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まさか婚約者の11股目の彼女が私だった第3話

この話は約1858字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

「君、水瀬家の令嬢だったんだな」

悠司の一言に、宴会場は一瞬、水を打ったように静まり返った。

だが次の瞬間、さっきよりもあからさまな嘲笑があちこちから漏れ出す。

「悠司、お前シラフだろ?何言ってんだよ。こいつが水瀬家の令嬢なわけないだろ。たまたま名字が同じなだけだって」

桃花も鼻で笑った。

「悠司、水瀬さんをかばいたいからって、さすがにその嘘は苦しくない?」

誰も信じようとしない空気の中、悠司は清貴へ視線を向けた。

「清貴、元カノのことなら、お前が一番よく分かってるはずだ。

彼女が水瀬家の令嬢だってこと、本当に知らなかったのか?」

清貴は眉をひそめ、私の顔を射抜くように見つめた。

その腕を、桃花がすっと自分のほうへ引き寄せる。

たったそれだけで、私と彼らの間に見えない境界線が引かれた気がした。

「悠司、水瀬さんがそんなに気になるなら、素直に口説けばいいじゃない。清貴はもう別れたんだし、誰も止めないわよ。

でも、二人で口裏を合わせてまで私たちをだまそうとするなんて……まさか、水瀬さんから何かもらってたりしないわよね?」

「悠司」

清貴の冷えた視線が、悠司に向く。

「お前、若菜とどこで知り合った?」

「もういいわ!」

これ以上、こんな茶番に付き合う気はなかった。

吐き捨てるように言った私の声を、清貴が遮る。

なぜか、その声には濃い苛立ちが滲んでいた。

「こいつをかばうのか?」

「清貴。私は本当に水瀬家の娘よ。

これは私たちの問題でしょう。江藤さんを巻き込まないで」

清貴は冷たく鼻で笑った。

「若菜。そいつをかばうために、そんな嘘までつくのか?

付き合ってからのお前は、毎日のように俺にまとわりついてたよな。服も靴もバッグも、俺が買ってやったものばかりだ。

水瀬家の令嬢様が、男にすがってブランド物を買ってもらう必要なんてあるのか?」

平手打ちの乾いた音が、静まり返った宴会場に響いた。

振り下ろした手の先が、まだかすかに震えている。

私は目の前の男を、まっすぐに見据えた。

――あの日も、清貴はこんな目をしていた。

たちの悪い男たちに囲まれ、進退きわまった私の前に、清貴は突然現れた。

怖くて何も見えなくなっていた私には、真っ暗な世界に、そこだけ光が差したように見えた。

その人が藤堂清貴だと知ったのは、あとになってからだった。

それからの私は、まるで取り憑かれたみたいに彼を追いかけた。

親友の深町渚(ふかまち なぎさ)に頼み込み、清貴が顔を出すパーティーに何度も連れていってもらった。

清貴に近づくためなら、なりふりなんて構っていられなかった。

私たちの関係が変わった、あの日。

桃花は、アルコール度数の高いカクテルを私に差し出した。

「これ、一気に飲めたら、清貴と付き合えるらしいよ?」

笑いながらそう言う桃花の向こうで、清貴は部屋の隅のソファに深く腰を沈めたまま、何も言わなかった。

私に恥をかかせて、諦めさせるつもりだったのだろう。

けれど私は、それくらいで引き下がるような性格ではない。

笑ってグラスを受け取った。

酒を唇へ運ぼうとした、次の瞬間。

清貴が血相を変えて駆け寄ってきた。

「お前、正気かよ」

怒りを隠そうともしないその目に、私はまた吸い込まれた。

けれど今、同じ目で私を見つめて、同じセリフを吐き捨てた清貴に、あの頃の温かさは少しも残っていなかった。

「お前、正気かよ」

清貴は私を壁際へ乱暴に押しやり、骨ばった手で手首をきつくつかんだ。

「そんなに、あいつにいい顔したいのか?

俺、何か間違ったこと言ったか?あの時、なりふり構わず俺を追いかけ回してきたのはお前だろ。

一か月も付き合っておいて、俺とは何もなかったって言うつもりか?」

そして、呆然と立ち尽くす悠司を横目で見やり、口元に歪んだ笑みを浮かべた。

「それとも、俺より都合のいい男でも見つけたつもりか?」

さらに顔を近づけ、耳元で低くささやく。

「若菜。俺の女だったお前を、あいつが本気で受け止めると思うか?

俺たちの関係を終わらせるかどうかは、最初からお前が決めることじゃないんだよ」

私は力任せに清貴を突き飛ばした。

かつて、胸が苦しくなるほど好きだった人を、まっすぐに見据える。

好きだった頃は、どれだけ傷つけられても、まだ清貴を選んでいた。

一度は本気で愛した人だから、最後くらいはきれいに終わらせたいとも思った。

けれど、もう十分だった。

こんな男のために、これ以上自分を傷つける必要なんてない。

言い返そうと口を開きかけた、その時。

宴会場の入口が、にわかにざわめいた。

「若菜、誕生日おめでとう!ちょっと見て、すごい人連れてきたよ!」

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