あなたを愛した十年は、もう終わった第2話
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冴香の家には、これまで何度も足を運んだことがある。
彼女は静かな暮らしが好きだから両親とは一緒に住みたくないし、恋愛にも興味がなく、一人で気楽に暮らすのが性に合っていると言っていた。
あの頃、私が少しでも落ち込むと、冴香はいつも自分の家に呼んでくれた。温かいスープを作って、夜が明けるまでずっとそばにいてくれた。
私は何度となく、あのソファに座って息もできなくなるほど泣いた。
けれど今、こうしてその家の前に立ってみると、すべてがひどく皮肉に思えた。
何度もインターホンを鳴らし、しばらくすると、ようやく中から足音が聞こえてきた。
ドアが開いた瞬間、冴香は真っ青な顔で私を見つめた。
彼女は男物のコートを羽織っていた。
そのコートには見覚えがあった。
去年の冬、私が朗真のために買ったものだった。
彼は厚すぎて動きづらいと言い、一度袖を通したきり、二度と着ようとしなかった。
気に入らなかったわけじゃなかったんだ。
とっくに別の女へ渡していただけだった。
冴香の目に、一瞬動揺が走った。「寧々、どうしてここに……?」
私は答えず、彼女の向こうにある部屋の中へ目を向けた。
ダイニングテーブルには二人分の食器と箸が並び、スープからはまだ湯気が立っている。玄関の棚には、朗真がいつも使っている車のキーまで置かれていた。
冴香は目を赤くし、私の手を取ろうとした。「寧々、お願い、話を聞いて」
私は一歩後ろへ下がり、その手を避けた。「何度も病院に付き添って、私が死にたいって話すのを聞いてたとき……何を考えてたの?」
冴香の目から、堰を切ったように涙がこぼれ落ちた。「寧々……違うの、そんなつもりじゃなかったの」
彼女を見つめ、震える声で言った。「冴香、私が聞いてるのはそんなことじゃない。この3年間、泣いてる私を抱きしめてたとき、一瞬でも私に申し訳ないって思ったことはあった?」
彼女の顔からさらに血の気が引いた。唇がわずかに動いたものの、声にはならなかった。
私は手を上げ、彼女の頬を平手で打った。
乾いた音が響き渡り、部屋の中が死んだように静まり返った。
次の瞬間、朗真が寝室から飛び出してきた。
彼は冴香を自分の背後に庇った。「寧々、いい加減にしろ!」
その声には怒りが滲み、私を見るその目には、まるで理不尽に騒ぎ立てる他人を見るかのような苛立ちと嫌悪が浮かんでいた。
冴香を庇う彼の姿を見た瞬間、心臓が締めつけられるように痛んだ。
3年前、うつ状態に陥った私は屋上の縁に立ち、泣きながら彼に、あの女はいったい誰なのかと問い詰めた。
あの日は風が強く、私は寒さで全身を震わせていた。背後では両親が泣き叫び、兄はその場に膝をつき、頼むから降りてきてくれと必死に懇願していた。
朗真は人だかりから離れた場所に立っていた。顔は真っ青だったのに、私にかけた言葉はそれだけだった。
「もうこんな馬鹿な真似はやめろ」
彼は最後まで、私に答えをくれなかった。
なのに今、冴香が少し泣いただけで、彼はこんなにも取り乱している。
私はもう何も言わず、そのまま背を向けて立ち去った。
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