かつての私たちには、さようならを第3話
この話は約1552字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
ええ、死にはしない。
私はもう死んでいるんだから。
颯太、真実を知ったらあなたは後悔するのかな。
目が覚めると、目の前は真っ白だった。
ベッドのそばでは、颯太が医師に叱られていた。
「極度の痛みとショックで患者さんは非常に衰弱していました。ショック死してもおかしくなかったんですよ!
彼氏なんでしょう!彼女がこんなに弱っているのに、まったく気づかなかったんですか?!」
颯太は黙って聞いていたけど、私が目を覚ましたのに気づくと、すぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫か?莉子?まだどこか痛むところは?」
後悔と苦痛に満ちたその顔を見て、一瞬、昔に戻ったかのような錯覚に陥った。
私の胃痛は持病みたいなものだった。大学の頃もよく夜中に病院に運ばれていたから。
颯太と付き合い始めて、私が初めて夜中に病院へ行った時、彼は寮を抜け出してきてくれた。そして、一睡もしないで一晩中そばにいてくれたんだ。
あの時も、私が目を覚ますと、今と同じように心配そうな顔をしていた。ほっとしたように私の手を握って、目を真っ赤にしながら言ったものだ。
「すごく心配した。胃痛でこんなにひどくなるなんて、初めて見たよ。
死ぬかと思ったぞ、莉子。
俺がちゃんとついててやれなくて、ごめん」
あの時の私は、なんて返事したんだっけ?
もう忘れてしまった。ただ、今みたいに悲しい気持ちでいっぱいじゃなかったことだけは確かだ。
医師は点滴を確認すると病室を出て行った。颯太は、そばに立ったまま黙り込んでいる。
しばらくして、彼は突然どさりとひざまずいた。目に涙をためて、かすれた声で私に言った。
「ごめん、莉子。俺がちゃんと、君のことを見てやれてなかった。
昨日、昨日の夜は――」
「美優さんと一緒にいたんでしょ。知ってるわ」
颯太が口ごもるのを見て、私は乾いた唇を開き、言葉を継いだ。
颯太の顔はみるみるうちに青ざめていった。彼はひざまずいたままにじり寄ってくると、私の手を強く握り、声を詰まらせた。
「俺が悪かった。許してくれないか、莉子?
本当に愛してるんだ。今朝、家に帰って、床で血の気もなく倒れている君を見つけた時、気が狂いそうだった。
君がいない人生なんて、考えられない」
その言葉は切実だったけれど、痛みで麻痺した私の心には、さざ波ひとつ立たなかった。
期待に満ちた顔で私を見つめる彼に、私は口の端を少しだけ上げて、力なく笑った。
「じゃあ、今日は一日中、そばにいてくれる?」
颯太はきょとんとして、困ったように私を一瞥すると、しばらくしてようやく頷いた。
その様子を見て、私は急に何もかもどうでもよくなった。
もしかしたら、あと一ヶ月の命なんて願うんじゃなかった。二人のことを知った瞬間に、死んでしまえばよかったのに。
そうすれば、こんな息の詰まるような思いをしなくても済んだのに。
突然、颯太のスマホが鳴った。彼がチラリと私の方を窺ったので、私は頷いた。
「出れば?
ここで出て」
電話に出たとたん、美優の不満そうな、泣きじゃくる声が聞こえてきた。
「颯太さん、今日が何の日か忘れちゃったの?
今日は、私の両親の命日だよ。一緒にお墓参りに行ってくれるって約束したじゃない。
もし来てくれないなら、いっそ死んで、お父さんとお母さんのところに、行っちゃうんだから!」
颯太は眉をひそめ、冷たく言った。
「バカなこと言うな!死ぬなんて軽々しく口にするなよ!元気でいろよ!」
私が口元だけを歪めて笑うと、颯太は私の視線を避けるように、ドアの方へ向かった。
一度死にかけたせいか、私の聴覚は妙に鋭くなっていた。
二人の話し声がはっきりと聞こえてきた。
美優は甘えた声で迎えに来てとねだり、颯太は彼女をなだめるように言っていた。
「待ってくれ。まず先生に莉子に睡眠薬を投与してもらうよ。
彼女が眠ったら、迎えに行くから。それでいいだろ?」
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