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もうお姉ちゃんの身代わりになりたくない第1話

この話は約2520字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

物心ついた頃から、私はずっと、亡くなった姉の身代わりだった。

小学校の入学を控えたある日、両親がランドセルを買いに連れていってくれた。

母は笑顔で私に尋ねた。

「青と赤、どっちがいい?」

私は青を選んだ。

その瞬間、母の顔から笑みが消えた。

母は私の肩を強くつかみ、取り乱したように叫んだ。

「どうして赤を選ばないの!?佳子(よしこ)だったら絶対に赤を選ぶのに!」

母がまたおかしくなったのを見た父は、いきなり私の頬を平手打ちした。

鼻から流れた血も、赤かった。

それ以来、何かを選ぶときはいつも、姉が好きだった赤を選ぶようになった。

ある日、学校で友達と遊んでいるうちに、長い髪に粘土が絡みついてしまった。

先生が仕方なく髪を切ってくれたのだが、迎えに来た母はそれを見るなり取り乱した。

「佳子は長い髪だった!あんたなんか私の娘じゃない!」

母は私を自転車から突き落とし、そのまま置き去りにした。

泣きながら必死に追いかけ、30分かけてようやく家にたどり着いた。

それから私は、母を刺激しないよう、何もかも姉の真似をするようになった。

そして大学受験。

全国トップクラスの成績を取った私に、母は地元の短大へ進学するよう命じた。

「佳子も昔、この学校に受かったの。だから、あなたもここに行きなさい!」

担任が説得しようとしても、母は聞く耳を持たなかった。

「佳子が死んでなかったら、この子は生まれてすらいなかったのよ。

どれだけいい成績を取ったって、何の意味があるの?」

取り乱す母を見つめながら、私はふと思った。

――もう、どうでもいいや。

何もかもお姉ちゃんと同じにしなければならないのなら、18歳で人生を終えたことまで、私も同じにしなくちゃね。

* * *

短大からの合格通知が届いた日、家の前には何人もの記者が押しかけていた。

母が玄関を開けた途端、マイクとカメラが一斉に向けられる。

「全国模試で一位になった小林さんのお母様ですよね?短大への進学は、本人が希望されたことなのでしょうか?」

「亡くなったお姉さんの心残りを埋めるために、妹さんの将来を犠牲にするのはあまりにも酷ではありませんか?」

その質問を聞いた瞬間、母は逆上した。

記者たちを力ずくで追い払い、玄関のドアを叩きつけるように閉める。

そして私の腕をつかむと、そのまま姉の仏壇の前まで引きずっていき、無理やり跪かせた。

「小林愛佳(こばやし あいか)!あの記者たち、あんたが呼んだんでしょ!

佳子が生きていた頃に行きたがっていた学校に行かせてあげるっていうのに、何がそんなに不満なの!」

父も怒りに任せて、手にしていた湯呑みを床へ叩きつけた。

「俺たちに逆らいたいからって、カンニングまでして一位を取ったのか?

佳子なら、そんな卑怯なことは絶対にしなかった!」

その言葉を聞いた瞬間、あまりの絶望に笑いそうになった。

中学生になって、急に勉強のコツをつかんだ時期があった。

初めて学年一位を取った私は、きっと両親も喜んでくれると思いながら家に帰った。

けれど、待っていたのは褒め言葉ではなく、酷い折檻だった。

「佳子はいつも中くらいの成績だったのよ!それなのに、どうしてあんたが一位なんて取れるの!」

それ以来、姉より目立って両親を刺激しないよう、私はわざと点数を調整するようになった。

けれど、人生を左右する大学受験だけは違った。

私は初めて、持っている力をすべて出し切った。

それなのに両親は喜ぶどころか、私の進路希望を勝手に書き換えた。

そのうえ、私が不正をして好成績を取ったとまで決めつけた。

「……カンニングなんてしてない」

私はゆっくり顔を上げた。

「お姉ちゃんがいい成績を取れなかったからって、私まで取れないとは限らないでしょ」

背筋を伸ばし、生まれて初めて両親に言い返した。

まさか私が反抗するとは思っていなかったのだろう。

母は一瞬、言葉を失った。

「あ、あんた……!」

私を指さしたまま、しばらくそれ以上の言葉が出てこない。

結局、母は私を姉の部屋に閉じ込めると、先ほどの記者たちを追いかけて外へ飛び出していった。

やがて、玄関の向こうから母の声が響いてきた。

「娘が共通テストで不正をしました!母親の私が実名で告発します!」

まるで自分こそが正しいと言わんばかりの声だった。

それを聞きながら、私は笑った。笑っているはずなのに、涙が止まらなかった。

薄暗い部屋の中。

遺影の姉が、じっと私を見つめているような気がした。

幼い頃、罰として一人で姉の仏壇の前に正座させられるたび、私はあの遺影が怖くて泣いていた。

けれど今は、姉の目をまっすぐ見返すことができる。

私は小さな声で呟いた。

「……お姉ちゃんが羨ましい。

死んでもう20年も経つのに、お父さんもお母さんも、まだこんなにお姉ちゃんのことが大好きなんだね」

少し間を置いて、私は笑った。

「私も死んだら……同じくらい愛してもらえるのかな」

遺影の姉は何も答えない。

ただ、何の悩みもなさそうに笑っていた。

姉が笑うと、右の頬には深いえくぼができる。

私にはない。

だから母は、私が自分の前で笑うことさえ許さなかった。

姉は活発な子だったらしく、暇さえあれば外へ遊びに行っていたという。

だから私が家で本を読んだり絵を描いたりしていると、母は本を破り、筆をへし折った。

「佳子は家でじっとしてるような子じゃなかった!」

そう言って私を外へ追い出し、日が暮れるまで家に入れてくれなかった。

誕生日でさえ、自分の誕生日を祝ってもらった記憶はない。

祝うのは、いつも姉の誕生日だった。

ケーキも必ず、姉が好きだったマンゴー味。

私はマンゴーアレルギーなのに。

ろうそくの火を吹き消すときには、必ず向かい側に姉の遺影が置かれていた。

願い事も決まっていた。

――お姉ちゃんが、あの世で幸せに暮らせていますように。

18年間、ずっと姉の代わりとして生きてきた。

そのせいで私は、自分が本当は何が好きで、どんな人間なのかすら分からない。

そんな私を――

両親が愛してくれるはずなんて、ないよね。

暗闇の中で、どれくらいそうしていたのだろう。

突然、部屋のドアが開いた。

廊下から差し込む光を背に、父が立っていた。

ひどく疲れた顔をしている。

そして私を見るなり、淡々と言った。

「愛佳。母さんに謝ってこい」

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