ニップレスを女友達に渡した婚約者第2話
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「それに、俺たちはお前のためを思ってやったんだ。結婚したら女と二人で出かけるなって、お前が言ったんだろ?だから結婚前に、昔みたいに遊んでおこうってだけだ」
「美緒さん!」
背後から、夏希の威勢のいい声が聞こえた。
「今の話、全部聞こえた。親友が結婚するなら、あたしも距離を置くべきだと思う」
彼女は私を見据え、一語ずつ噛みしめるように言った。
「蒼佑。二人で会うのは、これで最後にしよう」
その目には、あからさまな当てつけが浮かんでいた。
夏希は羽織っていた上着を蒼佑に投げ返し、すぐにタクシーを呼んで帰っていった。
蒼佑が目に見えてうろたえた。
追いかけようと駆け出しかけたが、私がいることに気づいて足を止めた。
仲間たちも店から出てくると、腹を立てた様子で一斉に私を責め始めた。
「蒼佑、あんなにさっぱりした夏希まで怒って帰ったんだ。俺たちも美緒さんの言うとおり、もう集まるのをやめたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。美緒さんはずいぶん神経質みたいだし、次に会うときは俺もニップレスを貼ってこないとな」
蒼佑がすぐに遮った。
「冗談はやめろ。女を取って仲間を捨てるような奴は真っ先にくたばれって、みんなで誓っただろ。お前ら、俺に死ねって言うのか?」
そして急に真顔になり、私に尋ねた。
「美緒、この話はもう終わりにできないか?」
私は彼の後ろに並ぶ仲間を見て、うなずいた。
「別れれば、これで終わりよ」
私がタクシーを止めると、蒼佑も強引に乗り込んできた。
彼はすぐに窓を開け、仲間たちに大声で叫んだ。
「夏希の家へ行って、無事に着いたか確かめてくれ!今日はかなり飲んでた!」
私は窓の外を見たまま、一言も話さなかった。
蒼佑が初めて私に紹介した友人も、夏希だった。
あのとき、夏希は興味深そうに私を眺めた。
「蒼佑って、だんだん地味な女が好みになってるんだ。今はこういうタイプ?」
だが私は、それ以前から夏希の存在を知っていた。
実家で家事をしてくれている住み込みの家政婦。その人がベッド脇に飾っていた家族写真に、夏希が写っていた。
母親は娘の話になると、いつも誇らしげだった。素直で親孝行で、世間知らずなくらい純粋な子だと言っていた。
だから初めて本人に会ったとき、母親から聞いていた人物像とあまりに違うことに驚いた。
その後、警察官の友人が繁華街の店を立ち入り調査した際、夏希を見かけた。
彼女はウィッグをかぶり、露出の多いドレス姿で客の膝に座り、口移しで酒を飲ませていた。友人はその写真を私に送ってきた。
それでも私は、何か事情があるのかもしれないと思っていた。
人の陰口を言いたくなかった私は、ただ小さく息を吐いて言った。
「蒼佑、あなたと一緒にいるのは、もう本当に疲れた。別れよう」
いつまで待っても返事がなく、私は彼を振り返った。
蒼佑は瞬きもせず、スマホの画面を見つめて何度も更新していた。
仲間から「夏希は無事に帰宅した」というメッセージが届くと、ようやく緊張でこわばっていた肩から力が抜けた。
それから、きょとんとした顔で私を見た。
「今、何か言ったか?」
その瞬間、自分がひどく滑稽に思え、涙があふれた。
蒼佑は驚き、慌てて涙を拭いながら私を抱き締めた。
「分かった。もう夏希とは二人で会わない。これでいいだろ?」
私は彼をまっすぐ見つめ、はっきり告げた。
「別れよう」
それから一週間、私は何度も別れを告げた。だが蒼佑は家に居座り、料理も掃除も洗濯もして、話をうやむやにしようとした。
私は二人に関わる財産や契約を整理するのに忙しく、情に流されないよう意識していた。
5年前にたばこをやめたはずの彼は、また吸い始めた。毎日、ベランダで何時間もたばこを吸いながらぼんやりしていた。
食事中、豚肉とピーマンの炒め物を見つめて動かなくなった。夏希の好物だった。
私がバッグに入れたニップレスを見つけたときでさえ、手に取って長いこと眺めていた。
彼の目からは、すっかり光が消えていた。
そんなある日、仲間からバスケットボールに誘う電話がかかってきた。
蒼佑はベランダへ出て、声を潜めた。
「夏希も来るのか?」
返事を聞くと、私には「仲間とバスケしてくる」とだけ言い、部屋着のまま玄関へ向かった。
着替えていないことに気づいて戻ってくると、服を替え、鏡の前でいつまでも髪を整えていた。
初恋に浮かれる高校生のようだった。
胸の痛みを隠して「お見合いにでも行くの?」とからかうと、彼はようやく思い出したように私に軽くキスをし、逃げるように家を出た。
どれだけ冷たくなろうとしても、やはり胸は痛んだ。
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