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かつての私たちには、さようならを第1話

この話は約2022字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

死んでから七日目、私は死神から特別に、お別れのための時間を一ヶ月だけもらった。

黒崎颯太(くろさき そうた)は私を見つけると、瞳を輝かせて、私を強く抱きしめた。

「一週間もどこに行ってたんだ!死ぬほど心配したぞ!」

でも、この世に戻ってきた最初の夜だというのに、彼は私を家に残して、佐野美優(さの みゆ)の誕生日パーティーに行ってしまった。

颯太、私に残された時間は、あと一ヶ月しかないんだよ。

私がこの世からいなくなったら、あなたは喜んでくれるのかな?

* * *

5年間付き合っている彼氏・黒崎颯太(くろさき そうた)は、私の目の前で平然と、彼の幼馴染・佐野美優(さの みゆ)のことを「お姫様」と呼ぶ。

美優のためにお弁当を作ったり、ケーキやダイヤモンドの指輪をプレゼントしたり。さらに特別な意味を込めた大金を送って、【これはプレゼントだから】なんてメッセージまで添えていた。

颯太はそれを、「男女間の純粋な友情」だと言い、私の口出しを許さなかった。

私のことが邪魔で、消えてほしいと願っているようだったから、望み通りにしてあげた。

まさか、自分が「死」から戻ってくることになるとは、思ってもみなかった。

……

血だらけの体で車から這い出した時、私は本当にこの世に戻ってきたんだって気づいた。

死神の冷たい声が、まだ耳の奥で響いていた。

「あなたにはまだ現世に未練があるようだ。特別に1ヶ月の時間を与えてやる。別れの時間を大切にするがいい」

全身がバラバラになりそうな激痛に耐え、ボロボロになったスマホを探し当てた。幸い、電源はまだ入っている。

画面には、颯太からのメッセージが溢れていた。私の身を案じるもの、焦っているもの、取り乱しているもの……

それもそうか。この世から私が姿を消して、もう七日も経っていたのだから。

颯太とこんなに長く付き合ってきて、こんなことは一度もなかった。きっと、死ぬほど心配しているに違いない。

そう思うと、私は通りがかったトラックを呼び止めた。運転手の、「病院へ連れていこうか?」という申し出を断って、代わりに家の住所を告げた。

三時間後、私はずっと帰りたかった家へと戻ってきた。

ドアを開けた途端、颯太が笑顔で駆け寄ってきた。

でも、私だとわかった瞬間、その顔には一瞬だけがっかりしたような色がよぎった。すぐに彼は嬉しそうな表情を作って、私を腕の中に抱きしめた。

「莉子!君は一週間もどこ行ってたんだ!警察に届け出るところだったんだぞ!

どうしたんだ、なんでそんなに怪我をしてるんだ?!」

颯太は心配そうに私を横抱ききにすると、そっとソファに降ろした。そして救急箱を持ってきて、丁寧に傷の手当てをしてくれた。

そんなふうにかいがいしく動く彼の背中を見ながら、私はふと、小さな声でつぶやいた。

「今夜は、私のそばにいてくれないかな……」

その言葉に、颯太の動きがぴたりと止まった。無意識に力が入ったのか消毒綿が傷に食い込むが、私は痛みを堪えて黙っていた。

「莉子、もし俺に今夜そばにいてほしくて、わざと拗ねて一週間も姿を消したんだとしたら……正直、がっかりだ。

今日が美優の誕生日だって知ってるだろ。それに、美優が小さい頃からどれだけ苦労してきたかも知ってるはずだ。そんな彼女が、誕生日くらいちゃんとお祝いしたいって思うのもダメなのか?」

私は何も言わなかった。ただ、一言でがっかりした顔をする颯太を、静かに見つめていた。

いつの間にか、颯太の中で、美優は私よりもずっと大切な存在になっていたんだろう?

もしかしたら、最初からずっと、彼の心の中には美優のための特別な場所があったのかもしれない。

黙り込んでいると、颯太は不思議そうに顔を上げて、ちらりと私を見た。

その視線を感じただけで、私の目には一瞬で涙が溢れてきて、大粒の雫がぽろぽろとこぼれ落ちた。

颯太は慌てて私の涙を拭いながら、いつの間にか優しい声色になっていた。

「ごめん、莉子。きつく言うつもりじゃなかったんだ。もし今夜、君が帰ってこなかったら、俺だって美優の誕生日を祝いに行く気になんてなれなかった。

君が何を考えてるか、わかるよ。俺の中では、君がいつでも一番なんだから。な?」

颯太は私を腕に抱き寄せた。涙で滲む視界の中で、私は彼のつけっぱなしのスマホの画面を、じっと見つめていた。

私が帰ってくる直前まで、美優は颯太に、【今夜、誕生日を一緒に祝ってくれる?】とメッセージを送っていた。

それに対する颯太の返事は……

【もちろん、お祝いするよ。お姫様】

息が止まるかと思った。そして、心が一気に冷え切っていくのを感じた。

私は顔を上げて颯太の優しい顔を見つめる。見慣れているはずの顔なのに、今はまるで知らない人のように思えた。

「どうした?」

颯太は、まるで壊れやすい宝物でも扱うかのように、そっと尋ねてきた。それは、すごく、すごく大事にされているみたいだった。

私は唇をぎゅっと噛みしめて、やっとの思いで言葉を絞り出した。

「痛い。

颯太、痛いよ」

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