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ボスの妻をやめた日第3話

この話は約2250字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

翌日の昼、久しぶりに会う友人からランチに誘われた。向かい合って静かに話すうちに、胸の奥にたまった憂鬱を少しでも晴らせたらと思っていた。

けれど運命は、私に残されたわずかな尊厳さえ踏みにじるつもりらしい。

顔を上げると、見間違えるはずのない二人が目に入った。仕立てのいいスーツを隙なく着こなした長身のセバスチャンと、その隣に肩を並べて歩くセリーナだった。

目が合った瞬間、セバスチャンは足を止めた。その目に驚きと、かすかな動揺が走る。彼はすぐにこちらへ来て、取り繕うように早口で言った。

「ヴィヴィアン、説明させてくれ。午前中はずっとオフィスにいたんだ。昼にたまたまセリーナと会って、一緒に食事をすることになった。それだけだよ」

無理に言葉を重ねるほど、後ろめたさが透けて見えた。

私が何か言う前に、セリーナが柔らかく微笑んだ。

「ヴィヴィアン、偶然ね。よかったらお友達も一緒にどう?人数が多いほうが楽しいわ」

断りづらい空気になり、私は小さくうなずいて、友人とともに二人のテーブルへ移った。

しばらくして、給仕が熱いスープの入った大きな器を運んできた。テーブルに置こうとしたそのとき、セリーナが「お手洗いに行ってくるわ」と立ち上がる。彼女の体がわずかに揺れ、腕が給仕の手首にぶつかった。

煮え立つスープが一気にこぼれた。半分はセリーナの手の甲にかかり、残りは私の前腕と肩をまともに襲った。

焼けるような痛みが皮膚を走り、ひりつく熱さが広がる。服の生地が火傷した肌に貼りつき、痛みで指先まで震えた。

けれど次の瞬間、セバスチャンの目も、取り乱した声も、すべてセリーナに向けられた。

「大丈夫か?!今すぐ病院へ行こう!」

友人は驚いて一瞬固まったものの、すぐにナプキンを取り、私にかかったスープを拭ってくれた。私の痛みまで感じているような顔をしていた。

赤く腫れ、熱を持った腕の広い傷を見下ろして、私は首を横に振った。胸の痛みに比べれば、火傷の痛みなどとうにかき消されていた。

――セバスチャンは、ここまであからさまに相手を選べるのね。

私も同じように火傷を負っている。しかも、私は彼の妻だ。

それでもセバスチャンは、セリーナが少し傷ついただけで我を忘れるのに、私が全身傷だらけになっても、気にかけようとさえしない。

私は痛みをこらえ、友人に付き添われて、セリーナが運ばれたのと同じ病院へ向かった。

診察した医師は眉をひそめ、火傷は範囲が広いうえに深く、皮膚の損傷もひどいため、処置を受けて安静にする必要があるとはっきり告げた。

セリーナの手の処置を見届けたセバスチャンが現れたのは、そのときだった。

医師の説明を聞き、私のほうが重傷だと知ったのだろう。ようやく彼の顔に、かすかな後ろめたさが浮かんだ。

彼は私のベッドのそばに来て、医師に言った。

「先生、彼女は妊娠しているので、薬も治療も慎重にお願いします」

医師が妊娠という言葉を聞いて怪訝な顔をし、今の私の状態を説明しようとした。

胸が締めつけられ、私はとっさに医師の腕にそっと触れ、小さく首を振って、その先を止めた。

傷の処置が終わると、私はベッドの背にもたれ、深い眠りに落ちた。

真夜中、病棟は静まり返っていた。ふと浅い眠りから目を覚ますと、暗闇の中、隣の病室から抑えた話し声がはっきり聞こえてきた。

「セリーナ、俺はずっと君のことを忘れられなかった。昔の俺は馬鹿な臆病者だった。自分の気持ちと向き合うのが怖くて、ヴィヴィアンにお前の面影を重ねていたんだ......」

セリーナはためらいがちに言った。

「あなた......ヴィヴィアンと結婚してもう3年目になるわね。あの子はあなたのことを愛しているわ。それなのに、そんな簡単に捨てるつもり?」

「ああ」

セバスチャンの声には迷いがなかった。

「俺が結婚したのは、あいつがお前に似ていたからだ。この3年間は妥協して、執着をなだめていただけ。もし君が戻って俺のそばにいてくれるなら、ヴィヴィアンと離婚する。そして、君を正式に俺の妻として迎える。俺には君しかいないんだ、セリーナ。ヴィヴィアンに跡継ぎを産ませたら離婚する。そうしたら、俺たちは結婚しよう」

一言一言が真剣で、決意は揺るぎないものに聞こえた。

私たちの3年間の結婚も、私が注いだ愛も、彼が本当に望む女性の帰りを待つ間の、つなぎにすぎなかったのだ。

私は冷たい病院のベッドに静かに座っていた。腕の火傷が波のようにずきずき痛んだが、胸の痛みには到底及ばなかった。

泣きも騒ぎもしなかった。ただ黙って毛布をめくり、ベッドを降りた。

夜は更け、廊下は冷たい。

私は音を立てずに歩き、やがて自分の病室へ戻った。耳にしたばかりの、あまりに残酷で身勝手な言葉を、すべて胸の奥に押し込めた。

その夜は一睡もできなかった。

翌朝、空が明るくなり始めた頃、病室の扉が勢いよく開いた。

飛び込んできたセバスチャンは顔をこわばらせ、目を血走らせていた。全身から剣呑な苛立ちが伝わってくる。彼は大股でベッドに近づき、身をかがめて私を真っすぐに見据えた。

「お前がやったのか?」

責めと疑いに満ちた、冷たく荒々しい声だった。私は顔を上げ、静かに彼を見返した。

彼は拳を握りしめた。目には私への不信と、見当違いの怒りが渦巻いている。

「昨夜、俺とセリーナの話を盗み聞きしたんだろう。それで腹を立てて、わざと人を雇って彼女を誘拐させたのか!?」

見たこともないほど凶悪で、冷酷な顔だった。

「言っておくが。セリーナに何かあったら、お前が誰だろうと、絶対に許さない」

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