サヨナラ、99回私を捨てた人第2話
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夜、リゾートホテルに到着した私は、目の前の光景に息を呑んだ。
建物全体が花で飾り付けられ、ピンクと白のバラが柱を絡み、暖色のライトが花びらに降り注ぎ、まるで夢のようなお城のようだった。
入り口の広場に着いた途端、ドローンがいっせいに夜空へ舞い上がり、「結婚してください」の文字を描き出した。
続けて、鮮やかな花火が夜空を彩った。
周囲からは次々と感嘆の声が上がった。
「陸田家の御曹司がプロポーズだって!ロマンチックすぎ!」
「大輔様と夏海様でしょ?お似合いよね、まさに王子様と王女様の恋」
空に咲く花火を見上げ、私はふと昔を思い出した。
いつだったか、大輔の胸の中で「プロポーズは花火とドローンがいい」とはしゃいだ私に、彼は笑って「お前の言う通りにするよ」と約束してくれた。
花びらが敷き詰められた小道を進むと、その先に立つ影を見て足が止まった。
大輔は大きな赤いバラの花束を抱えており、彼の前に立っていたのは、白いワンピースを着た陽可だった。
距離はあったが、彼の声が微かに聞こえてきた。
「陽可は俺にとって特別だ。絶対に離さない……」
私は自嘲気味に口元を歪め、背を向けて立ち去ろうとした。
「夏海さん?」
大輔の友人が私に気づき、声を上げた。
大輔ははっと振り返り、私を見ると、その瞳に一瞬うろたえたが、陽可が先手を打った。
「夏海さん、大輔さんがプロポーズの練習に付き合ってほしいって。緊張しちゃうからって、私が相手役をしてたの。誤解しないでね?」
無垢な笑顔を浮かべているが、その瞳には挑発の色が透けて見えた。
大輔も我に返り、「夏海、これは全部お前のために用意したものなんだ」と取り繕った。
私の視線は、陽可の指先へと向かった。大きなダイヤの指輪が煌々と輝いており、思わず笑ってしまった。
「……練習にしては、気合が入ってるわね」
陽可は手を揺らし、軽々しい口調で言った。
「これ?大輔さんがくれたの。小道具よ、小道具」
本物か偽物かくらい、私にだってわかる。何十カラットもあるダイヤを、小道具に使うわけがない。
大輔がアシスタントに合図を送った。
「夏海、もう一度やり直させるから」
私は穏やかに、けれど冷淡に遮った。
「いいえ、結構よ。
もう十分に見たわ。手の込んだ演出ね」
ただ、このロマンチックなプロポーズのヒロインは、私ではなかったというだけ。
大輔が何か言いかけた時、陽可が胸を押さえて苦しそうに呼吸を乱した。
「……ゲホッ、花火の煙が……苦しい……」
大輔はすぐに彼女を抱きかかえた。
「陽可!大丈夫か?すぐ休もう」
その茶番劇を黙って見送り、私はその場を去った。
このリゾートホテルは私の実家が経営するもので、私専用の部屋がある。
シャワーを浴びてバスローブ姿で出てくると、ソファに大輔が座っていた。
私の最初の感想は、「電子ロックの暗証番号を変えなきゃ」だった。
だって、私の結婚相手はもう、彼ではないのだから。
大輔が私を振り返り、わざとらしい言い訳を始めた。
「夏海、変なふうに思うなよ。陽可は来月には実家に帰るんだ。彼女は国内に友達がいないから、最近ずっと俺について回ってただけで……
今日の会場も、彼女が自ら手伝ってくれた」
「そう。お疲れ様」
私は淡々と返事をし、ベッドに座って髪を拭いた。
私の冷たさに気づいたのか、彼は立ち上がって近づき、そのまま私の足元にしゃがみ込み、顔を上げて私を見つめた。その瞳には幾分かの熱意が宿っていた。
「夏海、来月の式が楽しみで仕方ないんだ。最高にワクワクしてる」
私のための花火とドローンを使って、他の女に愛を誓いながら?
そんな言葉は飲み込んで、「結婚式の準備で疲れてるから」と言って彼を追い出した。
翌朝、大輔は仕事があると言って早々に去っていった。
それからの半月、彼からは頻繁にメッセージが届いた。結婚式に関する質問だったり、結婚式にふさわしいと思う曲をシェアしたりしていた。
私は【いいと思う】【任せるわ】とだけ短く返した。
以前のように、目を輝かせて準備のあれこれを嬉々として彼に話したり、新婚生活を夢語りしたりすることは、二度となかった。
大輔は仕事が忙しくて会えないと言ったが、陽可からのメッセージが次の瞬間には彼の嘘を暴いてしまった。
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