トップ女優の彼氏である僕はもう灰です第2話
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剛が深くうなずいた。
「まあ、そうよね。余崎さんがあなたを見捨てるわけがない。誰だって知ってるよ、あいつがあなたに狂ったように惚れてて、どれだけみっともない真似をしてきたかって」
たしかに。
この何年か、僕は自尊心を失くすまで彼女を愛し、心が壊れるほどに愛した。そして、癌が見つかった。
まさに、報われない恋の典型だ。
でも、もうこの先はない。
僕は自嘲気味に笑い、足を早めてその場を去った。
翌日、汐は例の噂の彼氏を連れて、会社でデートをしていた。
同僚の心配そうな視線を浴びながら、僕はなんでもない顔で、退職届を提出した。
人事部長が目を丸くした。
「余崎くん、君はウチでも指折りの芸能マネージャーだ。急に辞めるとは、富樫さんに新しい恋人ができたからか?」
僕は言葉を失った。
周りの誰もが、僕が現れたのも立ち去るのも、すべて汐のせいだと思っている。
僕が自分のためだとは、誰も考えない。
「まあ、そういうことにしておいてください」
「しかし君が辞めたら、富樫さんは激怒するんじゃないか」人事部長はそうつぶやきながらも、承認印を押した。
ついに自由だ。
オフィスに戻ると、汐が新しい彼氏の信悟の腕を組み、僕のところへやってきた。「成輝、私の新しい彼氏、どう思う?」
僕は彼女の隣の青年を見て、「素敵な人だね」と答えた。
汐はとたんに動揺し、顔を曇らせる。「成輝、あなたが変わったね」
僕はたしかに変わった。
昔の僕は独占欲が異様に強く、汐とどんな男優とのスキャンダルにも、いちいち噛みついた。
嫉妬深く、一喜一憂して、まるで狂人みたいだった。
汐は信悟を外に行かせてから、じろじろと僕を観察するように見つめた。
「成輝、もう二日よ。まだ駄々をこねるの?
たかが一度、プロポーズに顔を出さなかっただけで、そこまで怒ること?家にさえ帰らないなんて。
言ったでしょ、こんなに長く一緒にいるんだから、ちゃんと格好つけさせてあげるって。どうしても私を信じられないの?」
僕は体調がすぐれず、ここ数日は流動食ばかり口にしていた。
それでも何を食べても吐いてしまっていた。
彼女の言葉があまりに吐き気を催すものだったからか、急に胃の中のものがこみ上げて、彼女の目の前で吐いてしまった。
汐は顔色を失い、歯を食いしばって僕に問う。「成輝、どういうつもり?いい加減にしないと、婚約がどうなっても知らないからね!」
僕はティッシュを取り出して口元を拭いた。
「ちょっと気持ち悪くなっただけ」
汐は一瞬きょとんとして、それから激怒して背を向け歩き去った。
「まったく話が通じないわ!」
今回、僕は微塵も心が痛まなかった。
仕事の引き継ぎをし、夕方までずっと忙しくしていた。
剛が僕のオフィスにやって来て、映画チケットを一枚差し出した。
「汐のことはわかってるだろ。彼女は言葉が足りないし、加減を知らないところもある。でも、心の中にはちゃんとお前がいるんだ。
それ、前にお前がどうしても観たいって言ってた映画だ。彼女がチケットを買ってくれた。
今夜九時、映画館の入り口で。余崎さん、必ず来いよ」
その映画チケットを見つめながら、僕は何かを考え込んでいた。
これが汐からの仲直りのサインで、彼女なりの償いでもあることはわかっている。
少し考えてから、僕はそのチケットを受け取った。もともと僕に借りがあるのは、彼女の方だから。
夜九時、僕は時間通りに映画館の入り口に現れた。
汐はマスクに帽子という完全防備で、僕のそばにやって来た。
だが彼女の後ろには、やはりマスクと帽子で顔を隠した男が一人ついてきている。信悟だ。
僕が彼女の背後の青年に目をやると、彼女は甘えるように言い訳をした。
「私たちの新ドラマがもうすぐ放送されるの。わかるでしょ、宣伝のために話題作りが必要なのよ」
僕はまったく気にせず、映画館の中へ足を踏み入れ、自分の席に座った。
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