かつての私たちには、さようならを第2話
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颯太は慌てて力を抜き、身をかがめて私の傷に息を吹きかけてくれた。
でも颯太、私の心が痛いの。どうすればいいの?
あれほど私を愛してくれた人が、ずっと嘘をついていたなんて。とても受け入れられない。
本当に、すごく痛い。
結局、颯太は行ってしまった。
「私も一緒に行く」と言ってみたけど、彼の目には一瞬だけ、困ったような色が浮かんだ。そして最後は、小声で私をなだめてきた。
「いい子だ。今日帰ってきたばかりで、ここ数日、すごく疲れただろう。
ゆっくり休んで。二、三日したら、一緒にウェディングドレスを見に行こう?」
颯太に言われるまですっかり忘れていた。私たちの結婚式は、一ヶ月後だ。
私は何も言わずに、彼が家を出ていくのを見送った。
颯太は私を愛している。ううん、もしかしたら……愛していた、が正しいのかも。
でも、その愛は私だけのものではなかった。
寝室に戻ってスマホを開き、目的もなくインスタを眺めていると、美優が更新したばかりの投稿が目に入った。
何枚も投稿された写真のうち、真ん中の一枚は、颯太が片膝をついてケーキとダイヤモンドの指輪を彼女に差し出しているものだった。
写真の中の美優は、とびきりの笑顔を浮かべていて、周りは大勢の人で囲まれていた。
二人は、とてもお似合いに見えた。
颯太にとって、美優は特別な存在だ。
二人は幼馴染で、小さい頃からずっと一緒に育った。
その後、美優が海外に留学したことで、二人の連絡はだんだんと途絶えていった。
ところが一年前に、佐野家が違法行為で摘発され、倒産してしまった。美優は留学を続けられなくなり、帰国した。
全てが変わったのは、どうやらその時からのようだ。
はっと我に返ると、涙が止めどなく溢れてきた。心の動揺につられるように、体の傷もズキズキと痛み出した。
私はベッドの隅で体を丸め、震えが止まらなかった。
ツイッタを開いて、よく見るアカウントのリストをスクロールした。その中に、目立たないサブ垢があった。
あれは、美優のアカウントだ。
一週間前、私はここの投稿を全て見た。二人の関係を知って絶望し、深夜の山道で事故に遭って死にかけてしまったのだ。
そして今、もう一度そのアカウントを開くと、さらにいくつかの投稿が更新されていた。
それは、私が姿を消していたこの一週間の、二人の日常だった。
【颯太さんにお弁当を作ってあげた!すっごく美味しいって!嬉しい!】
添付された写真は男の横顔。まぎれもなく颯太だった。
ふと、付き合ってからの五年間、一度も二人で写真を撮ったことがなかったと思い出した。
たまに私が日常の記録として颯太の写真をこっそり撮ろうとしても、いつもスマホを奪い取られて消された。そして、彼はいつも真面目な顔でこう言ったものだ。
「莉子、知ってるだろ。俺はプライバシーを大事にするタイプなんだ。ネットに個人情報を晒すのは好きじゃないし、そもそも写真を撮られるのが嫌いなんだ!」
それなのに、今はどうだ?
さらに下にスクロールすると、あるチャットのスクリーンショットが目に飛び込んできて、胸が締め付けられた。
美優は尋ねた。【もし彼女が永遠に帰ってこなかったら、あなたはずっと新しい恋人を作らないつもり?じゃあ、私はなんなの?】
【お姫様、彼女が帰ってこようがこまいが、君が望むなら、俺の隣はいつでも君のために空けてあるんだ】
その言葉に続き、颯太は美優に大金を二度に分けて送金し、【これはプレゼントだから】という言葉を添えていた。
その言葉を見た途端、去年のバレンタインデーの記憶が蘇る。ネットで、「贈る」とかの言葉を添えれば、送金を贈与とみなし、これで別れた後の取り消しや紛争のリスクも避けられる、という記事を読んだのだ。
颯太のことを信じてはいたけれど、私は半分冗談のつもりで彼にメッセージを送った。
【今度送金してくれる時は、プレゼントだって付け加えてね】
その日、颯太は珍しく顔色を曇らせ、普段とは別人のように私を見つけて詰問した。
「莉子、どういうつもりだ?
俺のことが信用できないのか?」
次から次へと思い出が頭をよぎり、呼応するように胃がキリキリと痛み始めた。
背中に冷や汗が流れ、ふらつきながらベッドを降り、いつもナイトテーブルに置いている薬を探した。
ナイトテーブルを開けると、そこには、見たことのない使いかけのコンドームの箱が置いてあった。その隣には、女の口紅まで転がっている。
私は分かっている。これは美優からの、私に対する挑発だ。
でも今は、意識が遠のくほどの痛みだった。胃薬はもう切らしていることに気づき、私は震える手でスマホを握りしめ、颯太に電話をかけた。
長いコール音の後、ようやく電話がつながった。颯太は声を潜め、いらだちを隠そうともせずに言った。
「今夜は帰りが遅くなるって言っただろ。一体何のつもりで電話してきたんだ?」
私は唇を引き結び、震える声でかろうじて言った。
「颯太、胃が痛いの。家に薬がなくて……」
電話の向こうで彼が息を飲むのが分かった。その直後、からかうような女の声が聞こえた。
「颯太さん、もう帰ってあげたら?
私の誕生日を祝ってくれるせいで、あなたも大変ね。莉子さんは行方不明になったり、胃が痛くなったり。私の誕生日なんて、もうどうでもいいわ」
あからさまに不満そうな女の声に、颯太は慌てふためき、急いで電話を切った。
最後に、一言だけ残して。
「少し我慢しろ。死ぬわけじゃないだろ」
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