和紙文もう、あなたを待たない · 第3話設定≡

もう、あなたを待たない第3話

この話は約2046字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

日奈が倒れると、凛久は取り乱したように叫んだ。

「日奈、しっかりしろ!日奈!」

傍らにいた友人たちも大慌てだった。

「早く電話を!早く!救急車を呼べ!」

「妊娠後期なんだ、いつ産まれてもおかしくない!すぐ産科の先生にも連絡して!」

そして、知夏の親友である優衣までもが涙を流していた。

「......日奈、矢野さんに元気な赤ちゃんを産んであげるって言ってたじゃない。絶対に死なないで......!」

目の前の混乱を見つめながら、知夏の胸は刃で切り裂かれるように痛んだ。

凛久は日奈を抱き上げて連れて行った。

彼女のそばを通り過ぎても、一度もこちらを見ることはなかった。

皆がその後を追い、優衣も通り過ぎざまに憤ったような目で彼女を睨みつけた。

「矢野さんが黙っていてくれって言ったのに、どうして言っちゃったの?あの子には両親もいなくて、今は矢野さんとお腹の子しかいないのよ!知夏はひどすぎるよ!」

知夏は歯を食いしばって立ち上がった。

「つまり、あなたは最初から凛久が浮気していたことを知っていたの?それなのに、私には黙っていたのね」

「ええ、そうだよ。でも誰も言うつもりはなかった。だってあなたって、いつも些細なことを大ごとにするじゃない。でも日奈は違う。大きなことでも穏便に済ませようとする子なの。私たちはみんな、あの子の方が好きよ!」

一番の親友から告げられたその言葉は、凛久の浮気に負けないほど彼女の胸を抉った。

知夏は静かに笑った。

だが、その笑みは目には届かず、残っていたのは骨の髄まで凍りつくような冷たさだけだった。

「先月十日、私が急性胃腸炎になった日を覚えてる?一人で病院で点滴を受けて、夕方から深夜までずっといた。あの日、グループチャットで『苦しい』って送ったのに、誰も返事をくれなかった。そのあとあなたに個別で連絡したら、『矢野さんは会議中だし、私も忙しい』って言ったわよね。あの時、何をしていたの?」

優衣は彼女に顔を向けた。

「その日は日奈の妊婦健診だったの。赤ちゃんがへその緒が首に巻き付いちゃってて、みんな心配で病院に付き添ってた。だからあなたに構ってる暇なんてなかったの」

知夏はさらに尋ねた。

「じゃあ先週の私の誕生日は?凛久は出張だって言って――」

優衣は苛立ったように彼女の言葉を遮る。

「その日は日奈の気分が落ち込んでたから、みんなでクラブに付き添って、一日中カラオケしてたの。

もう聞かないで。この何年も、私たちがあなたに付き合えなかった時は、全部日奈と一緒だった。あの子はもう私たちの大切な友達なの。

知夏も友達だよ。でも日奈は今妊娠してるの。あの子を支えなきゃいけないし......今さらそんなことを気にしたって意味ないでしょう」

そう言い残すと、優衣も慌ただしく走り去った。

広いロビーには、知夏だけが取り残された。

その時になって初めて彼女は思い知った。

この数年間、自分が誇りに思っていた愛情も友情も、なんと滑稽だったのかを。

途方に暮れていると、床に落ちていたスマホが鳴り始めた。

優衣のスマホだった。

彼女は身をかがめて拾い上げる。

ロック解除のパスコードは変わっておらず、今でも優衣の誕生日だった。

メッセージアプリを開くと、すぐに一つのグループチャットが目に入る。

グループ名は――【日奈を守る会】。

そこへ次々とメッセージが流れてきた。

【生まれたぞ!元気な男の子!】

【あんな小柄な体で、こんなに大きな赤ちゃんを産むなんて信じられない。日奈、本当に頑張ったよ】

【そうだね。凛久さん、これからは日奈と赤ちゃんをもっと大事にしないとね!】

【ちゃんと守ってあげないと。また知夏が騒ぎを起こしたら大変だよ】

【凛久さん、いっそのこと知夏とは離婚したら?向こうだって離婚を切り出したんだし。】

その直後、凛久が返信した。

【ああ、みんな、安心してくれ。もう二度と知夏に日奈を傷つけさせない。もしまた同じことがあれば、必ず離婚して、日奈に盛大な結婚式を挙げるよ】

その一文を見た知夏は、皮肉げに口元を歪めた。

自分が離婚を切り出した時は応じなかったくせに。

今になって日奈に結婚式を挙げるために離婚するつもりだというのか。

彼女はスマホを手に取り、院長へ電話をかけた。

「院長先生、この前お話しくださった海外研修の件ですが、お受けすることに決めました」

「おや?気が変わったのかい?旦那さんと離れたくないって言っていたじゃないか」

「女性も自分自身の仕事を持つべきですから。それに......私たち、もうすぐ離婚することになりそうなので」

この数年間、彼女はずっと自分のキャリアを築き続けてきた。

凛久の会社がどれほど大きくなっても、彼に寄りかかって生きるだけの存在にはなりたくなかった。

だからこそ、たとえ夫婦関係が壊れた今でも、彼女にはまだ進むべき道が残されていた。

「それなら3日後に出発だが、大丈夫か?」

「わかりました」

電話を切ると、知夏はすぐに車を走らせ、凛久との新居へ向かった。

荷物をまとめるためだ。

一刻も早く、あの家を離れるために。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

R23916
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。