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スキンシップ恐怖症が治った彼氏の遅すぎた後悔第2話

この話は約2473字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

かつて海吏と交際を始めようとした時、藤堂悠河(とうどう ゆうが)は何度も珠羽を思いとどまらせようとした。

珠羽が愛を語り、魂の結びつきを信じたのに対し、悠河は冷静に現実を分析してみせた。

「海吏には深刻な心理的トラウマがある。それはつまり、彼が君と健全な親密さを築けないということだ。

珠羽、君に必要なのは欠落のない完全な愛であって、自己犠牲じゃない」

当時の珠羽はそれをまともに受け止めず、「完全な愛?あなたがくれるような愛のこと?」と言い返した。

悠河はその問いに直接は答えず、ただ彼女を見つめ返した。

「五年以内に君は彼に失望する。俺はそう賭ける。もし俺の賭けが勝ったら――」

彼は少し間を置き、真剣な声音で告げた。「俺に一度チャンスをくれないか」

今、悠河の聞き慣れた声は相変わらず低く落ち着いていた。「俺が言った言葉は、いつだって有効だ」

珠羽は唇を噛み締め、再び涙がこぼれ落ちるのを堪えた。「分かったわ。じゃあ、半月後に私を迎えに来て。一秒でも遅れたら許さないから……」

電話を切ると、珠羽はマンションに戻った。

室内は真っ暗で、海吏の姿はない。

彼女は真っ直ぐウォークインクローゼットに向かい、スーツケースを取り出して自分の荷物をまとめ始めた。

ふと、ドレッサーの上に置かれたベルベットの箱が目に留まる。

去年、海吏が贈ってくれたダイヤモンドのブレスレットだ。

海吏が彼女の素肌に触れないよう、細心の注意を払いながら手首に着けてくれた時のことを、珠羽は今でも鮮明に覚えている。あの時の彼の声には、言いようのない切なさが滲んでいた。

「この手で直接、お前を抱きしめられたらよかったのに」

当時の珠羽はただ彼の苦しみを思って胸を痛めていたが、今思えば、あれは自制などではなく純粋な拒絶だったのかもしれない。

それから、彼が知人に頼んで海外から取り寄せてくれた限定品の香水。「この香りはお前のようで安心する」と彼は言っていた。

しかし後になって、珠羽は絵凛からそれと全く同じ香りがするのに気づいた。

珠羽は自嘲気味に口角を上げ、一切の躊躇なく、それらの物をすべて傍らのゴミ袋に放り込んだ。

綺麗に片付けてしまえば、過去の五年間をごっそり心の中から抉り出したような気分になった。

彼女はベッドに横たわり、目を開けたまま天井を見つめていた。夜中の三時になっても、海吏は帰ってこない。

今頃、彼はまだあの女と「初めての行為」に夢中になっているのだろう。

珠羽は静かに目を閉じた。心の底にわずかに残っていた最後のかすかな期待すらも、完全に消え去った。

翌朝早く、珠羽は転籍の申請書類を持って大学へ向かった。

心理学部の研究棟を通りかかった時、珠羽の視線に海吏と絵凛の姿が飛び込んできた。

二人は見慣れた桜並木を肩を並べて歩いており、その様子は親密そのものだった。

昨年の桜が満開だった頃、彼がその木の下で約束してくれたのを珠羽は覚えている。

「これから毎年花が咲いたら、二人でここへ来よう」

だが今、桜はまだ散りきっていないというのに、彼の隣に立っているのはもう彼女ではなかった。

絵凛は口元を覆って笑いながら彼に何かを語りかけている。

海吏の普段は冷ややかな目元が今は穏やかに和らぎ、彼は少し首を傾けて話を聞きながら、口元にリラックスした笑みを浮かべていた。

そこへ、快活な学生たちが何人か通りかかり、二人の姿を見るなり一斉に囃し立てた。

「桜井先生、彼氏さんですか?超イケメンですね!」

「本当本当、お二人ともすごくお似合いですよ!」

海吏は少し足を止め、視線を泳がせたが、結局否定の言葉を口にすることはなかった。

「珠羽さん?」絵凛が先に彼女を見つけ、親しげな笑みを浮かべた。

「気にしないでね。学生たちの他愛のない冗談だから」

海吏はここでようやく彼女の存在に気づき、ほんのわずかに眉をひそめた。

「珠羽、もう出張から帰ってたのか?なぜ俺に言わなかった?昨日は俺の誕生日だったのに、お前は来もしないし、メッセージの一通も返してくれないなんて」

珠羽の視線は彼の首筋にある、ファンデーションで辛うじて隠された生々しい赤い痕に向けられていた。

かつて自分だけを真っ直ぐに選んでくれた彼の確固たる意志は、今や別の女に対する黙認と底なしの甘やかしへと完全に成り下がっていた。

珠羽は軽く笑った。その微笑みには、隠そうともしない嘲りの色が混じっている。

「あなたこそ、今日ここへ来ることを私に言ってなかったじゃない?」

海吏の顔に一瞬の動揺が走り、無意識に言い訳しようとした。「俺は……」

「私が海吏を連れてきたの」絵凛が自然に言葉を引き取った。

「今日、大学でとても重要な心理学の講演会があってね、彼の症状の回復に役立つから」

絵凛はそう言いながらバッグから二枚のチケットを取り出し、しとやかに微笑んだ。

「珠羽さんも一緒に聞きに行く?でもあいにく、主催者からは二枚しかチケットをもらえなくて」

同じ女として、珠羽は絵凛の目にある明らかな挑発を見て取り、淡く微笑んだ。

「あなたたちの独自の『療法』のお邪魔はしないよ」

珠羽はそう言い残し、きびすを返してその場を去った。

結局、海吏が追いかけてくることはなかった。

書類を提出し終えた後、珠羽はキャンパスのベンチに座り、スマートフォンを取り出してSNSのタイムラインを開いた。

すると、昨夜、海吏の親友がアップした投稿が目に留まった。

【主役の誕生日祝いで海辺へドライブ。見ろよこの二人、一晩中イチャイチャしやがって!】

数枚の写真が添えられていた。

中の一枚には、焚き火のそばで絵凛と海吏が親密に寄り添う姿が写っていた。

背景は漆黒の海岸と色鮮やかな花火だった。

珠羽が「いいね」を押し、もう一度更新すると、その投稿はすでに削除されていた。

恐らく、本人が彼女に見られるのを恐れたのだろう。

珠羽は自嘲気味に笑い、静かにスマートフォンを置いた。

臨床医学部へ転籍するという決定は、これ以上ないほど正しいことだったと彼女はふと思った。

少なくともあそこでは、目に見える病気を治し、救う価値のある人を救うことができるのだから。

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