さようなら、偽りの家族第3話
この話は約1298字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
病室のベッドで点滴を受けながらも、絵奈が投稿した動画が頭から離れない。彼女の動画に映る「社長」との日常は、彰吾とのいちゃいちゃ記録そのものだ。
彰吾は、彼女がタピオカミルクティーをこぼしてスーツを汚したとき、代わりの服を選ばせるという名目でショッピングモールへ連れ出して、実際には彼女にいくつものブランド品を買い与えている。
彼女が行きたがっていたライブのチケットを手配して、さりげなくプレゼントしたかと思えば、開演後にちゃっかり隣の席に座って偶然を装ったりもする。
かつて私には一度も向けてくれなかったそんな細やかな気遣いを、今は彼女を喜ばせるために惜しみなく注いでいるのだ。
挙句の果てには、陽斗に仮病を使わせて私の気を逸らして、出張と偽って彼女と旅行にまで行っていた。
胸の奥が鈍く痛む。虚しさも惨めさも通り越した先にあったのは、底知れぬ悲しみと怒りだ。
「熱がありますね。数日入院した方がいいでしょう」
点滴を替えに来た医師は、私の顔色が悪いことに気づいて、眉をひそめる。
「ご家族は?入院になるなら、着替えなどを持ってきてもらうよう連絡してください」
力なく笑う。「入院の手続きも準備も、全部自分でできますから」
病室の手配を済ませて、重い体を引きずって病院内のコンビニへ向かう。点滴スタンドを押す手は小刻みに震えていて、壁に寄りかかって少し休もうと立ち止まったとき、見覚えのある姿が視界に飛び込んでくる。
少し離れた場所にいるのは、陽斗と手を繋ぐ彰吾だ。そして、彰吾が気遣わしげに支えている人は……他でもない絵奈だ。
「普段からあんなに跳ね回るのは危ないって言ってたろ?いい大人なのに足首を捻挫するなんて」
彰吾の大きくて厚い手が絵奈の腰に回されて、彼女を自分の胸元へと引き寄せる。眉をひそめて叱ってはいるものの、その声には隠しきれない心配が滲んでいる。
呼吸が止まりそうになる。スマホを握りしめる手が震える。画面には、彰吾から届いたばかりのメッセージが表示されている。
【美月、本当にごめん。急な会議が入った。終わったらすぐそっちに行くよ】
彰吾が絵奈をベンチに座らせて、その場に片膝をついて彼女の足首を優しくマッサージするのを、ただ見つめていることしかできない。すると、陽斗も慌てて駆け寄って、彰吾の真似をし始める。
「パパ、早くお薬もらってきて!僕が絵奈ちゃんをモミモミしてあげる!」
彰吾は、自分の真似をして小さな手で絵奈の足に触れる陽斗を、目を細めて見守っている。陽斗は小さな顔をしかめて、心配そうに尋ねる。
「絵奈ちゃん、これで少しは楽になった?」
絵奈は嬉しそうに陽斗の頬を両手で包み込む。「陽斗くん、えらいね。すっごく良くなったよ!」
そのあまりにも幸せそうな光景が、残酷なほど目に焼き付く。下腹部が激しく痙攣し、頭は割れるように痛む。額に浮かんだ汗が頬を伝って目に入って、染みて目を開けていられない。
それでも今の私には、裏切られたという激しい怒りだけが頭の中を支配している。今にも崩れ落ちそうな体を無理やり支えながら、無理やり笑顔を作って、歯を食いしばりながら一歩を踏み出す。
「あなた、会議じゃなかったの?」
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