もう愛する理由はない第1話
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婚約者・祖浜進介(そはま しんすけ)にブロックされてから、55日が経過した。
私は、八年も待ち続けた結婚式をキャンセルした。
その間、彼はうつ病を患った幼なじみ・石塚ニナ(いしづか にな)と共に、K寺で心の療養をしていた。
彼は長年参拝客が絶えなかったK寺を、半年間も閉鎖させた。
一方で、私は彼の突然の失踪により記者に追い詰められ、家にも帰れなくなった。
やむを得ず、私は彼を探しにK寺まで行った。
しかし、「寺の静けさを乱すな」と言われて、山から追い出された。
真冬の寒さの中、私は山のふもとで気を失い、命の危険にさらされかけた。
目を覚ましたとき、私は見た――
進介が自らの手でK寺の境内に、愛の象徴である無数のバラを植えている姿。
半年後、彼はようやく下山し、ニナを連れて帰ってきた。
そして、彼女と一緒に植えたバラを、私との新居に飾りつけたのだ。
私はただ冷ややかな目で見つめている。
彼はまだ知らない――
私がもうすぐ別の人と結婚することを。
* * *
婚約者・祖浜進介(そはま しんすけ)にブロックされてから、55日が経過した。
私は、八年も待ち続けた結婚式をキャンセルした。
その間、彼はうつ病を患った幼なじみ・石塚ニナ(いしづか にな)と共に、K寺で心の療養をしていた。
彼は長年参拝客が絶えなかったK寺を、半年間も閉鎖させた。
一方で、私は彼の突然の失踪により記者に追い詰められ、家にも帰れなくなった。
やむを得ず、私は彼を探しにK寺まで行った。
しかし、「寺の静けさを乱すな」と言われて、山から追い出された。
真冬の寒さの中、私は山のふもとで気を失い、命の危険にさらされかけた。
目を覚ましたとき、私は見た――
進介が自らの手でK寺の境内に、愛の象徴である無数のバラを植えている姿。
半年後、彼はようやく下山し、ニナを連れて帰ってきた。
そして、彼女と一緒に植えたバラを、私との新居に飾りつけたのだ。
私はただ冷ややかな目で見つめている。
彼はまだ知らない――
私がもうすぐ別の人と結婚することを。
……
店で指輪を選んでいると、半年ぶりに進介と会った。
店員が私の手にあるダイヤの大きさを褒めそやしているが、私は何も耳に入らなかった。
ただ、彼を見つめているうちに、心が少し揺れ動いた。
進介は私の指にある指輪を見ると、冷ややかな表情のまま近づいてきて言った。
「どうして一人で先に来た?サプライズを用意してたのに」
口ではそう言っているが、彼の手にぶら下がっている袋の中には、ダイヤのネックレスが入っている。
それは私へのものではない。
ニナのためのものだ。
昨日、彼らが家に戻ったとき、私は聞いた。ニナが彼に甘えるように「誕生日プレゼントにダイヤのネックレスが欲しい」と言っているのを。
そして進介は、すでにその願いを叶えている。
そう――ニナの望むことなら、彼はどんな努力をしてでも必ず叶えてしまう。
私とは違って、私はただ結婚式を望んでいただけなのに、八年待っても叶わなかった。
だからもう、進介。私はあなたを待たない。
私は彼から少し離れて、黙って指輪を外し、店員に包んでもらうように頼んだ。
すると進介はすぐにカードを取り出し、支払おうとした。
私が店員に説明しようとしたとき、ふと彼の手首にある数珠が目に入った。
昨日、ニナが芸能界復帰を発表した際、インスタに投稿した写真の一枚に、まさにその数珠が写っていた。
数珠の写真だけが、他の写真とちぐはぐに見えた。
そしてある人が、それをK寺特有の数珠だと特定したのだ。
瞬く間に、【#K寺の半年閉鎖】と【#数珠の持ち主】というワードがトレンド入りした。
さらに、ニナたちが山を下りる様子を週刊誌が撮影していた。
進介の正面は映っていなかったが、彼のオーダーメイドスーツと【1122】のナンバープレートが、すべてを物語っていた。
世間の人々は、ニナが金持ちに嫁いだことを祝福した。
そして、私だけが完璧な笑い者になった。
現実に引き戻され、店員がカードを切ろうとする手を制した。
「結構です。試着しただけで、買うつもりはありません」
進介はスマホを見つめながら、無関心な口調で言った。
「買っとけよ。ちょうど午後は空いてるし、婚姻届を出しに行こう」
――婚姻届を出しに?
彼にとって、私との結婚は単なる手続きの一部に過ぎない。
だが、そんな愛情のない関係など、もういらない。
私は何も答えずに店を出た。
彼はすぐに後を追い、不満そうに言った。
「またニナのことで怒ってるのか?
前にも言っただろ、結婚式は予定通りだって。俺はただ、彼女の父親の代わりに面倒を見てるだけだ」
そう、ニナは彼の親友の娘だ。
彼女の父が亡くなって以来、進介は彼女の面倒を見てきた。
彼女は「進介おじさん」と呼びながら、その瞳には明らかな恋慕の色が宿っている。
進介も、分かっていないはずがない。ただ、見て見ぬふりをしているだけだ。
そして私は、彼が世間の噂からニナを守るために利用している、ただの盾なのだ。
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