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それぞれの人生を歩もう第1話

この話は約1968字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

結婚して九年になる。毎年の結婚記念日には、夫は航空会社からフライトの担当を言い渡されたと言いながら、私をなだめるために高価なイヤリングを買ってくれた。

ところが今年の結婚記念日、私は偶然、彼と友人の談笑を耳にしてしまった。

「知樹、毎年結婚記念日にはお前、伊織(いおり)さんと一緒に過ごしてるんだろ?望美(のぞみ)さんは全然気づいてないのか?」

「そりゃあ、彼女が子どもを授かれないのも無理はない。あの程度の種じゃ、全く足りないからな」

東雲知樹(しののめ ともき)は煙草をふかしながら、同意するように言った。

「伊織はすべてを捨てて、俺のところへ来た。だから、彼女に家を作ってやらなきゃ。

望美のことなら、彼女が流産した時からもう愛してない。時期が来たら、離婚するつもりだ。

彼女に不公平なのはわかってるけど、金で埋め合わせる方法を考えるさ」

だが知樹には、もうその機会は訪れないだろう。結婚記念日のその日に、私は卵巣がんの末期と診断されたのだから。

すでに愛されていないのなら、私も彼を手放す覚悟はできている。

知樹、それぞれの人生を歩もう。

* * *

私が最後の一品を作って食卓に向かったとき、東雲知樹(しののめ ともき)と親友の談笑は一瞬で途切れた。

すぐに親友の一人が立ち上がって皿を受け取ってくれたが、他の人たちの視線は複雑で、その「記念日おめでとう」の一言さえも心がこもっていなかった。

知樹と目が合った瞬間、彼はすぐに視線を逸らした。

彼はとても上手に仮面をかぶっている。その顔からは焦りも後ろめたさも読み取れず、さっきの発言が彼の口から出たとは思えないほどだ。

「疲れただろう?さあ、座って食べよう」

私は数秒間呆然とし、長く迷った末にエプロンのポケットに入れた診断書を取り出せなかった。

彼は気遣うふりをして椅子を引き、私を座らせてくれた。そして、記念日のプレゼントをバッグから取り出した。

全く斬新さがなく、やはり高価なダイヤモンドのピアスだった。

これで九回目になる。

次に彼が言う言葉は、もう予想できていた。

「望美(のぞみ)、二時間後に新しいフライトの担当があるんだ。今日は一緒に過ごせない」

知樹は私の頭を撫で、同じような約束を数え切れないほど繰り返した。

「このフライトが終わったら、ちゃんと時間を作って、付き合ってあげるからな?」

その直後、彼の親友たちが場を取り繕った。

「望美さん、知樹がこんなに必死で働くのは、あなたに楽な生活をさせるためよ。だからこそ、こんな高価なピアスも贈れるんだ」

「知樹は本当にあなたを大事に思ってるよ」

私は診断書を握りしめ、手のひらに冷や汗が滲んだが、結局は仕方なく力を緩めてしまった。

泣くことも怒ることもなく、それを受け入れた。

「ただの記念日だし、仕事の方が大事よ」

私があっさり折れると、知樹の眉間にあった陰りは一瞬で消えた。

彼は私を強引に抱き寄せ、指で顎を持ち上げると、唇に軽くキスをした。

「こんな理解ある妻を迎えられるなんて、俺は本当に幸せ者だ。大人しく家で待っててくれ」

私はうつむき、下ろした手をぎゅっと握りしめた。

「そのフライト、本当にあなたじゃないと駄目なの……記念日が終わったら、話したいことがあるの」

知樹の笑みは一瞬ぎこちなくなったが、それでも我慢強く、優しく髪を撫で続けた。

「お前が寂しいのはわかる。でも今回の仕事だけは断れないんだ。いい子にして、俺の友達と食事してて。後で埋め合わせるからさ」

その言葉が終わる前に、テーブルの彼のスマホが鳴り、メッセージが表示された。

知樹は素早くスマホをしまい、慌てて上着を羽織った。

「もう時間がない。話は帰ってから聞く」

そう簡単に言い捨てると、彼は出て行き、ドアの閉まる音が響いた。

彼が去ると、部屋は途端に騒がしくなった。その笑い声は耳障りだった。

彼らは悪意を持って私にジュースを注いだ。

「望美さん、落ち込まないでよ。俺たちがいるさ。一緒にご飯を楽しもう」

「機嫌損ねないでくれよ……」

その嘘の笑顔を見ているうちに、私の心はますます麻痺していった。

彼らはどんどん酒が進み、言葉は乱暴になった。ついには私の存在を無視するようになった。

「ちっちっ、俺が望美だったら、死にたくなるね!」

「知樹は本当に伊織を宝物みたいに大事にしてるよな。最近は妊活してるらしいぞ」

「望美って馬鹿女だな、自分のせいで子どもを作れないと思い込んでるんだろ」

「おい、やめとけ!でもさ、知樹が送ってきた写真と動画見た?伊織、あの体やばいくらいセクシーだぞ」

「わかってないな。久々に会うと新婚より盛り上がるんだよ。知樹はすぐ離婚して次の幸せに向かうんだから、どうでもいいだろ?」

その言葉を聞いた瞬間、頭が割れるように痛んだ。私は立ち上がって寝室へ入り、鍵をかけた。

私がその場を去っても、誰一人として気づかなかった。

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