。

「数日後にオークションがあるんだ。一緒に行こう。欲しいものがあれば何でも買ってあげるから、埋め合わせをさせてくれ」

私は何も言わず、抱きしめられるままにしていた。愛想笑いをする気力さえなかった。

ふと、彼の視線が私の腰のあたりで止まった。先週まではわずかにふくらんでいたお腹が、元に戻っていることに気づいたらしい。

何か聞こうとした、そのときだった。彼の電話が鳴った。

相手は私の叔父だった。電話口から穏やかな声で、セリーナが海外から帰ってきたから、親族の集まりに来ないかと言う。

セリーナ。私の従妹のことだ。

私が答えるより早く、セバスチャンは二人で行くと返事をしていた。

父を埋葬してからまだ数日しか経っていないことも、私が悲しみの中にいることも、すっかり忘れている。私の気持ちなど少しも考えていなかった。

電話を切ると彼は私から腕を離し、金庫を開けて、豪華なオーダーメイドの宝飾品が入った箱を取り出した。そして、ずっしりと重い化粧箱を私の手に持たせる。

「二人はずっと会っていないだろう?これは帰国祝いだ。俺からだと言って、セリーナに渡してくれ」

私はただ黙って箱を見下ろし、小さくうなずいた。

夕食会は、叔父の家で開かれた。親族や友人たちで部屋はいっぱいになり、笑い声が絶えなかった。

私は自分の皿に盛られたステーキを見つめたまま、一口も食べなかった。妊娠してからつわりがひどく、肉を見るだけで吐き気がした。セバスチャンもこの2か月、私に付き合って菜食を続けてくれていた。

けれど今日は、そのことなど頭にないらしい。テーブルに並んだ手の込んだ野菜料理を、次々とセリーナのほうへ寄せていた。

夕食後、私たちはそのまま屋敷に泊まった。

夜更け、隣にあったぬくもりがそっと消えた。

それを予想していた私は起き上がり、寝室の扉を開けた。

「昔から、俺が愛しているのは君だけなんだ。ヴィヴィアンなんて最初から身代わりだった。今度こそ、俺のためにここに残ってくれないか」

セバスチャンの声には、私に向けたことのない真剣さと執着がにじんでいた。

「正気なの?あの子はあなたの子を妊娠しているのよ。こんなことしていいの?」

セリーナの声には、戸惑いとやるせなさが混じっていた。

「俺は正気だ」

彼は傲慢なほど確信に満ちた声で続けた。

「あの女は俺を愛している。何があっても、きっと俺のもとを離れたりしない」

その言葉に、私は小さく笑った。平らになったお腹を、そっと手でなでる。

――セバスチャン、あなたは本当に私のことを何も知らない。

私がこの偽物の愛にすがりつき、いつまでも離れられずにいると思っているのね。

でも、私はとっくに手放している。お腹の子も、あなたも。

絶対に離れないと信じていた女は、もうきっぱり去る準備をしている。

その夜、彼は寝室に戻ってこなかった。

翌朝、空がほのかに明るくなった頃、私は3年間の真心を注いできたこの屋敷を音も立てずに抜け出し、移住の申請書類を提出しに行った。

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