まさか婚約者の11股目の彼女が私だった第2話
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【でも若菜、ブロックまでする必要なかっただろ。あいつらが俺のスマホを見るわけじゃないんだから】
スマホの画面を消し、返事はしなかった。
この期に及んでも、清貴は私たちの別れを、仲間をごまかすための形だけのものだと思っている。
けれど、もうこれ以上、彼の賭けごとに付き合うつもりはない。
桃花が触れたかもしれないものは、家の中からすべて処分した。
新しいものを一式用意する。
いつまで片付けに追われていたのかわからなかった。私は疲れ果てて、泥のように眠っていた。
次に目を覚ました時、清貴からメッセージが届いていた。
【今夜六時、会場に来てくれ。誕生日を祝うから】
【別れても、友達には戻れるだろ】
それでも、返事はしなかった。
けれど午後六時、私は時間どおりに会場へ向かった。
清貴ときちんとけじめをつけ、この関係に終止符を打つために。
支配人が恭しく宴会場の扉を開ける。
私の姿を見た瞬間、中の喧騒がぴたりと止んだ。
そこで初めて、清貴の友人たちの顔を一人ひとり見回した。
面白がる目。傍観する目。哀れむ目。
私は結局、本当の意味で彼の世界に足を踏み入れたことなど一度もなかったのだ。
でも今となっては、それももう、どうでもよかった。
清貴は煙草の火を消すと、紳士ぶって私のために椅子を引いた。
それから、そばにいたスタッフに声をかける。
「すみません、冷房を少し弱めてもらえますか。あと、ブランケットも一枚。この子、寒がりなんで」
全員の視線が集まる中、清貴はポケットからハーブティーのティーバッグを取り出した。
お茶を注ぎ、少し冷ましてから、私の前へ差し出す。
「相変わらず彼女さんには甘いな……」
清貴はすぐに反論した。
「もう彼女じゃない。とっくに別れた」
元恋人をそこまで気遣うのは不自然だと思ったのか、言い訳のように言葉を足す。
「今日はこいつの誕生日だしな。最後の食事くらい、ギスギスする必要ないだろ」
友人たちは、察したような顔をした。
そしてすぐに、視線は入口へ向く。
少し遅れて現れた桃花は、ひときわ華やかなドレス姿で、そのまま清貴の隣に腰を下ろした。
「最後の食事って、何のこと?」
「清貴が彼女のために……」
隣にいた男が、そっとその腕を小突く。
「もう彼女じゃないだろ」
「あ、そうだった。水瀬……水瀬、何だっけ?」
清貴が眉をひそめて遮った。
「若菜だ」
「水瀬さんでいいのよ。どうせこの先、会わないんだし。名前なんて、そんなに大事?」
桃花が笑って口を挟む。
その話題は、すぐに何事もなかったように流された。
ただ一人、清貴の向かいに座っていた江藤悠司(えとう ゆうじ)だけが、私の顔を見つめたまま、しばらく動かなかった。
二か月前、水瀬家のパーティーで一度顔を合わせたことのあるその男に、私は軽く会釈した。
悠司がいつまでも私を見ていることに気づいた清貴は、面白がるように口を開いた。
「何だよ。俺の元カノに気でもあるのか?」
桃花が笑いながら、清貴の肩を軽く叩く。
「もう元カノなんでしょ。なんで気にするの?
私との賭け、勝つ気ないの?」
今度の清貴は、何も答えなかった。
代わりに、彼の友人たちが次々と声を上げる。
「桃花、親父さんが水瀬家の南エリアのプロジェクトを取るって本当か?」
「それはまだよ。でも、うちの会社もかなり手応えはあるみたい」
「だったら、清貴と組むように親父さんに口利きしてみなよ。
あのプロジェクトを取れるのなんて、藤堂家と佐伯家くらいだろ。取れたら、俺たちにも一枚噛ませてくれよ。美味しい話は共有しないとな」
桃花はちらりと私を見てから、にこにこと清貴へ視線を戻した。
「私はもちろん構わないけど、父を説得できるかどうかは、清貴の腕次第かな」
清貴は何気なく私の皿に料理を取り分けた。
「今日は若菜の誕生日だ。仕事の話はなしだ」
桃花はわざとらしく気まずそうに笑い、グラスを持ち上げた。
「やだ、私ったら。主役を差し置いちゃったわね。水瀬さん、気にしないでね?」
次の瞬間、桃花のグラスが傾き、中の酒が一滴残らず私の服にぶちまけられた。
私は表情を変えずにハンカチで拭き取る。
それから、テーブルを囲むそれぞれの顔を見渡した。
最後に、桃花の顔をまっすぐ見据える。
「気にするわ。
このドレス、有名ブランドの新作。5920万円よ。
昨日、佐伯さんがうちで使ったものも全部処分した。合計376万円。
まとめて弁償してもらえる?カード?それとも現金?」
「は?ぼったくりのつもり?」
清貴も、呆れたような顔で私を見た。
「若菜、やりすぎだぞ」
「清貴、どこでこんな女見つけたんだよ? いや、元カノか」
「有名ブランドの新作って、偽物かどうか一番分かってるだろ?」
「昨日の夜中、俺たちと桃花がわざわざ誕生日会の準備を手伝ってやったのに。俺たちをカモにするつもりかよ」
それまで黙っていた悠司が、不意に口を開いた。
「水瀬若菜……思い出した」
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