それぞれの人生を歩もう第2話
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深夜、リビングの喧噪はすっかり消えた。
私はぼんやりとベッドにうずくまり、やはり情けなくも涙を流してしまった。
ベッドサイドの写真を手に取ると、私はそっと指先でなぞりながら、あのときの幸せを少しでも感じ取ろうとした。
そして、苦い笑みを浮かべた。知樹はとっくに私をインスタからブロックしていたのだ。
そうだ。彼が愛を示す相手は私ではない。私に気づかれては困るからだ。
私は、彼が私の純粋さを愛していると信じていた。だが実際に、彼が愛していたのは、私の絶対的な信頼だった。
丸九年、私は何も気づかなかった。
私の視線を彼のタブレットに移し、伊織の誕生日を入力するとロックは外れた。
彼のインスタをスクロールして眺めていると、胸に鋭い釘を打ち込まれるような痛みが走った。
結婚記念日のたびに、彼は仕事を理由に伊織と情を交わした。
トーク背景の画像は、どれも彼と伊織のツーショットだ。
私に残されたものといえば、あの日流産したときの診断書しかなかった。
コメント欄には祝福が並んでいたが、疑念を抱く声も少なくなかった。知樹ははっきりと返信していた。
【結婚は束縛であるべきじゃない。ただ、本当に愛する人と一緒にいたいだけだ】
涙がスクリーンを濡らし、私の視界も次第にぼやけていった。
私は手足が氷のように冷たくなりながらタブレットを閉じ、頭が痺れるほどの痛みに襲われた。
折り目だらけの診断書を取り出すと、無情な結果を目にした瞬間、私はまた堪えきれず涙があふれた。
私は必死に呼吸を整え、弁護士でもある親友に電話をかけた。
「紗智、知樹が浮気してた……証拠を全部送るわ。彼と離婚するの。もし何かあったら裁判で戦う」
「知樹さんが浮気?」
浅草紗智(あさくさ さち)は信じられないといった声を上げた。
結婚してから私は専業主婦となり、外とのつながりを断ってきた。唯一の友人が、紗智だった。
突然の連絡が、こんな爆弾のような告白になるとは。
私は静かに「ええ」と答えた。
知樹のために、私はあまりにも多くのものを諦めた。
紗智はすぐに私の依頼を引き受けた。
私は知樹のインスタから証拠をすべて撮影し、別に部屋を借りるつもりだ。そして、別荘の荷物をまとめ始めた。
知樹は仕事に追われ、夜遅くまで帰らないのも珍しくなかった。
そのため、私と彼にまつわるものはあまりなく、あるのは飾り棚にある九組のピアスだけだ。
私もようやくピアスの意味を理解した。
彼が浮気するたびに、私に一組のピアスを買ってくれた。
九組のピアスは、彼が九年間浮気を続けてきた証だ。
棚の前に立ち、私は呆然とした。
知樹と伊織の関係は耳にしていたが、結婚後はもう終わったと思っていた。
そもそも伊織の方から知樹を振ったのだ。
彼に出会ったとき、彼は深い失恋に沈んでいた。私は、自分が現れたことで、彼の愛がよみがえったと信じた。だから知樹に尽くすと決めた。
愛は確かによみがえった。だが、それは私に向けられたものではなかった。
荷物を整理していると、私はふと本棚の小さな木箱が目に入った。
暗証番号は、やはり伊織の誕生日だった。
【俺は望美と離婚する決意をした。ただ、一か月だけ猶予を与える。もし心変わりしたら協議書を破棄しよう】
【でも、愛しているのはやはり伊織。彼女には俺が必要だ】
迷いなく走られた筆跡に、彼の執念がにじんでいた。
どうやら私の知らないうちに、知樹は深く伊織を想っていたらしい。
しかも、それは私が渇望していたのに、彼が決してくれなかったものばかりだった。
彼は一度も伊織を忘れたことはなく、ただ私の見えない場所で密かに愛し続けていたのだ。
本棚の引き出しの奥底に、離婚協議書が隠されていた。彼はもう、待ちきれずに署名を終えていた。
私は完全にもがく力を失った。
奈落の底に落ちたように、私はこの夜を痛みに震えて過ごした。
夜が明け、私は彼の望むとおり、協議書に署名をした。
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