和紙文もう愛する理由はない · 第1話設定≡

もう愛する理由はない第1話

この話は約2007字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

婚約者・祖浜進介(そはま しんすけ)にブロックされてから、55日が経過した。

私は、八年も待ち続けた結婚式をキャンセルした。

その間、彼はうつ病を患った幼なじみ・石塚ニナ(いしづか にな)と共に、K寺で心の療養をしていた。

彼は長年参拝客が絶えなかったK寺を、半年間も閉鎖させた。

一方で、私は彼の突然の失踪により記者に追い詰められ、家にも帰れなくなった。

やむを得ず、私は彼を探しにK寺まで行った。

しかし、「寺の静けさを乱すな」と言われて、山から追い出された。

真冬の寒さの中、私は山のふもとで気を失い、命の危険にさらされかけた。

目を覚ましたとき、私は見た――

進介が自らの手でK寺の境内に、愛の象徴である無数のバラを植えている姿。

半年後、彼はようやく下山し、ニナを連れて帰ってきた。

そして、彼女と一緒に植えたバラを、私との新居に飾りつけたのだ。

私はただ冷ややかな目で見つめている。

彼はまだ知らない――

私がもうすぐ別の人と結婚することを。

* * *

婚約者・祖浜進介(そはま しんすけ)にブロックされてから、55日が経過した。

私は、八年も待ち続けた結婚式をキャンセルした。

その間、彼はうつ病を患った幼なじみ・石塚ニナ(いしづか にな)と共に、K寺で心の療養をしていた。

彼は長年参拝客が絶えなかったK寺を、半年間も閉鎖させた。

一方で、私は彼の突然の失踪により記者に追い詰められ、家にも帰れなくなった。

やむを得ず、私は彼を探しにK寺まで行った。

しかし、「寺の静けさを乱すな」と言われて、山から追い出された。

真冬の寒さの中、私は山のふもとで気を失い、命の危険にさらされかけた。

目を覚ましたとき、私は見た――

進介が自らの手でK寺の境内に、愛の象徴である無数のバラを植えている姿。

半年後、彼はようやく下山し、ニナを連れて帰ってきた。

そして、彼女と一緒に植えたバラを、私との新居に飾りつけたのだ。

私はただ冷ややかな目で見つめている。

彼はまだ知らない――

私がもうすぐ別の人と結婚することを。

……

店で指輪を選んでいると、半年ぶりに進介と会った。

店員が私の手にあるダイヤの大きさを褒めそやしているが、私は何も耳に入らなかった。

ただ、彼を見つめているうちに、心が少し揺れ動いた。

進介は私の指にある指輪を見ると、冷ややかな表情のまま近づいてきて言った。

「どうして一人で先に来た?サプライズを用意してたのに」

口ではそう言っているが、彼の手にぶら下がっている袋の中には、ダイヤのネックレスが入っている。

それは私へのものではない。

ニナのためのものだ。

昨日、彼らが家に戻ったとき、私は聞いた。ニナが彼に甘えるように「誕生日プレゼントにダイヤのネックレスが欲しい」と言っているのを。

そして進介は、すでにその願いを叶えている。

そう――ニナの望むことなら、彼はどんな努力をしてでも必ず叶えてしまう。

私とは違って、私はただ結婚式を望んでいただけなのに、八年待っても叶わなかった。

だからもう、進介。私はあなたを待たない。

私は彼から少し離れて、黙って指輪を外し、店員に包んでもらうように頼んだ。

すると進介はすぐにカードを取り出し、支払おうとした。

私が店員に説明しようとしたとき、ふと彼の手首にある数珠が目に入った。

昨日、ニナが芸能界復帰を発表した際、インスタに投稿した写真の一枚に、まさにその数珠が写っていた。

数珠の写真だけが、他の写真とちぐはぐに見えた。

そしてある人が、それをK寺特有の数珠だと特定したのだ。

瞬く間に、【#K寺の半年閉鎖】と【#数珠の持ち主】というワードがトレンド入りした。

さらに、ニナたちが山を下りる様子を週刊誌が撮影していた。

進介の正面は映っていなかったが、彼のオーダーメイドスーツと【1122】のナンバープレートが、すべてを物語っていた。

世間の人々は、ニナが金持ちに嫁いだことを祝福した。

そして、私だけが完璧な笑い者になった。

現実に引き戻され、店員がカードを切ろうとする手を制した。

「結構です。試着しただけで、買うつもりはありません」

進介はスマホを見つめながら、無関心な口調で言った。

「買っとけよ。ちょうど午後は空いてるし、婚姻届を出しに行こう」

――婚姻届を出しに?

彼にとって、私との結婚は単なる手続きの一部に過ぎない。

だが、そんな愛情のない関係など、もういらない。

私は何も答えずに店を出た。

彼はすぐに後を追い、不満そうに言った。

「またニナのことで怒ってるのか?

前にも言っただろ、結婚式は予定通りだって。俺はただ、彼女の父親の代わりに面倒を見てるだけだ」

そう、ニナは彼の親友の娘だ。

彼女の父が亡くなって以来、進介は彼女の面倒を見てきた。

彼女は「進介おじさん」と呼びながら、その瞳には明らかな恋慕の色が宿っている。

進介も、分かっていないはずがない。ただ、見て見ぬふりをしているだけだ。

そして私は、彼が世間の噂からニナを守るために利用している、ただの盾なのだ。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)