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さようなら、偽りの家族第1話

この話は約2182字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私・江口美月の夫――桐谷彰吾は、インフルエンサーの森本絵奈と専属契約を結んだ。

彼女はセレブ妻のキャラクターを売りにして、夫婦間の親密さを匂わせる投稿をSNSにアップしているが、彼女が住んでいるあの高級マンションは、彰吾が私のために買ってくれたものだ。

そのことを問いただしても、「ただの演出だろ。いちいち目くじらを立てるな」と、彰吾は面倒くさそうに吐き捨てるだけだ。

胸に湧き上がる疑念を、無理やり押し殺した。

息子の桐谷陽斗がひどい風邪をこじらせて、私は何日も徹夜で看病を続けた。そんなある日、疲労のあまり倒れ込んだとき、陽斗と彰吾のひそひそ話が聞こえてきた。

「パパ、今回は僕が仮病を使ってあげたから、パパと絵奈ちゃん、一緒にいられたんだよ。ママ、すっかり騙されてるね。

今度はパパの番だよ。ママに内緒で、僕も絵奈ちゃんと一緒に住みたい!」

* * *

私・江口美月(えぐち みづき)の夫――桐谷彰吾(きりたに しょうご)は、インフルエンサーの森本絵奈(もりもと えな)と専属契約を結んだ。

彼女はセレブ妻のキャラクターを売りにして、夫婦間の親密さを匂わせる投稿をSNSにアップしているが、彼女が住んでいるあの高級マンションは、彰吾が私のために買ってくれたものだ。

そのことを問いただしても、「ただの演出だろ。いちいち目くじらを立てるな」と、彰吾は面倒くさそうに吐き捨てるだけだ。

胸に湧き上がる疑念を、無理やり押し殺した。

息子の桐谷陽斗(きりたに はると)がひどい風邪をこじらせて、私は何日も徹夜で看病を続けた。そんなある日、疲労のあまり倒れ込んだとき、陽斗と彰吾のひそひそ話が聞こえてきた。

「パパ、今回は僕が仮病を使ってあげたから、パパと絵奈ちゃん、一緒にいられたんだよ。ママ、すっかり騙されてるね。

今度はパパの番だよ。ママに内緒で、僕も絵奈ちゃんと一緒に住みたい!」

寝室のドアの前に立ち尽くす。視線の先には、彰吾の肩に寄りかかって、声を潜めてそんなことを囁く陽斗の姿がある。

水なしで飲み込んだ薬が、まるで巨大な石のように喉につかえている。それに加えて下腹部を襲う激痛に、立っていることもままならない。

彰吾は甘やかすような笑みを浮かべて、陽斗を腕の中に抱き寄せる。

「いい子だ。絵奈も会いたがってたぞ。これは男同士の秘密だからな、ママには内緒だ」

まるで氷の海に突き落とされたかのように、全身の震えが止まらない。逃げるように寝室から後ずさって、洗面所に駆け込む。

蛇口から出る冷たい水が肌に触れて、ようやくほんの少しだけ理性を引き戻す。

ここ数日、陽斗が体調を崩していた。それなのに、どうしても病院へは行きたがらなかった。幼い頃から体が弱くて、食事も人一倍気を使って育ててきた。普段から少し走っただけでも息を切らしてしまう。

気が気ではなく焦りばかりが募る中、出張中だった彰吾がなんとか往診の医者を手配してくれた。

診察を受けて薬を処方されたものの、一向によくなる気配はない。毎晩のように頭が痛いと泣き言を言っていた。

何日も徹夜で看病を続けて、運悪く重なった生理のせいで、気絶しそうなほどの下腹部の痛みに耐えている。

ほんの1時間前、帰宅した彰吾を玄関で迎えたとき、彼は心底痛ましそうな顔をして私を抱きしめながら、「美月、よく頑張ってくれたね」と労ってくれたばかりだった。

堪えていた感情がどっと溢れ出して、ようやく頼れる大黒柱が帰ってきたのだと、張り詰めていた糸がふっと緩んだ。これで少しは休めると、そう思っていたのに。

まさか、ほんの少し気を抜いた隙に、こんな身の毛もよだつような言葉を聞く羽目になるなんて。

彼らの言う「絵奈」とは、彰吾の会社が最近契約を結んだインフルエンサー、森本絵奈のことだ。

以前、陽斗が彰吾の会社に遊びに行きたいと駄々をこねたとき、絵奈に子守りを押し付けたことがある。

迎えに行くと、彼女は陽斗にアイスクリームを食べさせていた。それも大きなファミリーサイズのものを、すでに半分以上も。

季節はもうすぐ冬、こんなものを大量に食べさせれば、夜には胃痛を起こして吐き出してしまうのは目に見えている。

瞬時に怒りが込み上げたが、なんとか大人の対応を取り繕って、「陽斗、お腹が弱いからあまり食べられないって、お姉さんに言わなかったの?」と注意した。

陽斗は唇を尖らせて黙り込んだ。すると絵奈は、大きな瞳をぱちぱちと瞬かせながら、陽斗の耳元でこっそりこう囁いたのだ。

「陽斗くんのママ、いつもこんなに怖いの?これじゃ帰りたくなくなるのも無理ないよね」

ふわふわのワンピースを着た彼女を見て、言葉を失った。まだ若くて悪気はないのだろうと、その時は深く追求するのをやめた。

思えばあの後からだ。陽斗が何かと理由をつけては彰吾の会社に行きたがるようになったのは。今にして思えば、本当の目当ては別のところにあったのだ。

そんなことを思い出しながら、鏡の中の自分を見つめる。髪はボサボサで、目の下にはくっきりとクマができている。痛みのせいでにじみ出た汗が前髪を濡らして、肌にへばりついている。目を背けたくなるほど惨めな姿だ。

胸がぎゅっと締め付けられる。自分だけが蚊帳の外に置かれているという、どうしようもない寂しさと悲しみが押し寄せてくる。

身を粉にして我が子を看病していた私は、ただの滑稽なピエロだったというわけだ。

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