いつだって、花嫁は私じゃない第3話
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「ええ、あなたのせいよ。
悪いと思ってるなら、消えてもらえる?」
若菜の顔が強張り、涙が溢れ出した。彼女はふらりとよろめき、ひどいショックを受けたふりをした。
哲也は慌てて若菜を支え、私を睨みつけた。
「七海!なんて酷いことを言うんだ!若菜の体が弱いことを知ってるだろ!」
「酷い?」
かつて深く愛したこの男に対し、今は吐き気しか感じない。
「哲也、あなたの中では、愛人を守るのが義理で、正妻が抗うのは悪なのか?
いいわ、よく分かったわ」
私は頷き、一歩下がった。
「こんな茶番劇、もう付き合っていられない」
私は背を向けた。
こんなクズ男、欲しい奴にあげればいい。
私が立ち去ろうとした瞬間、哲也はハッとした。
彼の顔に、初めてパニックが浮かんだ。
この七年、私がどんなに騒いでも、最後には必ず許してきた。彼は私の妥協に慣れきっていた。
「七海!待て!説明させてくれ!」
彼の手が私に触れようとした、その時、背後で若菜が短く悲鳴を上げた。
「哲也くん……痛い……っ」
哲也の動きが止まった。
振り返ると、若菜が腹部を押さえて床に座り込み、顔を青ざめさせていた。
彼女はか細い声で、哲也に、そして私に言い放った。
「哲也くん……私、赤ちゃんができたみたい」
私は足を止め、ゆっくりと振り返った。
周囲の客が息を呑み、ざわめきが広がる。
「妊娠?とんでもない修羅場だな」
「形だけの式じゃなかったのかよ。子供までいるなんて」
「奥さん、あまりにも惨めすぎるわ……」
私の声は、驚くほど冷静だった。
「彼女と、寝たの?」
哲也は手を伸ばしたまま、固まった。目は泳ぎ、唇を震わせるが、言葉にならない。
哲也の沈黙が、すべてを物語っていた。
私の胸がひどく締め付けられた。
妊活のために吐き気副作用がある排卵誘発剤を飲み、あの「家」を守るために耐えていた時、彼は他の女と肌を重ねていたのだ。
私は一歩ずつ、哲也の前へと戻った。
「七海、あれは事故なんだ。飲みすぎて、俺……」
パチン!
乾いた平手打ちの音が、ホール中に響き渡った。
全身の力を込めた一撃だった。
哲也は呆然として私を見た。
「殴ったのは、あなたが汚らわしいからよ」
一文字ずつ、声にこれ以上ない平静さを込めて言った。
「哲也、明日、役所で会いましょう」
若菜が哲也の腕の中で、さらに甲高い声を上げた。
「哲也くん、お腹が……赤ちゃんが……助けて、私たちの赤ちゃんを!」
その声で哲也は我に返った。
彼は若菜を抱きかかえ、私に向かって怒鳴った。
「いい加減にしろ!殴っただろ、罵っただろ、これ以上どうしたいんだ!
若菜は妊娠してるんだ!命がかかってるんだぞ!少しは大人になれ!」
私はもう何も言わず、ホールを出た。
私も妊娠している。悪阻で胆汁を吐き、夜中に足が攣って痛みで飛び起きる日々。検診の度に、一人で冷たい椅子の並ぶ病院に座り、幸せそうな夫婦を眺めてきた。
けれど今、若菜を抱えて外へ飛び出していく哲也の背中を見て、私はすべてを失った。
振り返ることなく、私は自分の腹部をそっと撫でた。
ごめんね、パパがいなくても、ママと二人で頑張って生きていこうね。
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