さよならは言わずに、海を渡った第3話
この話は約1530字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「何それ、あいつ、一体何様のつもりなの?1ヶ月も連絡してこなかったくせに、最初の一言がそれ?」
答えようとした瞬間、店のドアの開く音と、従業員の「いらっしゃいませ」と言う声が店内に響いた。
蓮がドアを押して入ってきた。隣には、はしゃぎながら跳ねるように歩く茉優がいた。
彼の肩にかけられた茉優のバッグを見て、私は唇を噛んだ。
なるほど、私にメッセージを送ってきたのも、結局はあの後輩のためだったのか。
視線がぶつかった瞬間、蓮の足が一瞬止まった。
「芽依、お前もいたのか」
なぜか、彼はわざわざ説明を付け足した。
「茉優の実験がうまくいったから、お祝いに連れてきただけだ。他に意味はない。
本当は前に芽依が言ってた焼肉屋に行きたかったんだけど、ずっと返信がなかったから」
私は「うん」とだけ返した。
「あの店の名前、私も忘れちゃった」
あれは結菜と偶然見つけた、あまり人に知られていない名店だったはずだ。
あの時は食べている途中で待ちきれなくなって、蓮にメッセージを送った。今度一緒に来たい、と。
蓮の返信は早かった。
【焼肉なんて別に美味くもないだろ】
そのメッセージを受け取った瞬間、口の中から味が消えた。
唇を噛んで、最後にこう返した。
【そうだね】
茉優が近づいてきて、私たちのテーブルをちらりと見て言った。
「先輩、あのもつ鍋、すごく美味しそう!私たちも後で頼みましょうよ!」
蓮は笑って彼女を支えるように手を添えた。
「ああ」
「あのドリンクも良さそうですね。1杯だけ頼めば十分かな、一人じゃ飲みきれないし」
「うん、お前に任せる」
二人は話しながら、店の奥の別の席へと歩いていった。
結菜は腹を立てて箸を叩きつけ、小声で言った。
「もう見てられない。別れたばかりで新しい彼女連れてあんたの前をうろつくとか、あの人一体何考えてるの!?
この店、蓮があんたに告白した場所でしょ。良心って言葉知らないわけ?」
私は牛肉を一口食べ、何も言わなかった。
ただ、ふと思い出していた。初めて茉優という名前を聞いたのは、彼女が電話をかけてきて、機械がどうしても起動しないと泣きじゃくっていた時だった。
あの時、私は蓮と映画を見ていた最中だった。
映画が半分終わったところで彼は行ってしまい、私はスクリーンに映る幽霊に一人で怯えることになった。
2回目は、彼女が夜中に蓮に電話をかけてきて、文献がどうしても見つからないから見に来てほしいと言った時だ。
あの時、彼は私とゲームでランクを上げている最中だったのに、二つ返事でAFKして行ってしまい、私は一人ゲームの中で取り残された。
3回目、4回目、5回目……
そのうち、蓮のスマホは24時間彼女のために繋がったままになっていた。
私たちが何をしていようと、彼女から電話が1本入れば、蓮はすぐに私を置いて出ていった。
そのせいで、蓮と何回喧嘩したか数え切れないくらいだ。
私は言った。
「茉優ともう少し距離を置けない?あんたはただの先輩でしょ、些細なことまで全部面倒見る必要ないじゃない」
彼は眉間を揉みながら言った。
「茉優は経験が浅いんだから、俺が手を貸すのは当然だろ。お前、なんでそんなに根にもつんだよ?」
「私が根にもってるですって?」
喧嘩は激しくなる一方で、頻度も増えていった。
最後の爆発は、たしか1ヶ月前のあれだった。
彼はこれからケーキを買って謝ると言った。だが、送られてきた写真に写っていたのは、私がアレルギーで食べられないマンゴーケーキだった……
思考が、骨まで凍るような冷たさで断ち切られた。
はっと我に返ると、怯えた茉優の視線とぶつかった。
「ご、ごめんなさい、わざと飲み物をかけたわけじゃ……」
スカートは鮮やかな飲み物の色でぐちゃぐちゃに染まり、脚には氷のかけらがいくつも張り付いていた。
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