さようなら、偽りの家族第2話
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ぐちゃぐちゃになった感情を無理やり押し殺して、青ざめた顔に無理やり笑みを貼りつけて、寝室へと足を踏み入れる。
私の姿が目に入った途端、陽斗は大げさに「痛い、痛い」と呻き声を上げ始める。
いつも通りを装って、「まだ頭痛い?」と優しく声をかける。
プイッと顔を背けて、彰吾の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。「ママが来たらもっと痛くなった。パパ抱っこして!」
子供特有の、隠しきれない露骨な嫌悪感だ。顔に張り付いていた笑顔が引きつって、背筋が凍りつく。
私の顔色が曇ったのに気づいた彰吾が、慌ててフォローを入れる。
「ずっと会えなかったから、パパが恋しかったんだろうな。
美月もこの数日大変だったし、俺が陽斗を会社に連れて行くから、家でゆっくり休んでてくれ」
気遣うような口調ではあったが、その言葉にはどこか気持ちがこもっていないことが痛いほど伝わってくる。
陽斗も待ちきれない様子で立ち上がって、「ママ、もう大丈夫だから。パパと一緒に会社に行く!」とはしゃいでいる。
さすがにまずいと思ったのか、取って付けたように「ママ、ゆっくり休んでね」と付け加える。
二人は顔を見合わせて、嬉しそうに笑い合っている。その瞳の奥には、隠しきれない喜びが踊っている。
苦い感情に戸惑いと無力感が混ざり合って押し寄せる。喉が詰まって、声を出すこともできない。だが、二人は私の異変など気にも留めず、いそいそと出かける準備を始めている。
陽斗に先ほどの弱々しい面影はすでになく、お気に入りのスケッチブックまで抱え込んでいる。誰かにプレゼントを渡すのだという。私に隠れるように彰吾にだけ中身を見せて、いたずらのように目を細めた。
彰吾は「すごく上手に描けてるじゃないか」と笑顔で褒める。二人はまた、何かを共有しているかのような笑みを交わす。
そのスケッチブックは、陽斗が普段から一番大切にしている宝物だ。私が見ようとするといつも隠して、「ママにはサプライズだから」と言っていたものだ。
実は、こっそり中を覗き見たことがある。描かれていたのは二人の大人と、一人の子供。あの時は、私へのプレゼントだとばかり思って密かに喜んでいた。
今になって分かった。母親である私はとっくにそこから排除されて、絵を見ることも許されていないのだ。
彰吾は陽斗と耳打ちしながら手をつないで部屋を出て行く間際、思い出したかのように「休んでてくれ」と適当な言葉を投げかけた。
リビングで呆然と立ち尽くす。渦巻く悲しみが少し落ち着いてから、ようやく我に返って、ソファに寄りかかるように腰を下ろす。
肉体的、そして精神的な痛みが容赦なく襲ってくる。しかし、思考だけは異常なほど研ぎ澄まされている。疑う余地などない。彰吾は浮気をしている。
私の知らないところで、絵奈は、この家の隅々にまで入り込んできていたのだ。あろうことか、我が子である陽斗までもが、彼らと同じ陣地に立っている。
過去の些細な違和感を頭の中でパズルのように組み合わせながら、スマホで絵奈のSNSアカウントを開く。
彼女はすでに、そこそこ名前の知られたインフルエンサーになっている。会社と契約したばかりの頃は、美容系で売り出していたはずだ。
だが今はどうだろう。ずらりと並ぶ動画に添えられたキャプションを見るたび、胸が冷たくなる。
【うちの社長さんとの口喧嘩。また怒られて泣かされちゃった(涙)】
【取引先から社長へのライブチケット、お裾分けでもらっちゃった】
【やらかし記録更新中。今日は社長のスーツにタピオカこぼしちゃった、どうしよう?】
コメント欄は好意的なコメントで溢れかえて、例外なく二人の関係を尊いと持て囃すものばかりだ。
【エリート社長×天然ピュア女子、このペア尊すぎ!】
【付き合うなら絶対に圧倒的スパダリ!】
これらがただのマーケティング戦略だというのなら、まだ良かった。しかし、彼女が最後にアップした旅行の動画が、私の中に残っていた僅かな希望を完全に消し去った。
その動画は、二人が旅行の荷造りをしているところから始まっている。背景に映っているのは、間違いなく彰吾が私のために買ってくれたあのマンションだ。
画面の中で、絵奈は小鳥のように男の胸に飛び込んで、甘えた声でこう言う。「ねえ、何日くらい一緒にいてくれるの?」
男の姿はほんの一部しか映っていない。次の瞬間、彼の手がカメラを奪い取って、画面は真っ暗になる。そして、透き通るような、それでいて甘やかすような低い笑い声だけが響く。
「そんなに構ってほしいの」
7年も寝食を共にしてきたのだ。彰吾の声を聞き間違えるはずがない。そのたった一言が鋭い刃となって、胸を深くえぐる。
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