和紙文いつだって、花嫁は私じゃない · 第3話設定≡

いつだって、花嫁は私じゃない第3話

この話は約1255字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

「ええ、あなたのせいよ。

悪いと思ってるなら、消えてもらえる?」

若菜の顔が強張り、涙が溢れ出した。彼女はふらりとよろめき、ひどいショックを受けたふりをした。

哲也は慌てて若菜を支え、私を睨みつけた。

「七海!なんて酷いことを言うんだ!若菜の体が弱いことを知ってるだろ!」

「酷い?」

かつて深く愛したこの男に対し、今は吐き気しか感じない。

「哲也、あなたの中では、愛人を守るのが義理で、正妻が抗うのは悪なのか?

いいわ、よく分かったわ」

私は頷き、一歩下がった。

「こんな茶番劇、もう付き合っていられない」

私は背を向けた。

こんなクズ男、欲しい奴にあげればいい。

私が立ち去ろうとした瞬間、哲也はハッとした。

彼の顔に、初めてパニックが浮かんだ。

この七年、私がどんなに騒いでも、最後には必ず許してきた。彼は私の妥協に慣れきっていた。

「七海!待て!説明させてくれ!」

彼の手が私に触れようとした、その時、背後で若菜が短く悲鳴を上げた。

「哲也くん……痛い……っ」

哲也の動きが止まった。

振り返ると、若菜が腹部を押さえて床に座り込み、顔を青ざめさせていた。

彼女はか細い声で、哲也に、そして私に言い放った。

「哲也くん……私、赤ちゃんができたみたい」

私は足を止め、ゆっくりと振り返った。

周囲の客が息を呑み、ざわめきが広がる。

「妊娠?とんでもない修羅場だな」

「形だけの式じゃなかったのかよ。子供までいるなんて」

「奥さん、あまりにも惨めすぎるわ……」

私の声は、驚くほど冷静だった。

「彼女と、寝たの?」

哲也は手を伸ばしたまま、固まった。目は泳ぎ、唇を震わせるが、言葉にならない。

哲也の沈黙が、すべてを物語っていた。

私の胸がひどく締め付けられた。

妊活のために吐き気副作用がある排卵誘発剤を飲み、あの「家」を守るために耐えていた時、彼は他の女と肌を重ねていたのだ。

私は一歩ずつ、哲也の前へと戻った。

「七海、あれは事故なんだ。飲みすぎて、俺……」

パチン!

乾いた平手打ちの音が、ホール中に響き渡った。

全身の力を込めた一撃だった。

哲也は呆然として私を見た。

「殴ったのは、あなたが汚らわしいからよ」

一文字ずつ、声にこれ以上ない平静さを込めて言った。

「哲也、明日、役所で会いましょう」

若菜が哲也の腕の中で、さらに甲高い声を上げた。

「哲也くん、お腹が……赤ちゃんが……助けて、私たちの赤ちゃんを!」

その声で哲也は我に返った。

彼は若菜を抱きかかえ、私に向かって怒鳴った。

「いい加減にしろ!殴っただろ、罵っただろ、これ以上どうしたいんだ!

若菜は妊娠してるんだ!命がかかってるんだぞ!少しは大人になれ!」

私はもう何も言わず、ホールを出た。

私も妊娠している。悪阻で胆汁を吐き、夜中に足が攣って痛みで飛び起きる日々。検診の度に、一人で冷たい椅子の並ぶ病院に座り、幸せそうな夫婦を眺めてきた。

けれど今、若菜を抱えて外へ飛び出していく哲也の背中を見て、私はすべてを失った。

振り返ることなく、私は自分の腹部をそっと撫でた。

ごめんね、パパがいなくても、ママと二人で頑張って生きていこうね。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

R43658
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。