これからは月は堕ちない第3話
この話は約2037字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
祝賀パーティーには多くの人々が集まり、出演者に加えて、優成の親しい友人たちも顔を揃えていた。
優成が月乃の手を取り、株式譲渡契約書にサインをしたその瞬間、何人かの友人が冗談混じりに声をかけた。
「この株、控えめに見積もっても数百億は軽く超えるだろ?優成、お前は本当に純愛すぎたな。月乃さん、あんたたちの愛には泣かされそうになるよ」
「覚えてるか?大学の頃、あいつが寮で月乃のためにマフラー編んでたんだぜ。俺たち、そんなのは女の子がやるもんだってからかってたけど、あいつは全然気にしなかったんだよ」
「それに、月乃には一切苦労させたくないって、いつも言ってたよな。で、実際、その言葉を今でも守り続けてるぞ」
「月乃さんと優成兄貴、ずっと幸せでいてくれよ。この映画、絶対ヒットするって!」
「優成はどこ行った?……ったく、奥さんのためにみかん剥いてるよ!こんなの見せられて、飯が喉通るかよ!もう愛で満腹だわ!」
「剥かなくていいよ、白い筋には栄養あるって聞くし、口内炎にも効くらしいぞ〜」と、誰かがからかった。
優成は笑って何も言わなかったが、その手は止まることがなかった。
「わかってねぇな。うちの月乃は苦いのが嫌いなんだよ。だから、ちゃんときれいにしてあげなきゃ」
その場にいた誰もが、月乃を心から羨ましく思った。心愛までもが彼女のそばにやってきて、唇に挑発的な笑みを浮かべながら言った。
「本当に羨ましいですよ、入江先生……うちの旦那なんて、毎回ベッドで私をヘトヘトにさせるだけですよ」
月乃は何も言わなかったが、優成の友人のひとりが少し離れた場所から近づいてきて、すかさず応戦した。
「今そういう話すんのかよ?今夜の主役はうちの月乃さんだろ。部外者は黙ってろ」
月乃の胸に、かすかに温かいものが灯った。彼女はもう心愛に視線すら向けなかった。
その後、皆が主役のふたりを囲んでにぎやかに過ごし、やがて優成は皆を連れてカラオケへと向かった。
ちょうどその頃、月乃のもとに院長から連絡が入り、「出発前に全身検査を受けるように」と言われたため、彼女は先にカラオケを後にした。
外に出てから、鍵が優成のポケットにあるのを思い出し、再び個室の前まで戻った。
すると、ついさっきまで賑やかだった部屋の中から、どこか下品な笑い声が漏れ聞こえてきた。
「演技ってマジ疲れるよな。優成はすげーわ、月乃さんの前では心愛と他人のふりしてんだもん」
「さっき俺が月乃を庇ってたの、あれも優成を援護してたんだぞ。ほら、自罰で一杯やっとけよ。心愛、怒んなって」
心愛は優成の膝の上に座り、彼の首に腕を絡めて甘えた声で囁いていた。
「私が怒るかどうかは、優成がどうやって機嫌取ってくれるか次第ね。
入江先生にあれだけの株と金をあげたんだから、私にもなんかちょうだいよ。私はいちばんなんでしょ?」
周囲の連中も大声で囃し立てた。
「心愛だけが傷つくのは不公平だろ。お前、毎晩心愛と寝てんだし、心愛ももう大変だろうよ」
「それだけじゃねぇぞ。撮影現場でも何度もやってたって噂だぜ」
「正直に言えよ。最後にやったの、いつだ?」
優成はにやにやしながら答えた。
「今日の午後、車の中で。そのあとレストランのテラスでもう一発」
「ははっ、お前、どんだけ体力あんだよ!」
「だってさ、心愛のスタイルが反則級なんだもん」
そう言いながら、彼はポケットから二つの小箱を取り出して、心愛に手渡した。
「これ、君のためにデザインしたアクセサリー。月乃には一つ、君には二つ」
心愛は「優成、だーいすき!」と満面の笑みで叫んだ。
……個室の外では、月乃が全身を突き刺すような痛みに耐えながら、まるで幽霊のようにその場を立ち去った。
……そうか、全員だ知っていたのか。
馬鹿だったのは、自分だけ……!
月乃の胸は引き裂かれるように痛み、心臓は粉々に砕けた。
携帯に届いた「振込完了」のメッセージをじっと見つめながら、彼女の中にひとつの決意が芽生えた。
その夜のうちに、彼女は映画の監督に連絡を取り、上映権の買い取りを申し出た。
監督は最初、分配比率に不満があるのかと勘違いしたが、月乃はすぐに否定した。
「監督、誤解です。映画の公開前日に、私が用意したディスクをお渡しします。それを上映していただきたいんです。これは……私から夫へのサプライズです。
この愛の映画については、記念日を選んで改めて流したいと思っています。
ただひとつ、お願いがあります。この件については、誰にも口外しないでください。サプライズが台無しになってしまいますから」
監督は深く考えずにすぐ了承した。どうせこれは全国公開されるような大作ではなく、東条社長が妻のために私的に作ったロマンチック映画だと思ったのだ。
「東条奥さんと東条社長、本当にお互いを大切にされてるんですね。理想のご夫婦です」
……本当にそうか?
月乃は雨の中に佇み、胸を押さえて泣いていた。あまりに激しい嗚咽に、意識が遠のきそうだった。
あの愛とやらは……結局、ただの茶番劇だったのだ。
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