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もう、あなたを待たない第2話

この話は約2144字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

皆が立ち去ると、知夏はもう堪えきれず、凛久の頬を思い切り平手で打った。

その一撃で凛久の口元から血が滲んだが、彼は怒ることもなく、ゆっくりと手を上げて血を拭い去るだけだった。

「もう見たんだろう。そうだ、俺は浮気した。怒るのは構わないが、日奈の前では騒がないでくれ。あの子は妊娠中なんだ。刺激を与えちゃいけない」

かつて彼はこう言っていた。

「知夏、俺が一番愛しているのは君だ。誓ってもいいよ。たとえ遠くに離れても、絶対に君を裏切らないし、浮気もしない」

それなのに今、彼はあまりにもあっさりと、自分は浮気したのだと告げ、そのうえ日奈の前では騒ぐなと言うのだ。

知夏は笑った。

笑いながら、涙が止まらなくなった。

「どうしてなのか教えて。私の何がいけなかったの?どうしてこんな仕打ちをするの?愛していないなら、どうして最初からそう言ってくれなかった?どうして結婚中の浮気なんて形で私を苦しめるの?」

知夏が泣く姿を見て、凛久はため息をついた。

「そうじゃない。知夏のいない世界は......あまりにも寂しかったんだ。3年前、俺の誕生日に偶然日奈とぶつかった。あの子には家族がいなくて、かわいそうだった。それで毎日のように病院へ見舞いに行くようになったんだ。ある日、医者が骨折の治療をしてる時、あの子は大泣きして、鼻水も涙も俺のシャツにべったりつけた。それなのに、不思議と少しも嫌じゃなかった......気がついたら、あの子に惹かれてたんだ。

それから間もなく、俺たちは付き合うようになった......君に知られるのは予想外だが、なかったことにはできないか?まだ昔みたいに......な?俺の中で、一番大切な人はずっと君なんだ。それは約束するよ」

その言葉を聞いて、知夏はただ滑稽だと思った。

彼女と凛久は幼なじみで、一緒に育ち、そのまま恋人になった。

世界中の誰もが、凛久が一番愛しているのは知夏だと知っていた。

彼女自身も、ずっとそう信じていた。

凛久は感情を抑えた穏やかな人で、他人にはいつも冷静で距離を置いていたが、彼女にだけはどこまでも優しく、辛抱強く甘やかしてくれた。

子どもの頃、よく他の子にからかわれると、そのたびに凛久が彼女の前へ立ちはだかり、相手を追い払ってくれた。

彼女がリンゴを食べたがると、木登りなんてできないくせに無理をして木へ登り、一番赤く熟した実を摘んで彼女の手に乗せてくれた。

雨の日に傘を持っていなければ、彼の傘はいつだって彼女の方へ傾けられ、自分がずぶ濡れになっても気にしなかった。

生理痛で苦しむ時には、事前に温かいカイロを用意して、そっと彼女の鞄へ忍ばせてくれた。

大学卒業後、彼女は別の街にある大病院で産婦人科医として働く道を選び、凛久は江ノ城に残って起業した。

やがて事業が成功すると、彼は彼女にプロポーズした。

遠距離になっても、二人の愛が揺らぐことはなかった。

結婚して5年。

友人たちが口を揃えて言っていたのは、いつも同じ言葉だった。

「凛久さんがあれだけ君を愛してるのに、浮気なんて心配する必要ないよ。安心しろ、俺たちがちゃんと見張ってる。もし浮気なんかしたら、俺たちが代わりに殴ってやるから!」

彼女はずっと、凛久は絶対に浮気しないと信じていた。

仮にそんなことがあれば、友人たちが必ず知らせてくれるとも。

けれど、すべてが嘘だった。

皆が彼女を騙していたのだ。

知夏は深く息を吸い、ゆっくりと目の前の男を見つめた。

「もうわかったわ。彼女に心を奪われたというなら......離婚しましょう、凛久。お幸せにね」

そう言って立ち去ろうとした彼女を、凛久は後ろから抱き締めた。

「待ってくれ、知夏!少しは俺を理解してくれないか?君こそ俺の妻だ。あの子と子どもは江ノ城で面倒を見る。君は京城にいればいい。あの子たちが君の前に現れることはない」

「何それ。それであなたが浮気した事実が消えるとでもいうの?たとえ江ノ城で養ったとしても、浮気したことに変わりはないでしょう!?」

知夏は勢いよく彼を突き飛ばした。

「矢野凛久、はっきり言うわ。私は浮気した男も、不倫相手も、絶対に許さない!」

「不倫相手って?二人とも何の話をしてるの?」

いつの間にか日奈が個室から出てきていた。

大きなお腹を支えながら、きょとんとした表情で凛久と知夏を見つめる。

「凛久、不倫相手って......誰のこと?」

その無垢で何も知らないような様子を前にしても、知夏は容赦なく言い放った。

「私が凛久の妻よ。彼とは結婚して5年に――」

「もうやめろ!」

彼女が真実を口にしたのを見て、凛久は激昂し、力いっぱい知夏を突き飛ばした。

「黙れと言っただろ!」

これだけの裏切りを受け、知夏の心はとっくに限界だった。

強く突き飛ばされた拍子に立っていられず、そのまま地面へ尻もちをつく。

手首の皮膚は大きく擦りむけ、焼けつくような痛みが走った。

反射的に凛久を見上げる。

以前の彼なら、真っ先に駆け寄って傷の手当てをしてくれたはずだった。

しかし今、彼が駆け寄った相手は別の女性だった。

「日奈、違うんだ。話を――」

「そんなはずない!私が不倫相手なんてありえない!この嘘つき!!」

日奈は力いっぱい彼を突き放したが、感情が激しく揺さぶられたせいで、そのまま意識を失って倒れてしまった。

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