ようやく大切なものに気づいたってもう遅い第3話
この話は約1307字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
指輪がゴミ箱に放り投げられた瞬間、晃の表情が歪んだ。
彼は前方に一歩踏み出し、口を開いたが、周りには多くの社員がいるので結局こう言った。
「水瀬さん、ちょっとオフィスに来てくれ」
ドアが閉まった。
「葵、言い訳みたいなことをいくら言ったところで、もっと事が面倒になるだけだ。だから、そんな態度をとるのはやめてくれないか」
彼の声はかなり低く抑えられていた。その瞳からは愛情が溢れ出てきそうに見えた。
彼は私のほうへ近づき、手に触れようとしてきたが、私は素早くそれを避けた。
「さっきの事は、説明するから。
杏南ちゃんの家で問題が起きたから、手助けをしたまでだ。俺は彼女とは何の関係もないよ。ただの指輪だろう。君が欲しいならもっと良いものを買ってやるから」
彼は毎年の誕生日プレゼントも全て事前に購入し、当日に到着するように発送を手配していた。
しかも、ある年彼から贈られたプレゼントは、顧客へのプレゼントとまったく同じ物だった。
「俺も手間は省きたかったし、それに、プレゼントはなんといっても贈る気持ちが大切だろう?」
しかし、彼が杏南に贈ったあの指輪は、聞いたところによると歴史上のある国の貴族が、初恋の相手に贈った愛情たっぷりな代物らしい。
そしてそれには物語があり、「君は初恋であって、僕が最後に恋に落ちた人でもある」だという。
私はこの時、心臓が抉られるかのように、ズキズキと痛んだ。
私は溢れそうな涙を堪えるために、何度も瞬きをした。
「昨日の夜は?あなた、すぐに帰ってくるって言ってたじゃない」
晃は無意識に右手を握りしめ、親指で人差し指をこすった。
彼が嘘をつく時に見せる癖だ。
「昨日は借金取りたちが彼女の家の前に押しかけていたから、一人残して帰るのは心配だったんだよ」
私は早々に書いて印鑑も押した退職届を彼のデスクの上に置いた。
「稲森晃社長」
私は彼の目をじっと見つめた。
「承認お願いします」
彼が下に視線を向けて、それをよく確認しようとした時、ちょうど杏南が入ってきた。
彼は見ることもなくさっさとサインし、そのまま私に返してきた。
「葵、私と晃君は別にあやしい関係じゃないのよ。あなたが叩かれる時、彼はあなただけを守ってくれていたでしょ?
まったく、毎回、まるで私がいじめっ子みたいじゃないの。子供の頃って何も分かってなかったのよ。あなたは立派な大人なんだから、私に寛大な心を持ってよね」
そう言うと、彼女は私に近づいて、わざとらしく親しい雰囲気で私の腕をつかんで揺らした。
彼女の手にキラキラと眩しく光るあの指輪が、非常に目についた。
私は彼女の手を振り払った。
この時、晃が急いでやって来て、サッと杏南の手をつかんで後ろに引き寄せた。
「葵、俺は本当に杏南ちゃんとは何の関係もないから。
関係のない彼女まで巻き込むんじゃないぞ」
私は唇をキュッと閉じ、もはや笑えなかった。
かつては、私はいつも彼から守ってもらう必要があった。
そして今、彼と私の間には、はっきりと境界線が引かれている。
晃は素早くデスクのほうへ体を向けると、そこにあったサイン済みの休暇届を私の前に突き出した。
そして珍しく優しい声でこう言った。
「葵、数日休んで、頭を冷やしたほうがいいよ」
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