これからは月は堕ちない第2話
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月乃は一晩中寝返りを打ち続け、朝まで一睡もできなかった。
ようやく夜が明ける頃、優成が湯気の立つ朝食を手に、優しい表情でベッドのそばに立っていた。
「月乃、今日は映画の試写会だよ。夜には祝賀パーティーもあるし。監督が、俺たちのためだけにプライベートシアターを用意してくれたんだ。二人きりで、この十年間の愛を振り返ろう」
優成の目は星のようにきらめき、その視線には隠しきれない愛情があふれていた。
この映画の脚本は、彼が何度も推敲を重ねたもので、二人の恋の一瞬一瞬が丁寧に描かれていた。
公開前からすでにネットでは話題沸騰で、ファンたちは口を揃えてこう言っていた。「これはもう映画じゃない、超大規模なラブラブショーそのもの!」
月乃は最初、心のどこかで悲しみがあり、正直なところ行きたくなかった。だが、優成の熱意に押され、最終的には断りきれなかった。
映画館に到着し、席に着いたそのとき、背後から聞き覚えのある声がした。
「入江先生、偶然ですね!」
優成が先に振り返り、その体が一瞬こわばった。月乃も顔を向けると、胸元の大きく開いたミニスカート姿の吉田心愛(よしだ ここあ)が目に飛び込んできた。
……なるほど、こいつも来ていたのね。道理で優成の息が荒かったはずだわ。
月乃は淡々と問いかけた。
「そんな格好で映画を観に来たの?風邪ひかないようにね」
心愛はにっこり笑って、わざとらしくスカートの裾を下に引っ張った。
「今夜の祝賀パーティーに参加するんです。だって、いよいよ映画が公開されるんですもの。私がヒロインで……」
「……なんだって?」月乃の顔に驚きが走った。
撮影当初、キャスティングは彼女と優成が一緒に決めたはずだった。ヒロインは心愛ではなかった。
……なるほど、だからこそ撮影中、彼は彼女の訪問を嫌がって「サプライズにしたいんだ」なんて言っていたのね。
「監督は若い子にチャンスを与えたかったんだろうね。月乃、映画が始まるよ。中に入ろう」
優成はまるで何も知らないかのように振る舞い、心愛には一度も目を向けなかった。
しかし心愛は引き下がらない。
「入江先生、ご一緒してもいいですか?」
そう言いながら、月乃の腕に抱きつき、甘えるように体を寄せてきた。
月乃が彼女を一瞥すると、心愛の視線は終始、優成に向けられていた。
「それはちょっと……」優成が口を開きかけたその時、月乃が遮った。
「いいわよ、一緒に観ましょう」
その言葉に、優成は驚いたような表情を浮かべた。まるで月乃がすべてを知っているかのような、そんな気配を感じたのだ。
三人でシアターに入り、優成は真ん中の席に座った。
映画が始まり、優成は二人の過去を回想し始めた。
「覚えてる?十年前の卒業会で、突然マイクを奪って、片膝をついて言ったこと。第二ボタンは心臓に最も近い場所。月乃、ここに君の名前を刻んだ。だって君は、俺の心臓よりも大切だからって、俺は言ったんだ」
当時、彼は首席合格者として街の誇りだった。その彼が、一人の女性のために入れ墨を入れたのだ。
映画では、ちょうどそのシーンが映し出されていた。
胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われたそのとき、隣の心愛が腹痛を訴えた。
月乃が目をやると、心愛はこっそり優成の手を引き、自分のスカートの中へと誘導していた。
優成の体は、興奮によりわずかに震えている。
「月乃、俺もトイレに行きたいな。一緒に行かない?」
月乃は静かに首を横に振り、二人が順番に席を立つのを見送ると、シアターを出た。
その時、観客たちのひそひそ声が耳に入ってきた。
「トイレであんな声出して……もう我慢の限界だったのね」
月乃は足早に映画館を離れようとした。だが、人混みの中で誰かに気づかれてしまった。
「東条奥さんだ!今日も東条社長がSNSでネックレスの自慢してたよ。自分でデザインしたって」
「東条奥さん、サインください!お二人の愛の物語、絶対観に行きます!」
月乃は胸を突き刺されるような思いで顔を伏せ、携帯に届いた優成からのメッセージを見つめた。
【月乃、お腹が痛くてたまらなかったよ。一人で映画を観ることになってごめんね】
彼女は涙をこらえながら返信した。
【私に辛い思いをさせたくないなら、埋め合わせをして】
【月乃、君が欲しいものなら何でもあげるよ】
【じゃあ、あなたの株をちょうだい。あなたの手元資金も全部。くれる?】
優成はすぐには返事を返さなかった。
しかしその夜の祝賀パーティーで、彼は人前で株の譲渡契約書を取り出した。
「皆さんに、俺たちの愛の証人になっていただきたい。命さえも彼女に捧げられる俺にとって、株や金なんて当然のことだ。
さあ、俺の愛を受け取ってくれ。今、俺の財布には数千円しか残ってない。これからは妻に養ってもらわなきゃ。どうか、見捨てないでくれよ」
会場は一瞬にしてざわめきに包まれた。
その中でただ一人、月乃だけが何の表情も浮かべず、静かに立っていた。
彼女にとってはもう、金以外に欲しいものはなかった。優成さえも。
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