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あなたを待つことがあった第3話

この話は約2618字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

その夜、私は蒼真との共通の友人たちが集まる飲み会に一人で顔を出した。

私は何気なく尋ねた。「柊柚葉さんのこと、知ってる?」

その瞬間、席が水を打ったように静まり返り、誰も口を開こうとしなかった。

皆の気まずそうな反応を見て、私はようやく悟った。

蒼真に婚約者がいることは、彼らの間では周知の事実だったのだ。

事情をよく分かっていない一人が、空気を読まずに口を開いた。「知ってるよ。蒼真さんの婚約者だろ?」

別の友人が慌ててフォローするように続けた。「ほら、蒼真があんたを彼女だって紹介した時、実家の事情があるのに健気だなって、みんな感動してたんだぜ」

「感動?」

「実家があんたよりずっと家柄のいい婚約者を決めたってのに、それでも蒼真はわざわざ時間を割いてあんたの機嫌を取ってくれてるんだろ。そりゃ男気があるっていうかさ」

私はテーブルの下で両手を強く握りしめ、全身の血の気が引いていくのを感じた。

「婚約者がいるのに、私を彼女として扱っていた。それはただ騙していただけじゃない」

次の瞬間、誰かが鼻で笑う音が聞こえた。

「当の柚葉さん本人があんたの存在を気にしてないってのに、何をそんなにムキになってるんだよ?

綺織、向こうの家同士の方が先に話がついてたんだから、あんたは後から来たようなもんだろ。言葉は悪いけど、あんたの方が愛人みたいな……」

その言葉が出た瞬間、場の空気は完全に凍りついた。

しかし、私の目には、他人の修羅場を面白半分に見物するような彼らの視線がはっきりと映っていた。

「綺織、そんなに思い詰めるなよ」

それ以降の言葉は、もう耳に入ってこなかった。

我に返った時、私はすでに居酒屋の外に出いた。

最終的に、私はその場にいた全員のLINEをブロックして削除した。

翌日は母の命日だったため、私は仕事を休んだ。

母が生前好きだったカラーの花を買って、霊園へと向かった。

到着すると、墓石の前にはすでに花束が供えられていた。

同じカラーの花で、まだ新しく、朝露も乾ききっていなかった。

花束にはメッセージカードが添えられており、私はそれを開いた。

驚いたことに、それは柚葉からのものだった。

【おば様、私は蒼真の婚約者です。

生前、他人の家庭を壊すような人間を最も憎んでいたと伺いました。どうかご安心ください。これからは私が代わりに、綺織さんが真っ当な道を歩むよう導いていきますから】

母は生涯、家庭を壊す愛人の存在を心底憎んでいた。

父が外に女を作った年、母は台所で私を抱きしめたまま一晩中泣き明かした。

翌日、涙を拭った母は私に一言だけ言った。

「綺織、まっとうな人として誇りを持って生きなさい」。

母は死ぬまで父を許すことはなかった。

なのに今、見知らぬ女が母の墓前で、母の遺志を盾にしてその娘を侮辱している。

「お母さん、私は泥棒猫なんかじゃないよ。彼らが私を3年間騙し続けていただけなの」

その日の夜、私はこの一連の出来事を蒼真に話し、問い詰めた。

「どうして彼女が私のお母さんのお墓の場所を知っているの?」

「あの日は俺が立て込んでたから、彼女が気を利かせて代わりにお参りに行ってくれたんだよ」

「彼女に私のお母さんのお墓へ行かせたの?一体どういう立場で?」

蒼真の目には少しのうんざりした色が浮かんだ。

「そこまで深く考えてなかったんだよ」

「蒼真、あなたは彼女を私のお母さんのお墓に行かせたのよ?

彼女はあなたの婚約者だと名乗ったわ。お母さんが草葉の陰でどう思うか、少しも考えなかったの?」

蒼真はわざとらしくため息をつき、手を挙げて眉間を揉んだ。

この仕草は何度も見たことがある。彼が苛立っている時の癖だ。

「綺織、会うたびに彼女のことばかりじゃないか。もう彼女の話は終わりにしないか?」

蒼真の声は低く沈み、この話題に心底辟易しているようだった。

私は彼を見つめ、ふと目の前にいる男が見知らぬ他人のように思えた。

私は両拳を強く握りしめ、かすれた声で口を開いた。

「最後に1ヶ月だけ時間をあげる。私たちの関係を公表するか、さもなければ私が出ていくかよ」

蒼真は私の目が赤く充血しているのに気付いて少し驚いた顔を見せ、そして頷いた。

「わかった」

その後の1ヶ月間、彼はまるで付き合いたての頃に戻ったかのように優しく振る舞った。

わざわざ自分からスマホを差し出し、「ほら、何も怪しいことはないだろう」とアピールしてくるほどだった。

しかしある日、私は退社した後、蒼真と一緒に夕食を取ろうと考えた。

だが、彼の車がビルのエントランスに停まっているのが見えた。

ちょうど助手席から柚葉が降りてくるところだった。

蒼真は手を伸ばして彼女の涙を拭い、優しく彼女を胸に抱き寄せた。

私は通りの反対側に立ち尽くし、彼が彼女の背中に手を回し、軽くポンポンと叩くのをただ見つめていた。

夜、帰宅した彼の手には花束が握られていた。

「今日は会社が早く終わったから、早めに君に会いに来たよ」

私はその花束を受け取らなかった。

「今日の午後、あなたが柚葉を抱きしめているのを見た」

「彼女が落ち込んでいたから、少し慰めただけだ」

「慰めるのに抱きしめる必要があったの?」

「綺織、俺は俺たちの関係をなんとかしようと努力しているんだ」

「3年間も努力して、その結果がこれなの?」

私が言い終わるや否や、彼は突然手に持っていた花束を床に激しく叩きつけた。

「君はそうやって騒ぎ立てなきゃ気が済まないのか?俺だって疲れてるんだよ!毎日あっちこっちに気を遣って、全員の相手をしてる。俺がどれだけ大変か分かってるのか?」

「だから、私だけが黙って待つべきだって言うの?」

「君は今すぐ答えが欲しいのか?」

私は静かに頷いた。

蒼真の目は暗く沈み、怒りで胸が激しく上下していた。

「いいだろう。今言ってやる。君が欲しい物を俺は与えられない」

部屋の中が不自然なほど静まり返った。

その言葉を口にした直後、彼自身が真っ先に呆然とした表情を浮かべた。

「綺織、俺はそういうつもりじゃ……」

その日の夜、私は荷物をまとめてゲストルームに移ったが、彼は止めようとしなかった。

ゲストルームのベッドに横たわりながら、3年前に初めて彼の家に行った日のことを思い出した。

あの頃は、辛抱強く待っていればいつかは私の順番が回ってくるのだと信じて疑わなかった。

今になってやっと分かった。恋を巡り、一生懸命相手を愛しているのに愛されていない方がどれほど惨めなのかを。

そして私は、正に愛されてない側、ただの部外者だ。

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