かつて秘めた恋心第2話
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和己は絵理奈の表情をじっくりと観察した。
彼女の態度が自然で、本当に怒っている様子がないことに気づくと、途端に嬉しそうな顔になった。
「やっぱり君が一番分かってくれる。都心のあのマンションの名義を麻美に移したら、彼女もこの街で落ち着けるんだ」
そう言うと、彼は顔を寄せ、絵理奈の頬に口づけをしようとした。
しかし、絵理奈はさっと一歩下がってそれを避けると、震える声で和己をじっと見つめた。
「都心のあのマンションって……私たちの、新居の?」
和己の視線が一瞬泳いだ。
絵理奈の心臓は、まるで氷の洞窟に突き落とされたかのようだった。
あの新居は、二人が家を出て起業し、苦労して最初の契約をまとめた後に頭金を払い、共に内装をデザインし、少しずつ家具を揃え、ようやく完全に自分たちのものになった家だった。
二人にとって、この家はまったく違う意味を持っていた。
それなのに今、和己はこんなにもあっさりと、あの家を人に譲ると言うのか。
和己は自分が失言したことに気づいたらしく、慌てて言った。
「いや……君に相談しないつもりじゃなかったんだ。でも、麻美はこの街に慣れていないし、早く落ち着かせる必要があった。新しい家を買う時間はなかったから、とりあえずあそこに住んでもらったんだ」
彼は絵理奈をなだめるように、祈るような目で見つめた。
「もっと新しくて大きな家を買ってあげるから、いいだろう?」
その瞬間、絵理奈はまるで心臓にナイフを突き立てられたかのような感覚に襲われ、呼吸をするたびに胸が痛み始めた。
もう住んでいるなんて……
しかも、そのすべてを、和己が失言したせいで初めて知った。
彼の目には、自分はいったい何に映っているのだろう。
「和己、私がただ家を一軒欲しいだけだと思ってるの?」
すると彼は、こう言い放った。
「じゃあ二軒買ってやる!」
絵理奈の眼差しが、急に悲しみに満ちたものに変わった。
彼女は一度目を閉じると、和己のそばをすり抜け、大股で去って行った。
もういい。
相手が大切にしないのなら、自分だけがこの思い出を守っていても、何の意味があるというのだろう。
男の少し焦った声が、背後から聞こえてきた。
「絵理奈!麻美は一人で可哀想なんだ。この家は、君が彼女を傷つけたことへのお詫びでもあるんだ。そんなに心の狭いことを言わないでくれ!」
絵理奈は固く両手を握りしめた。
和己が言っているのは、麻美に会ってからまだ数日しか経っていない、あの日のことだ。
突然両親を亡くした麻美は、夜も眠れない日が続いていた。
和己は毎日彼女に付き添うしかなく、いくら彼が麻美に対しては何とも思っておらず、昔助けてもらった恩返しだ、と説明しても、絵理奈の心は晴れなかった。
彼女は麻美と話をしようと決めた。
しかし、絵理奈の来意を聞いた麻美は、慌てて泣きながら後ずさり、階段を踏み外して転落した。
ちょうど駆けつけた和己が受け止めたものの、足は捻挫してしまった。
絵理奈は、その時の和己の視線を今でも覚えている。
失望、不信、そして怒り……
彼女がいくら説明しても、彼は絵理奈がわざと麻美を困らせ、突き落としたのだと思い込んでいた。
あの日から、和己は意図的に麻美を連れて自分を避けるようになった。
まるで、彼女が再び麻美を傷つけることを恐れているかのように。
絵理奈は今に至るまで胸を痛めており、冷笑したい気分だった。
どうせ自分はもう行くのだ。
それなら、あの二人を一緒にしてあげよう。
もう自分のせいで、こそこそする必要もない。
絵理奈は自嘲気味に笑い、かすれた声で言った。
「ええ、いいわ。あの家はあなたたちにあげる」
「末永くお幸せに」
最後の一言はとても軽く、風の中に消えていった。
和己は彼女の後ろ姿を見つめ、なぜか胸騒ぎがした。
彼は無意識に一歩前に出て、何かを言おうとしたが、その時スマートフォンが鳴った。
麻美の、優しい声が響いた。
「和己さん、ずいぶん長いのね?」
和己の意識はすぐに引き戻された。
彼は薬を手に急いで来た道を引き返しながら、彼女をなだめた。
「今戻るよ。待たせたね……」
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