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あなたとの結婚、やめました第2話

この話は約2035字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

寝室を片づけていると、ベッド脇のサイドテーブルの裏から、古い充電ケーブルが出てきた。

半年前、昌也のスマホは、まさにその場所で充電されていた。

友加里のことで初めて本気でぶつかったのは、あの夜だった。

午前1時を過ぎた頃、昌也がシャワーを浴びに行くと、スマホの画面が光った。

友加里からだった。

【おやすみなさい、長塚さん。少しは休んでくださいね】

数分後、浴室から出てきた彼はメッセージに目をやり、何もおかしくないと言わんばかりに、ごく自然に返信した。

【おやすみ、友加里。君もな】

私は彼を見た。

「いつも夜中にこんなやり取りを?午前1時に、おやすみって送り合う?」

昌也が顔を上げた。

「友加里は俺の秘書だ。今夜は遅くまで仕事をしてたんだよ」

「こんなことまで言う必要があった?」

彼の表情から、余裕が消えた。

「珠理、たかが一通のメッセージだろ」

「男の人が午前1時に私へ同じようなメッセージを送ってきても、昌也は平気なの?」

その夜、私たちは初めて友加里のことで激しく言い争った。

私は、彼女とは仕事上の一線を守ってほしいと頼んだ。

けれど昌也の答えは、たった一言だった。

「おやすみって一言で、そこまで怒る必要があるのか?」

――

翌日の午後、彼は友加里を予約制の家具ショールームへ連れていった。

二人で選んだのは、結婚後に私たちが暮らすはずの新居に置くソファとダイニングテーブルだった。

帰宅した彼に、なぜ友加里を連れていったのかと尋ねると、昌也はコートを脱ぎながら答えた。

「新居の準備を手伝ってもらってるんだ」

「二人の距離が近すぎて嫌だって、昨日言ったばかりでしょう」

「お前が嫌だと言ったら、俺は何でも言うとおりにしなきゃいけないのか?」

また喧嘩になった。

それからは、同じようなことの繰り返しだった。

ある日、昌也の車の助手席に友加里が座っているのを見つけた。

私は車のそばに立ち、なぜ彼女がそこにいるのかと尋ねた。

昌也は数秒、私を見つめると、車の反対側へ回り、友加里のために助手席のドアを開けた。

「乗ってろ」

友加里はためらった。

「長塚さん、私は後ろでも......」

「いや」

彼は身をかがめ、自分の手で彼女のシートベルトを締めた。そして、開いたドア越しに私を見た。

まるで、私がどう出るかを待っているようだった。

その日、私は怒りを抑えられなかった。

それでも昌也は、少しも取り乱さなかった。

「誰が隣に座るなんて、どうでもいいことだろ」

「私が気にするって、わかってるでしょう」

「なら、気にしないようになれよ」

その後、私は高熱を出した。

昌也は、その夜は家にいてくれると約束していた。けれど、いつの間にかまた友加里のことで言い争いになった。

結局、彼は私の目の前で彼女に電話をかけた。

「支度しておけ。開沢へ行くぞ」

開沢(かいざわ)には、長塚家の別邸があった。

私はベッドの上で、どうにか体を起こした。

「でも私、熱があるのよ......」

「薬は棚に入ってる」

「どうして?家にいるって約束してたのに......」

彼はもうコートを羽織っていた。

「そのつもりだったさ。また喧嘩にしたのはお前だろ」

そう言って、ドアを閉めて出ていった。

その夜、激しい雨が降っていた。

熱は上がり続け、とうとう私はタクシーを呼んで、一人で救急外来へ向かわなければならなくなった。

看護師が点滴の準備をしている間に、私はスマホを取り出し、メッセージを打った。

【つらいよ......】

送信する前に、友加里の最新の投稿が目に入った。

別邸のテラスが、暖炉の火に照らされている。テーブルには、グラスが二つ並んでいた。

【静かな夜って、やっぱりいいですね】

写真の端には、昌也の腕時計が写っていた。ひと目で彼のものだとわかる、見慣れた時計だった。

しばらく、その写真を見つめていた。

そして、打ちかけのメッセージを消した。

あの夜を境に、私は何も求めなくなった。

昌也の帰りが遅くても、どこへ行っていたのか聞かなかった。友加里が彼の車に乗っていても、言い争わなかった。直前になって二人の約束を取り消されても、返す言葉は一つだけだった。

「わかった」

夜中に友加里から電話がかかってきて、昌也が私の目の前で部屋を出て電話に応じることもあった。

私はただ寝返りを打ち、そのまま眠った。

昌也は満足していた。

一度、彼が流佳たちに話しているのを聞いたことさえある。

「最近はずいぶん落ち着いたよ。前は何でもいちいち問い詰めてきたけど、ようやく騒ぎ立てるほどのことじゃないってわかったらしい」

みんな、私が以前より付き合いやすい女になったと思っていた。

私は手の中の充電ケーブルに目を落とし、くるくると巻いて、ごみ袋へ放り込んだ。

かつての私なら、彼のスマホを見つめながら、説明してくれるのを待っていただろう。

今の私なら、目の前にロックのかかっていないスマホを置かれても、わざわざ見ようとは思わない。

これが、彼の望んだことだ。

昌也は、私が黙っているのを、ようやく彼の言うことを理解した証だと思っていた。

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