しきたりを盾に、危篤の父に会わせないクズ夫第2話
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轟音とともに頭上で響いた雷鳴が、穂波の思考を断ち切った。
自室に戻る途中、書斎の前を通りかかると、冬凌の書斎のドアが開いているのが見えた。
彼が書斎への立ち入りを固く禁じていたことを思い出し、そのまま立ち去ろうとした。
その時、突風が吹いて机の上の書類が床に散らばった。彼女は思わず部屋に入り、1枚ずつ拾い集めて綺麗に揃え、机の上に戻した。
書類を置き終えた途端、冬凌が入ってきた。
彼は冷ややかな目で彼女を見下ろした。「俺の書斎には誰も入れるなと言ったはずだ。お前もだ」
穂波は事情を説明しようとした。「ただ、落ちた書類を拾っただけで――」
彼は彼女の言葉を遮った。「出て行け。柴田のところへ行って罰を受けろ」
下げた両手をきつく握りしめ、穂波はそれ以上弁解することなく、そのまま1階へと下りた。
御堂家では、しきたりを破ればいかなる理由があろうと罰を受ける。
また仏間で正座させられるのだと思っていたが、執事の柴田健造(しばた けんぞう)は無言で竹刀を取り出した。
彼女は呆然とした。「柴田さん、仏間で正座ではないのですか?」
「奥様、旦那様から仰せつかっております。書斎には機密書類が置かれており、決して触れてはならない。もし触れた場合は、打ち据え20回の罰を与えるようにと」
「分かりました」
彼女は床に膝をつき、健造が振り下ろす竹刀を、背中に丸20回受け続けた。
ひと打ちごとに容赦なく込められた力に、10回も打たれないうちに全身が痛みに震え出した。
それでも彼女は悲鳴すら上げず、ひたすら耐え忍んだ。
翌朝、彼女は高熱を出した。
朦朧とする意識の中、階下から騒がしい声が聞こえてきた。
「冬凌!この女がかつてあなたに何をしたか忘れたのですか?よくも堂々とこの家に連れ込めたものですね!
あなたはもう結婚しているのですよ。穂波が二階にいるというのに、よその女を連れ込んだと知ったらどう思うか考えなさい!」
「どう思おうと俺の知ったことじゃありません。瑶子は不治の病を患っていて、今は行く当てもないんです。数日この家に滞在させるだけです。それ以外の他意はありません。
穂波がそれしきのことで嫉妬するようなら、俺の妻には相応しくありません」
穂波は手すりのそばまで歩み寄り、階下の光景を見下ろした。
冬凌は床に膝をつき、背筋を真っ直ぐに伸ばしていた。
夏目瑶子(なつめ ようこ)も彼と並んで床に膝をついており、並んだその後ろ姿は誰の目にもお似合いの2人に見えた。
「申し訳ありません、大奥様。私が悪いのです。戻ってくるべきではありませんでした。すぐに出て行きます」
立ち去ろうとする彼女の腕を、冬凌が掴んだ。「行くな。俺が面倒を見ると言った以上、一生お前の面倒を見る」
芙美子がドンとテーブルを叩いた。「馬鹿なことを!どうりで昨夜、穂波が私のところへ来て――」
冬凌は瞬時に怒りを露わにした。「あいつ、また何を吹き込んだんですか!俺が瑶子を連れてきたのを見て、告げ口でもしたんでしょう!」
「あの子は、あなたと離――」
「お義母様!」穂波は背中の痛みをこらえながら、足早に階段を下りた。「冬凌が夏目さんを引き留めたいと言うのなら、そうさせてあげてください」
「篠原さん……」
瑶子は床から立ち上がり、穂波に向かって弱々しく微笑んだ。
「お邪魔して申し訳ありません。冬凌は昔のよしみで私を連れてきてくれただけで、彼にも私にも他意はありません。過去のことはすべて、お互い若気の至りでした。
もちろん、篠原さんが私を疎ましく思われるなら、住む場所が見つかり次第すぐに出て行きます」
彼女の顔色は青白く、その今にも倒れそうな姿は確かに庇護欲をそそるものだった。
穂波は笑って首を横に振った。「疎ましくなんて思っていません。ここは御堂家であり、冬凌がこの家の当主です。彼があなたを住まわせると決めたのなら、私に異存はありません」
「では……ありがとうございます、篠原さん」
「お礼を言うのはまだ早いですよ」芙美子は1枚の書類を取り出し、冬凌の前に突き出した。「この女を家に置きたいというのなら、それでも構いません。ですが、先にこれに署名しなさい」
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