さよならは言わずに、海を渡った第2話
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何と答えればいいのか分からなかった。
結菜も黙ったまま、私の皿に料理を取り分けてくれた。
丈治は、その沈黙から何かを察したようだった。
不意に肩を軽く叩かれた。
「もつは熱いうちに食べな。時間が経つと臭みが出てくるから」
そう言うと、丈治は厨房の奥へ戻っていった。
私はまだぐつぐつと煮立っているもつ鍋を見つめながら、唇を噛んだ。
そうだ。蓮とはもう1ヶ月も連絡を取っていない。今さら何を話したところで、この鍋と同じように、以前と同じ味わいにはならない。
いつからこうなったんだろう。
たぶん、最後に喧嘩をした時からだ。
具体的に何が原因だったのかは、もう覚えていない。
覚えているのは、彼に長文のメッセージを何通も送って、電話も数えきれないくらいかけたことだけだ。
私はひどい言葉ばかり並べたのに、蓮はずっと黙ったままだった。
最後、電話をどう切ったのかも覚えていない。2時間後、彼から2つの音声メッセージが届いた。
「芽依、茉優だってわざとじゃないだろ。そんなに根に持つなよ」
「先に茉優の実験データを印刷しに行ってくる。戻ったら、ケーキ買ってやるから」
彼は本当に、私の寮の下までケーキを持ってきた。
私は返信もせず、下にも降りなかった。
ルームメイトの話では、彼は下で10分ほど待って、その後に電話がかかってきてそのまま行ってしまったらしい。
その時間帯に彼に電話をかけてくる人間なんて、茉優しかいない。
私は寮のベッドに突っ伏して泣き、いつの間にか眠ってしまった。
翌日、目が覚めてスマホを開くと、メッセージが3件届いていた。
指導教員からが2件、結菜からが1件。
蓮からは、何も来ていなかった。
私は魔が差して、茉優のインスタを開いた。
昨日の夜、彼女は実験室にいる投稿を上げていた。
写真の端に、彼女のデータ記録を手伝っている人の手が写り込んでいた。
その手の指には――私がいつも見慣れている指輪がはめられていた。
私はその写真をじっと長い間見つめてから、勢いで蓮をブロックした。
けれどすぐに、それで彼と連絡が取れなくなるのが怖くなるという、自分でも情けない気持ちになった。
何度も試すようにブロックを解除しては、また悩んで。
けれど、彼が改めて連絡してくることは、一度もなかった。
たぶんその頃から、私たちはお互いの生活の中で少しずつ薄れていったんだと思う。
気づかないうちに、完全に相手の人生から退場していた。
正直に言うと、私も自分から蓮を訪ねて、話し合おうか迷ったことがある。
あの日は、わざわざ彼の好きな軽食を買って、傘をさして彼の寮の下まで行った。
土砂降りの雨の中でも、蓮の後ろ姿はひと目で分かった。
彼は傘も差さずに、焦った様子で自分の上着を脱いで、茉優の頭にかけていた。
二人は寮の下まで駆け込んで、お互いにびしょ濡れの姿を見て、示し合わせたように笑い合っていた。
私は、蓮の顔に浮かんだその笑みを見ていた。
【今、あなたの寮の下にいるんだけど、時間あったら少し話せない?】
その一文は、結局最後まで送信できなかった。
その時になって初めて分かった。この関係はずっと、私一人だけが右往左往していたんだって。
私はまるで道化だ。
最後に私は、一文字一文字、その文章を消していった。
それから、LINEのトーク画面のピン留めも外した。
傘をさしたまま、振り返らずにその場を去った。
……
私は自分を追い込むように、学業に集中し始めた。
自分から指導教員に、もっと多くの仕事や実験を志願するようになった。
死に物狂いでIELTSの勉強を始めた。ただ、この苦しい場所から逃げ出したい一心で。
そうして、今に至る。
スマホがピロンと鳴って、メッセージが1件届いた。
開いてみると、それはまさかの蓮からだった。
内容はとてもシンプルで、たった1文だけだった。
【前に美味しいって言ってた、あの焼肉屋って何て名前だっけ?】
結菜が私の表情に気づいた。
「彼から?」
私は「うん」と小さく頷いた。
結菜は眉をひそめて、まったく理解できないという顔をした。
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