サヨナラ、99回私を捨てた人第1話
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婚約者は98回も結婚式をすっぽかした。
花嫁を迎えにくる道中、彼の初恋の人はいつも、彼が必ず通る道で事故に遭う。
そして彼は、彼女を病院へ運ぶために迷わず式を延期するのだった。
99回目の式当日、また彼から電話が来た。
「夏海(なつみ)、ごめん。陽可(ひより)がまた事故だ。式を遅らせてくれ」
スピーカー越しの救急車のサイレンは、過去98回と全く同じだった。
私は淡々と答えた。
「わかったわ」
彼は一瞬呆気にとられた。私がこれほど平静だとは予想していなかったのだろう。
「今回が最後だ」彼は必死に約束した。「式が終わったら、埋め合わせにスイスへ雪を見に行こう」
彼は知らない。スイスなんて、私はもうとっくに行っているのだ。
それに、100回目の結婚式で私が選んだ新郎は彼ではない。
* * *
婚約者は98回も結婚式をすっぽかした。
花嫁を迎えにくる道中、彼の初恋の人はいつも、彼が必ず通る道で事故に遭う。
そして彼は、彼女を病院へ運ぶために迷わず式を延期するのだった。
99回目の式当日も同じ。
結婚式の時間が過ぎても、陸田大輔(りくだ だいすけ)は一向に姿を現さなかった。ゲストたちの間では彼への不満が高まっていた。
私は胸が締め付けられる思いを我慢しながら、笑顔で皆をなだめた。
なぐさめの言葉が終わるやいなや、大輔から電話が入った。
案の定、迎えに来る途中で彼の初恋の人がまた事故に遭ったという。
電話の向こうからの言い訳を聞きながら、私の気持ちは徐々に冷めていった。
彼の謝罪と約束、私は98回も聞いてきた。
最初は悲しく、やがて慣れ、今となってはただばかばかしく思える。
電話を切り、ゲストたちを送り出した。
ゲストが去った後のホールはひどく空虚で、メインテーブルに飾られた真っ白なカサブランカの芳醇な香りが、皮肉にも私の惨めさを引き立てていた。
何度も夢見た結婚式。けれどその期待は、彼の欠席のたびに削り取られ、今では何も残っていない。
片付けを終えた頃、大輔がやってきた。
オーダーメイドのスーツに身を包み、申し訳なさそうな顔で言った。
「夏海(なつみ)、すまない。陽可(ひより)が急に飛び出してきた原付にぶつけられて……病院まで付き添って、今ようやく戻れたんだ」
私は冷静に答えた。
「わかったわ。彼女の命の方が大事だものね」
大輔の瞳には驚きが満ちており、彼は探るように尋ねた。
「……本当にそう思っているのか?」
彼はきっと、私がいつものように目を真っ赤にして問い詰めるか、拗ねるのを待っていたのだろう。
「今まで私がこだわりすぎてただけ。命に関わることだもの、優先して当然だわ」
彼は安堵し、近づいて私を抱きしめた。
その腕の温度には相変わらず馴染みのある温かさだったけれど、今の私には温かさなど少しも感じられなかった。
「夏海、俺が悪かった。いつも辛い思いをさせて……でも、陽可には身寄りがいない。放っておけないんだ」
言い終わらぬうちに、ポケットの中のスマホが鳴った。
「わかった、すぐ行く」
電話を切ると、彼はためらいがちに私を見た。
「陽可が病院で暴れてる。誰にも止められないらしい」
私は微笑んで言った。「行ってあげて。私は大丈夫だから」
物分かりのいい私を見て、彼は安堵し、手を伸ばして私の髪を撫でながら言った。
「ありがとう。戻ったら、お前の好きな和菓子を買ってくるよ」
急ぎ足で去っていく背中を見つめながら、私の笑みは徐々に消えていった。
彼はいつだって、穴埋めのプレゼントをくれる。
けれど、そんな軽々しい埋め合わせで、何度も台無しにされた式や裏切られた期待が償えると思っているのだろうか。
99回目。
もう、彼を信じることはできない。
私はスマホを取り出し、陸田大輝(りくだ だいき)へメッセージを送った。
【次の結婚式、新郎になってくれないかしら?】
返信はすぐに来た。
【喜んで】
陸田家との縁談は、もともと私が熱望したものだった。
幼馴染の大輔は、一生の安らぎをくれる場所だと信じていたから。
けれど、陸田家の息子は彼一人ではない。
その夜、大輔は帰ってこなかった。予想通りだ。
翌朝、SNSを開くと、陽可が写真をアップしていた。
キャプションには【愛してくれる人は、決してあなたを置いていかない】と書かれていた。
写真には、男がうつむいて彼女の足に薬を塗っている様子が写っていた。その横顔は私の婚約者の大輔だった。
私は画面に向かって小さく笑い、コメントを残した。
【その通りね】
スマホをしまい、私は大輝に会いに行った。結婚式の段取りを一つずつ詰めていく。
日程は変わらず、来月のまま。あと20日しかない。準備はすべて整っているから、新郎を入れ替えるだけだ。
余計な波風を立てないよう、大輔には内緒にするよう念を押した。
もっとも、大輔があの日に時間通りに来るはずなんてないけれど。
会社へ向かおうとすると、大輔から電話がかかってきた。
「夏海、陽可の投稿にコメントしただろ?」
彼の口調は甘やかしたようで、まるで昨日の私の平静さが強がりだったと確信しているかのようだった。
「やっぱり怒ってたんだね。深く考えないで。今夜、郊外のリゾートホテルで待ってるから、絶対に来てね」
私が返事をする間もなく、彼は電話を切った。
行くつもりはなかったが、大輝が「ついでにあの辺でウェディングフォトを撮り直そう」と提案してくれたので、足を運ぶことにした。
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