こんな星の光も、私を照らしていた第3話
この話は約2220字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
影夫が去った後、叶夜は家の中にある自分に関わる物をすべて整理した。
どうせ完全に姿を消すのなら、彼女は川野父子に一片の痕跡すら残さないと決意した。
影夫が贈った記念日のプレゼント、ダイヤのネックレスやバッグは、すべて質屋に送った。
さらに、彼女が息子のために買ったクマのぬいぐるみも、長いあいだ箱の底に眠っていた。
悠人が幼い頃、彼女はこのぬいぐるみで何度もあやしていた。
「悠人、いい子よ、寝ましょう。怖がらなくても大丈夫よ。ほら、クマさんがママの代わりにずっとそばにいてくれるわ」
しかし今ではもうほこりをかぶり、代わりに枕元に置かれているのは、凪が贈ったウサギの人形だ。
彼女はそれらをまとめてごみ焼却場へ送った。
これまで取って代わられ、忘れ去られてきた想いも、すべて灰のように跡形もなく消え去った。
彼女がすべてを終えたとき、パリの信託会社から電話が入った。
「小林さん、東山さんの全遺産を相続なさいますか?7日後、その効力が発生し、資産はすべてあなたの口座へと統合されます」
「はい、お願いします」
電話を切ると、叶夜は空っぽになったクローゼットに視線を走らせ、残りの荷物をまとめ終えた。
彼女は今日からもう家を出て、影夫と凪に場所を譲ることを決めた。
ちょうど荷造りを終えたとき、凪からメッセージが届いた。
【あなたの離婚協議書、もう影夫にサインさせたわ。今すぐ夜色クラブのダイヤモンド個室まで取りに来て】
叶夜が個室の外に駆けつけたが、ドアを押して入ることはしなかった。ドアはまるで、彼女のためにわざと半開きにされているかのようだ。
中では真実か挑戦かというゲームが盛り上がっている。
「影夫、凪とこんなに長い間離れてたけど、まだ好きなんだろ?今会社に入れたのも、オフィスラブがしたいからじゃないのか?さあ言えよ。みんな待ってるぞ!言えないなら……」
その男はわざと声を引き伸ばしながら、未開封のジョニーウォーカーブルーラベルを一本掴んで、影夫の前にドンと置いた。
「これを飲み干せ!」
囃し立てる声が響き、凪が笑いながら口を挟んだ。
「みんな、影夫を困らせないで。私が代わりに飲むわ」
彼女がボトルを手に取り、彼のために一気に飲もうとした瞬間、影夫は険しい顔でそれを奪い取った。
「やめろ」彼の声は断固たるものだった。
「お前は今、体調が悪いだろ。俺が飲むさ」
「おお!」
凪の頬がたちまち赤らんだ。
「影夫……」
ボトルを一気に彼に飲ませられると、個室は喝采と歓声に溢れた。影夫は豪快に飲み干した後、首筋が赤く染まっている。
叶夜はドアの枠を必死に掴み、視界がどんどん滲んでいくのを感じた。
影夫は長年の接待で胃を痛めていたが、彼女はその間ずっと、毎日欠かさず胃に優しい料理を作り、丹念に看病してきた。
しかし、彼の愛する女性の前では、それらは何の価値もないことだ。
彼の過去を彼女は気にしたことはなかったが、結局、影夫は過去を一度も手放していなかったのだ。
影夫の心は、一度も純粋に彼女のためだけに向けられたことがなかった。
彼女がウェイターから渡された離婚協議書を見ると、影夫の署名はすでにされていた。
突然、彼女はこれが凪のずっと企んでいた仕掛けだと理解した。
冷たく空っぽになった家に戻ると、叶夜は最後の小さなスーツケースを引きずっている。
ちょうどその時、帰ってきた影夫は、濃い酒の匂いを全身に漂わせながら、慌ててテーブルの水を取り、彼女の用意した胃薬を飲み込んだ。
彼が寝室に足を踏み入れるや否や、目は瞬時に、空になったクローゼットや化粧台に釘付けになった。
さらには……子供の部屋のドアも開いており、内部の整頓されたベッドが異様に目立っていた。
影夫は驚きのあまり瞳を見開き、数歩前に進んで彼女の手首をぎゅっと握りしめた。
「叶夜!俺は凪を送っただけだ。それでお前は別居するつもりか?」
手首の激痛に、叶夜は思わず息を吸い込み、冷たく手を引いて彼を見据えた。
影夫は、彼が知らぬ間に離婚協議書に署名してしまったことを、まだ知らないようだ。
こうしてもつれを避けるのも悪くない。
叶夜は軽く笑った。
「あなたには愛人がいる。外では、その身分も堂々と認めたのよ。じゃあ、私は何なの?
影夫、今日から、あなた父子の世話はもうしない」
影夫は突然冷笑し、まるで彼女の心を見透かしたかのようだ。
「また駆け引きのつもりか?手首を切ったり薬を飲んだりして、まだ足りないと言うのか。どうやらここ数年、甘やかしすぎたようだな。
お前が川野夫人でいる気がないなら、望み通りにしてやる。明日、凪をここに迎えるさ!ここには彼女の居場所があるべきなんだ!」
その一言一言が、毒針のように彼女の心臓を貫いた。
前世、影夫と結婚してから、彼の冷淡さに気づいた彼女は、何度も自分の身体を傷つけて彼の注意を引こうとした。
今、彼女はようやく理解した。愛さない人をいくら追いかけても、傷つくのはいつも自分だけだ。
そのとき、ちょうどベビーシッターに連れられて戻った悠人が、歓喜に手を叩いた。
「やった!パパが水村おばさんを連れてくるんだ!僕、水村おばさん大好き!
おばさんがくれたウサギの人形はずっと枕元に置いてあるんだ。僕も水村おばさんにプレゼントを用意する!」
叶夜は何も言わず、決然とドアを押し開け、未練のかけらも残さなかった。
顔を上げると、涙はすでに静かに流れ落ちていた。
影夫、悠人、安心しなさい。
これから先、二人の前に姿を現すことはもうないのだ。
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