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もうお姉ちゃんの身代わりになりたくない第2話

この話は約1937字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

「佳子が亡くなってから、お前の母さんはずっと精神的に不安定なんだ。

もう歳も歳なんだから、お前が少し大目に見てやってくれ」

私はもう何も言い返さなかった。

感情を失ったまま部屋を出て、これまで何度となく繰り返してきた言葉を口にする。

「お母さん、ごめんなさい。

言い返したりして……勝手にいい成績を取ったりして、本当にごめんなさい」

母が振り返る。けれど、その目は私を見ていなかった。

――まただ。

母はまた、私をお姉ちゃんだと思い込んでいる。

「もう、佳子ったら。何を謝ってるの?」

母は優しく笑った。

「ほら、ご飯にしましょう。佳子の好きなもの、いっぱい作ったから」

母は私の手を引いて食卓まで連れていくと、次々と料理を取り分けてくれた。

正気の母からは、絶対に受けられない扱いだった。

普段の私の席は、料理から一番遠い席。

父と母は、姉の写真を挟むようにして座る。

食卓に一本しかない骨付き鶏もも肉。

一番柔らかい豚肉。

スイカの真ん中の、一番甘いところ。

おいしいものは、いつだって全部お姉ちゃんのものだった。

私がそれを食べられるのは、母が私を佳子だと思い込んでいるときだけ。

食事が終わると、母は私を姉の部屋へ連れていった。

ふかふかのベッドに私を寝かせ、丁寧に布団を掛けてくれる。

そしてベッドの端に腰掛けると、私の背中を優しく、一定のリズムで叩き始めた。

「安心しておやすみ。お母さんがそばにいるからね」

姉は幼い頃から、こうして寝かしつけてもらっていたらしい。

暗いところが怖くて、一人では眠れなかったから。

毎晩、眠りにつくまで母がそばにいたという。

私が6歳の頃。

窓の外で鳴り響く雷が怖くて、どうしても眠れなかった夜があった。

私は枕を抱えて姉の部屋へ行き、母に一緒に寝てほしいと頼んだ。

すると母は血相を変え、私を玄関の外へ突き飛ばした。

「まだ小さいくせに、お姉ちゃんとお母さんを取り合おうとするなんて!

あんたみたいなわがままな子、私の娘じゃない!」

あの夜、私は声が枯れるほど泣き続けた。

母が家の中に入れてくれたのは、空が明るくなってからだった。

今、ようやく与えられた母のぬくもりを感じながら、私は心の中で静かに数える。

五。

四。

三。

二。

一。

その瞬間。

母のぼんやりしていた瞳に、突然意識が戻った。

さっきまで慈愛に満ちていた眼差しが、一瞬にして憎悪へと変わる。

「……なんであんたが佳子のベッドにいるの?

この子がこの世に残した最後の居場所まで奪うつもり?今すぐ出ていきなさい!」

母は私の腕をつかみ、ベッドから引きずり下ろした。

私は慣れたものだった。

母がスリッパを投げつけてくるより先に、部屋から逃げ出した。

そして、自分の部屋へ戻る。

もともとは物置だった、私の部屋。

明るくて暖かな姉の部屋とは比べものにならないほど粗末だった。

一年を通してほとんど日が差さない。

薄暗く、湿気がこもりやすいせいで、私は何度も湿疹を繰り返していた。

以前、あまりの痒さに耐えきれなくなって、両親に引っ越したいと頼んだことがある。

姉の部屋が欲しいわけじゃない。

広い部屋だっていらない。

ただ、少しでも日の当たる部屋で暮らしたかった。

経済的に無理なわけでもなかった。

それなのに、父は何も言わず私の頬を平手打ちした。

母は怒りのあまり、私を指さす手を震わせていた。

「この家は、佳子が生きていた場所なのよ!

引っ越したら、佳子が帰ってきたときに家が分からなくなるでしょう!

あんたはどうしてそんなに自分勝手なの?」

結局、私はまた狭苦しい物置へ戻るしかなかった。

しかも、この部屋でさえ完全に私のものではない。

部屋の3分の2は、姉の遺品で埋め尽くされている。

昔使っていた電子ピアノ。

遊んでいた人形。

履いていたローラースケート。

どれも今では埃をかぶっている。それでも、私は指一本触れることを許されなかった。

そこにはまだ「佳子の匂い」が残っているから。

私が触れれば、それが消えてしまうから。

母をなだめ終えたあと、珍しく父が私の部屋に入ってきた。

「学校にも確認した。お前が不正をした事実はなかったそうだ」

「……」

私は答えず、ただ父を見つめた。

「愛佳。佳子は大学の入学式を目前にして亡くなった。それが母さんにとって、一生消えない傷なんだ」

父は当然のことのように続けた。

「どれだけいい成績を取ろうと、お前は佳子が行くはずだった短大に進学する。それがお前の運命なんだ。受け入れろ」

暗闇の中で、私は小さく笑った。

「……分かった。受け入れるよ」

その答えに満足したのか、父は何も言わず部屋を出ていった。

遠ざかっていく父の背中を見つめながら、私は心の中で続きを呟いた。

――うん。受け入れる。

だったら最後まで、お姉ちゃんと同じ運命を辿ってあげる。

私も、入学式の前日に、溺れて死ぬから。

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