いつだって、花嫁は私じゃない第1話
この話は約1880字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
夫の帰りを待っていた時、スマホに通知が一件届いた。
結婚式のWEB招待状だった。
タップした瞬間、流れ出したBGMに私は息を呑んだ。
それは、愛し合っていた頃に彼が何度も歌ってくれた、あの曲だった。
ただ、結婚して三年。私たちにはまともな結婚写真一枚さえないのだ。
「いつか、こんな式を挙げてくれるはず」……そんな淡い期待を抱き続けてきた。
だが、招待状の新郎の欄を見た途端、思考が真っ白になった。
私と婚姻届を出した彼と同姓同名だった。
呆然と見つめた先にいたのは、白いタキシードを身にまとい、愛おしそうに微笑む私の夫だった。「大事な取引先の結婚式に行く」と言って家を出たあの男が……
そして隣に並ぶ新婦も、よく知る顔だ。
夫が事あるごとに口にしていた可愛い幼馴染。
写真の下には、小さい文字でこう添えられていた。
【待っていたよ。諦めなくてよかった】
* * *
夫の帰りを待っていた時、スマホに通知が一件届いた。
結婚式のWEB招待状だった。
タップした瞬間、流れ出したBGMに私は息を呑んだ。
それは、愛し合っていた頃に彼が何度も歌ってくれた、あの曲だった。
ただ、結婚して三年。私たちにはまともな結婚写真一枚さえないのだ。
「いつか、こんな式を挙げてくれるはず」……そんな淡い期待を抱き続けてきた。
だが、招待状の新郎の欄を見た途端、思考が真っ白になった。
私と婚姻届を出した彼と同姓同名だった。
呆然と見つめた先にいたのは、白いタキシードを身にまとい、愛おしそうに微笑む私の夫だった。「大事な取引先の結婚式に行く」と言って家を出たあの男が……
そして隣に並ぶ新婦も、よく知る顔だ。
夫が事あるごとに口にしていた可愛い幼馴染。
写真の下には、小さい文字でこう添えられていた。
【待っていたよ。諦めなくてよかった】
笑えるのは、三年前、高橋哲也(たかはし てつや)と結婚した時、ただ役所で籍を入れただけだったということ。
「今は起業したばかりで苦しい時期だ。我慢させて申し訳ない。いつか必ず豪華な式を挙げるから」
彼のその言葉を、私は信じた。
ウェディングドレスも指輪もなかったけれど、その思いだけで、私・高橋七海(たかはし ななみ)は三年間尽くしてきた。
そして今、彼は確かに豪華な式を挙げている。ただ、隣にいるのは私ではない。
招待状のBGMは、大学時代に彼が寮の下でギターを弾きながら歌ってくれた思い出の曲。
「七海、お前がドレスを着る日は、俺がこれを歌うよ」
音楽はまだ流れているのに、スマホすら手から滑り落ちそうになる。
喉の奥に冷たい塊が詰まったように、泣きたくても声が出なかった。
私は車のキーを掴んで外へ飛び出した。式場の場所なんて聞かなくてもわかっていた。半年前、私が哲也と下見に行き、手付金まで払ったあの場所だから。
あの時、哲也は言った。
「若菜が帰国したばかりで住むところがないんだ。この金は彼女の入居資金に使わせてくれ。式は延期しよう」
私は「いいよ」と答えた。
困っている人がいるなら助けたい、そう思ったから。
今思えば、私こそが、笑いものだった。
式場に到着すると、入り口に飾られた巨大なウェルカムボードが目に刺さった。
私はホールへと突き進んだ。
哲也は私に背を向け、司会者と進行の確認をしていた。私に気づいた瞬間、彼の顔から笑顔が凍りついた。
哲也は顔色を変えて駆け寄ってくると、私を角へと引きずり込んだ。その目は動揺で泳いでいる。
「七海!何しに来たんだ!
勘弁してくれ!今日の式は重要なんだ!」
その姿を見て、私はただ虚しさだけを感じた。
「哲也……忘れたの?私があなたの妻だってこと」
私はボードを指差した。
「他の女と結婚式を挙げながら、よくもそんな口が叩けるわね」
哲也の顔に一瞬だけ気まずさが走ったが、すぐに開き直ったような表情になった。
「若菜とは形だけの結婚だ。本気にするな」
彼はさも自分が被害者であるかのように、深く溜息をついた。
「彼女のおばあさんの容態が良くないんだ。最期に孫の晴れ姿を見せてあげたいって……
若菜には恋人もいないし、頼れるのは俺だけなんだ。死に際の老人の願いを無下にするのか?」
助ける?
タキシードを着て、披露宴の準備をして、招待状までバラまくことが「助ける」ことなの?
「七海、そんな器の小さいことを言うなよ」
哲也は不機嫌そうに眉をひそめた。
「ただの形式だろ?籍も入れてないし、そこまで怒ることないだろ?」
そこへ、木村若菜(きむら わかな)が歩み寄ってきた。
彼女が着ているドレスは、私がデザインしたものだった。
デザイン画を嬉々として哲也に見せた時、彼は「高すぎる。金ができてからにしよう」と一蹴した。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)